2022年6月10日 | 虫
冬場も虫に刺される?虫さされの原因になる虫とその対処法について解説
虫さされが話題にのぼるのは、主に蚊が増える夏です。しかし、人間を刺したり血を吸ったりする虫は蚊以外にも少なからず存在し、秋・冬でも虫に刺されることがあるものです。
今回は、寒い季節でも刺すことのある虫とその生態をご紹介しながら、虫に刺されないようにする予防法と、刺された場合の対処法についてご説明いたします。
「虫さされ」といえば夏
夏になると、スーパーマーケットやドラッグストアの店頭に虫よけスプレーや蚊取り線香、電気式蚊取り器がずらりと並びます。しかし気をつけて見ると、虫さされ薬は一年を通じて販売されています。秋や冬、気がつかないうちに虫に刺され、つける薬を探したことはないでしょうか。
虫は夏に限らず秋や冬にも活動します。アルミサッシの窓やコンクリートで基礎を固めた現代の住宅は密閉性が高く、エアコンやヒーター、こたつなどの暖房機器も性能が向上したので、昔なら主に夏に見かけた虫も、活動時期が長くなっている傾向にあります。
現代は「季節に関係なく虫に刺される」と考えた方がよいのかもしれません。ここからは秋冬でも刺されることがある代表的な虫を「吸血する虫」と「刺す虫」に分けてご紹介します。
ひとや動物を吸血する虫
ひとや動物の血を吸う虫はいろいろありますが、主なものを以下にご紹介いたします。
トコジラミ
- 分類 カメムシ目トコジラミ科
- 大きさ 体長5~8㎜
- 特徴 赤みのある褐色、楕円形の平たい体つき
- 害 主に夜に出てきて血を吸う
中国では代表的な吸血害虫で、日本には江戸時代末期に外国の船を通じて侵入したと考えられています。昼間は家具の裏やベッドの下に隠れていて、暗くなると出てきて血を吸う夜行性の虫です。
トコジラミについては、「トコジラミが発生する原因とは?トコジラミの習性を知って対策しよう」の記事で詳しく解説しています。
ノミ
- 分類 ノミ目
- 大きさ 体長4㎜以下
- 特徴 後ろ足が発達している
- 害 吸血する
たいへん小さな虫で、「蚤(ノミ)の心臓」(気が小さい、臆病な、という意味)というように、小さいもののたとえによく使われます。メスはオスよりも大きな体をしています。ひとのほか、イヌやネコなどの哺乳類、鳥類に寄生し、血を吸います。住環境が改善された昨今では、ネコノミによる被害が多くなっているようです。
ノミについては、「ノミが発生する原因とは?ノミの退治方法と予防対策」の記事をご覧ください。
マダニ
- 分類 ダニ目マダニ科
- 大きさ 体長2~7㎜
- 特徴 褐色で、8本の足がある
- 害 吸血する
主に野外に住む虫で、成虫はイノシシやシカなど大型の哺乳類に寄生します。寒さに非常に強いので、真冬に雪が降る日でも吸血することがあります。ひとや動物に寄生して血を吸う過程で伝染病を媒介することがあり、注意すべき虫です。マダニの活動が活発になる時期になると、マダニに咬まれることにより、日本紅斑(こうはん)熱や、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)にかかったニュースが報じられるようになります。
マダニについては、「マダニによる感染症と症状について マダニの習性を知って対策しよう」の記事を参考にしてください。
イエダニ
- 分類 ダニ目オオサシダニ科
- 大きさ 0.6~1㎜
- 特徴 赤、または黒い体をしている
- 害 血を吸われると非常にかゆい
クマネズミ類に寄生するダニで、ネズミの近くでよく見かける虫です。日本には大正時代に渡来したといわれ、人間も刺して吸血します。
イエダニについては「イエダニの駆除や対策方法。刺された場合の症例も解説」の記事をご覧ください。
【参考】
「トコジラミ」世界大百科事典(第2版)、平凡社
「ノミ」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館
「マダニ」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館
「イエダニ」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館
ひとや動物を刺す虫
血を吸うわけではありませんが、ひとや動物を刺して時には病気を感染させる虫に、ツツガムシがあります。
ツツガムシ
- 分類 ダニ目ツツガムシ科
- 大きさ 体長約1mm
- 特徴 体は全体が短い毛で覆われている
- 害 幼虫はネズミや鳥に寄生し、咬着した部位の組織を溶かして吸う
幼虫は6〜10月ごろに現れますが、10〜2月に多発する種もあります。つつが虫病は、ツツガムシの中で代々引き継がれている病原体が、人を刺した時に注入されて起こります。
つつが虫病は、ダニの一種「ツツガムシ」を媒介とする感染症。刺されてから5〜14日で39度以上の発熱や発疹、リンパ節の腫れ、倦怠(けんたい)感、頭痛などの症状が現れる。
【引用元】むつ管内で男児がつつが虫病 青森県内で今年初確認|デーリー東北
ツツガムシについては、「ツツガムシが発生する原因とは?修正を知ってつつが虫の対策をしよう」の記事で詳しくご説明しています。
【参考】「ツツガムシ」ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
虫に刺された際の対処法
ここまで、ひとを刺す虫についてご紹介してきました。それでは、このような虫に刺されたらどのようにすればよいのでしょうか。共通する対処法は以下のとおりです。
- 傷口部分をよく洗う
- 傷口周辺の状態を観察する
- 虫さされの薬を塗る
- しつこいかゆみにはステロイド軟膏
- 皮膚科を受診する
- かゆくてもかきむしらない
- 体調の変化を注視する
先述のとおり、刺す・吸血する虫の中には、病原体をもっていて感染症をもたらすものがあります。あわてて虫さされの薬を塗る前に、よく洗って傷口の場所とそのまわりの状態を確認しましょう。また吸血した虫が肌に残っている場合や、虫を捕まえて医師に持って行くと診断の確実性が上がります。症状を伝えることは大切ですが、それよりも「何の虫に刺されたか?」がわかる方がその後の治療に役立ちます。
市販の虫さされ薬ではかゆみが収まらない場合はステロイド入りの軟膏を使いますが、顔や首など皮膚の薄い部分には使えないものもあるので注意が必要です。大切なのは、かゆくても傷口をかかないことです。傷が広がるばかりでなく、ばい菌が入って化膿すると治癒が遅くなります。また、先述のとおり、虫の種類によっては日本紅斑熱や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、つつが虫病のような感染症を引き起こす場合もあるので、刺された後の体調の変化がないかどうかにも注意を向けましょう。
虫に刺されないようにする予防法
では、虫に刺されないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。虫を寄りつきにくくする、また刺されにくくする方法はいくつかあります。外出時の注意や、衣服に関する工夫、家の中での注意などに分けてご説明いたします。
外出時の注意
- 草の多いところには分け入らない
- 虫よけスプレーを使う
草の多いところは虫にとって過ごしやすく隠れ場所になるため、吸血する虫や人を刺す虫が潜んでいることがあります。山や林など草むらの多いところに出かけるときは、外出前に虫よけスプレーをつけておくとよいでしょう。
また、ここで紹介した虫以外にも、ヘビやムカデなどの危険な生物が潜んでいるかもしれませんので、草の多いところでは注意が必要です。
衣類に関する工夫
- 屋外では長袖、長ズボン、帽子、靴下を身に着ける
- 虫が取りつきにくい素材を選んで着る
- 帰宅後、家に入る前には衣類を振りはたく
虫は、汗のにおいや体温、呼気に含まれる二酸化炭素や水蒸気に敏感に反応します。屋外に出るときには、できるだけ腕や足を覆うようにしましょう。
家の中での注意
- ペットに寄生する虫に注意
- 掃除のときは部屋の隅や家具の裏、下などのほこりを取り除く
室内でイヌやネコを飼っている場合、ペットの体にノミやマダニがついていないか気をつけましょう。
このように、完全に防ぐことはできなくても、少しでも虫さされの被害を少なくする工夫をして暮らすように心がけましょう。
虫さされを防いで快適に
一般的に虫さされといえば、暖かくなる春から秋口まで注意が必要で、蚊はもちろんのこと、スズメバチ・アブ・ブユ・クモ・ムカデ・ケムシなどがあります。
しかしご説明したように寒くなっても虫に刺される可能性は十分あります。虫によって活動時期や生息場所は違いますが、服装の工夫や家まわりの環境整備などで一年を通して虫さされを防ぎましょう。また、屋外で長時間過ごすときには、虫よけのための薬剤を用意しておくと安心です。
【参考】
谷川力編『写真で見る有害生物防除事典』オーム社、2007年
川上裕司編『アレルゲン害虫のはなし』朝倉書店、2019年