2020年11月23日 | 園芸・ガーデニング
シクラメンの育て方。翌年も咲かせる夏の休眠法や注意点などを解説
うつむき加減で、上に開く花びらの愛らしさが印象的なシクラメン。毎年のように新しい品種が登場し、お歳暮やクリスマスギフトとしても人気のある植物です。
今回は、シクラメンの基礎知識と育て方のポイント、具体的な育て方と休眠の方法、トラブルと対処法などについてご紹介いたします。
シクラメンの基礎知識
はじめに、寒い季節を彩るシクラメンについて知識を深めましょう。
シクラメンの概要
サクラソウ科シクラメン属の多年草で、「塊茎(かいけい)」と呼ばれる球根の組織をもちます。花は10~3月頃まで観賞でき、ほとんどの品種は室内で管理します。夏の間は、後にご紹介する休眠法または非休眠法で冬の開花に備えます。
シクラメンは、花の見た目を「篝火(かがりび)」にたとえた「カガリビバナ」の和名をもちます。また、別名「ブタノマンジュウ」は、放し飼いの豚が地植えの球根を食べたことに由来する英語「sow bread」(メス豚のパン)を、「豚の饅頭(まんじゅう)」と翻訳したものです。
シクラメンの歴史
シクラメンの原種は15~20種類ほどで、17世紀頃にパレスチナやシリアなどからヨーロッパへ広がったとされます。「アルプスのスミレ」とも呼ばれ、過去には球根を食用にしました。19世紀から品種改良が盛んになり、1870年代に大輪の品種、1906年には代表的な園芸用の品種「ビクトリア」が誕生します。
国内に導入されたのは明治時代で、1920年代に岐阜県で本格的な栽培が始まりました。1970年代には、ほかの農業からシクラメンの栽培に転向する人々が増え、温室技術の発展とともに各地で生産されるようになりました。
シクラメンの分類
シクラメンの品種は非常に多く、サイズで大輪系、中輪系、小輪系とガーデン用に分けたり、系統でパーシカム(ノーマル)系、パステル系、F1シクラメン、ミニシクラメンに区別したりします。簡単に、原種・室内用・ガーデン用で分類する場合もあります。さらに花の形状から、一般的なストレート、花びらにすじが入るシャワー系、ギザギザした花びらのウェーブ系などと分けたり、咲き方によってノーマル咲き、八重咲き、フリンジ(フリル)咲き、ロココ咲き、ベル咲きなどと分類したりします。そして近年では、黄や紫の花、香りを放つタイプや葉が銀色に見えるタイプなど、続々と新品種が登場しています。
ガーデン用のシクラメンは、ほかの草花と寄せ植えにすることも可能です。寄せ植えについては、「【寒さに負けない!】冬の寄せ植えにおすすめの植物12選」の記事もご覧ください。
シクラメンの選び方
全体的に茎や葉がイキイキとして、大小のつぼみがついたものを選びましょう。シクラメンの花の数は、葉の本数に比例します。また、土から球根の頭が見えるものは、病気になりにくい傾向があります。
球根類については、「おすすめの秋植え球根9選」「【春にきれいに咲かせたい!】秋植え球根の植え方を紹介」の記事もご覧ください。
シクラメンの育て方のポイント3つ
育て方のポイントには、次の3点が挙げられます。
① 日当たりと温度
冬の室内では、レースカーテン越しの日光が当たる場所に鉢を置きましょう。開花を長く楽しむには20℃以上の環境を避け、なるべく昼夜の温度差を減らしてください。寒さが苦手な品種は、後に述べる方法で保温をします。
② 水やりと花がら摘み
水やりは毎日ではなく、土の表面が乾いたら与えてください。また、咲き終わった花(花がら)や枯れた葉をこまめに摘み取ることも育て方のポイントです。シクラメンの観察を日課として、同時に病害虫のチェックもおこないましょう。
③ 夏越しの方法
原産地のシクラメンは、雨季に開花し乾季に休眠します。日本の夏は乾季に相当するため、休眠させるときは日陰の風通しがよい場所で管理してください。また、非休眠法(後述)として葉を残しながら夏を越す方法もあります。
シクラメンの栽培に必要なもの
シクラメンを育てるときは、細く長い注ぎ口のジョウロを用意しましょう。肥料は、固形または液体のものを定期的に与えます。植え替えの際は、ひと回り大きな鉢、草花用かシクラメン用の培養土、鉢底用の石とネット、シャベル、園芸用のはさみなども必要です。
シクラメンの育て方と休眠の方法
それでは、シクラメンの育て方と休眠の方法についてご紹介いたします。
日当たりと置き場所
開花中は、日当たりのよい場所で管理しましょう。
室内用のシクラメン
耐寒温度が5~10℃くらいのシクラメンは室内で管理し、日中はレースカーテン越しの日光を当てましょう。ただし20℃以上の環境では、1ヵ月程度しか花を楽しむことができません。昼間は暖房のない部屋を選ぶなど、なるべく昼夜の温度差が少ない環境で管理してください。
夜間に10℃を下回る場合は、不織布(ふしょくふ)などで鉢の周りをおおって保温します。また、室内ではエアコンやストーブの風が当たらない場所に置きましょう。
屋外用のシクラメン
0℃まで耐えるシクラメンは、日の当たる屋外でも管理できます。雨の日は鉢を軒下(のきした)などに移動し、雪の日や霜が降りる日は玄関などに取り込んでください。地植えにする場合は、樹木の根元など直射日光の当たらない場所を選び、冬は敷きわらなどで保温しましょう。
水やりのポイント
一般的な鉢植えは、土の表面を観察して乾いていたらたっぷりと水やりをします。ジョウロの注ぎ口を土に近づけて静かに与え、球根や茎の根元に水をかけないようにしましょう。午前中の暖かい時間帯に行い、暖かい室内では霧吹きで葉にも水を与えます。水やりの後は受け皿に出た水を処分し、加湿を防いでください。
下から水を吸わせる底面給水(ていめんきゅうすい)のタイプは、貯水部分が空になったら深さの3分の2程度まで水を追加します。地植えのシクラメンは、ほとんど水やりの必要がありません。
日々の管理と葉組み(はぐみ)
咲き終わった花や黄色くなった葉は、手で軽くねじって根元から引き抜きます。はさみを使うと切り口から雑菌が入る心配があるので、手で作業してください。茎が途中で折れたときは、根元から抜き取って病気を予防しましょう。
月に1回のペースで、花の茎を中心に寄せて葉を外側へ移動する「葉組み」をします。さらに、中心まで日光が届くように葉を放射線状に広げ、葉のとがった部分を下に向けて見栄えをよくしましょう。
肥料の与え方
一般的な鉢植えには、生育期に液体肥料を7~10日に1回、または固形肥料を2ヵ月に1回のペースで与えます。固形肥料は球根に触れないよう、鉢の縁に置いてください。底面給水の鉢では、同様のタイミングで液体肥料を貯水部分に入れて与えます。
夏越しの方法~休眠法と非休眠法
夏越しの方法は次の通りです。休眠法はドライ法、非休眠法はウェット法とも呼ばれます。
休眠法で夏越し
休眠法は、葉をなくして球根だけで夏を越す方法です。花期が終わる4月頃から肥料を中止して、徐々に水やりの回数を減らしてください。新しい葉が出なくなったら、水やりも中止します。5月以降は屋外管理とし、日陰で風通しがよく雨の当たらない場所に置きます。
球根を触って硬ければ、順調に休眠しています。柔らかい場合は腐敗しているので、残念ですが処分しましょう。8月の終盤から水やりを再開し、下記の方法で植え替えます。休眠法で夏を越した株は、年が明けた頃に開花します。
非休眠法で夏越し
非休眠法は葉を残したまま夏を越す方法で、水やりは通常と同じタイミングで続けます。底面給水の鉢やガーデン用のシクラメンは、非休眠法で育てましょう。花期が終わったら肥料を中止し、数時間だけ日光の当たる半日陰で管理します。
地植えのシクラメンは、梅雨の前に掘り上げて鉢に植え替え、非休眠法で夏を越します。秋になったら、元の場所に植えましょう。非休眠法で夏を越した株は、休眠法よりも1ヵ月ほど早く開花することが一般的です。
植え替えの方法
シクラメンは生育が速いので、毎年9月頃に植え替えをしてください。ひと回り大きな鉢を用意して、ネットに入れた鉢底石を置きます。休眠法で夏を越した株は、鉢から取り出して土を落とし、根を半分ほど切りそろえてから植えつけます。非休眠法の株は、根の土を軽く落としてから植えつけましょう。
鉢に土を入れてシクラメンを置き、球根の頭が見えるように浅く植えつけてください。たっぷりと水を与えて、数日間は日陰で管理します。最高気温が30℃を下回ったら、肥料も再開して冬に備えましょう。
シクラメンの増やし方
原種やガーデン用のシクラメンはタネで増やせますが、発芽率はやや低めです。タネを採る場合は、異なる株の中で形のよい花を残し、人工的に授粉します。実がついて茶色く熟したら、切り取ってタネを出しましょう。
すぐにまくときは、洗ってからタネまき用の土にまき、軽く土でおおいます。乾燥させないように管理すると1週間ほどで発根し、1ヵ月ほどで発芽します。保管するときは、採り出したタネを乾燥させて紙の袋などに入れ、秋にまきます。
シクラメンのトラブルと対処法
最後に、シクラメンのトラブルと対処法についてご紹介いたします。
しおれたときの対処
底面給水の鉢は、水の不足に気づきにくいので注意しましょう。葉がしおれるほど乾燥したときは、応急処置として土の表面から水を与え、受け皿に出た水を処分してください。全体的に回復したら、通常の水やりに戻します。
一般的な鉢植えがしおれたときは、鉢を新聞紙で包んで葉や茎を上に向かせます。水を張ったバケツなどに鉢の底を浸して、20~30分吸水させてください。
かかりやすい病気
咲き終わった花や傷んだ茎などに、灰色かび病が発症することがあります。灰色かび病は、気温が低く湿度が高い状況で被害が広がる病気です。咲き終わった花をこまめに摘み取り、病気が疑われる部分はすぐに取り除いてまん延を防ぎましょう。
灰色かび病については、「【被害が広がる前に対処しよう!】灰色かび病の症状と対策について」の記事で詳しくご紹介しています。
被害に遭いやすい害虫
5~9月頃のシクラメンには、アブラムシやハダニなどの害虫がつくことがあります。特に非休眠法で葉を残した場合は、葉の表と裏を毎日チェックしてください。また、冬でも暖かい部屋の中では、害虫が生き残るおそれがあるため、早期発見に努めましょう。
病害虫の被害には、フマキラーの「カダンセーフ」をおすすめします。カダンセーフは食品成分由来の膜が病害虫を包んで退治。害虫は呼吸ができずに窒息死し、病原菌も栄養を得られず死滅します。屋内での使用や、お子様・ペットのいるご家庭でも安心してご使用いただけます。また活力成分の天然アミノ酸とAO(アルギン酸オリゴ糖)を配合していますので、病害虫対策だけでなく植物の生育もサポートする優れものです。
上手な休眠で翌年も咲かせるシクラメンを育てましょう!
今回は、シクラメンの具体的な育て方と休眠の方法、トラブルと対処法などについてご紹介いたしました。キュートでイキイキとしたシクラメンを育てるポイントは、日当たりと温度、水やりと花がら摘み、休眠法・非休眠法による夏越しです。日本の夏は湿度が高いので、風通しのよい場所に鉢を置いて上手に乗り切り、冬の開花に備えましょう。
愛らしい姿を楽しみながら、思いがけぬトラブルにも対処できるように観察を続けて、毎年美しいシクラメンを咲かせてください。