2020年5月20日 | お役立ち情報
日本の入学式・新学期はなぜ4月?その理由とメリット・デメリットも解説
桜が咲きはじめると、そろそろ入学式のシーズン。自分たちも満開の桜の下で記念写真を撮ったと昔を懐かしむ人も多いと思います。日本の学校では、当たり前のように4月に入学式や新学期を迎えますが、新年は1月からはじまるのになぜ4月?と疑問に思ったことのある人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、日本の入学式や新学期が4月になった理由や、世界各国の入学式や新学期の時期など、その違いについて見ていきます。
入学式・新学期のはじまりが4月の理由
もともと日本の学校には入学式や新学期という風習はありませんでした。と言っても、これは昔の江戸時代の話。当時、学びの場として開設されていた寺子屋などでは特に入学の時期を決めずに、いつでも入学することができたそうです。
この時代の子どもたちは、子どもとはいえ家族の仕事を手伝うことが多かったため、現在のように時間割などもなく、学べる時間だけ学ぶという子どもが多かったようです。明治時代に入ると、明治維新によって西洋の文化が取り入れられるようになり、教育も西洋の文化にならって9月入学が主流となっていきました。
4月になったのは国の会計年度に合わせたから
ところが、明治19年(1886年)に国の会計年度が3~4月に行われるようになったことをきっかけに、当時の文部省の指示で高等師範学校は4月入学となりました。その理由は、学校運営に必要なお金を政府から調達するため、国の会計年度のはじまりとなる4月に合わせないと不便が生じるためと言われています。
その後、全国の師範学校や小学校でも4月入学が広まり、大正時代に入ると高校や大学も4月入学に変わり、現在のスタイルになりました。
年度・新年度という考え方
新年は1月からはじまるのに、なぜ学校などは4月からはじまるのか、このことを不思議に思った人も多いのではないでしょうか。暦では1年のはじまりは1月1日ですが、学校の入学や新学期が4月に行われる理由は、「年度」という考え方に秘密があります。
「年度」とは、会計など事務作業を目的としたものを中心に取り入れられている1年間の区切り方のこと。日本における具体的な例としては、4月1日から翌年の3月31日までを一括りとする官公庁の「会計年度」や学校の「学校年度」などがあります。
ちなみに、「今年度」は現在の年度、「昨年度(前年度)」はひとつ前の年度、「来年度(次年度)」はひとつ先の年度、「新年度」は新しい年度、「年度末」は年度の終わり、を意味します。
「会計年度」が4月になったのは、「かつて日本政府の税金の収入源が農家のお米であったことから、農家の方たちが秋にできたお米を収穫して現金で納税してから予算編成するため、4月にしたほうが都合がよかったこと」や、「経済力を誇ったイギリスの会計年度が4月であったこと」に由来します。
4月1日が「早生まれ」の不思議
学校の年度は4月1日から翌年の3月31日までとされているため、ひとつの学年が、4月2日~12月31日生まれ(いわゆる遅生まれ)の生徒と、その翌年の1月1日~4月1日生まれ(いわゆる早生まれ」の生徒で構成されています。
この早生まれについて、学校教育法の第一章第十七条によると、小学1年生になるには6歳になった翌日以降に4月1日を迎えることが条件とされているため、その学年の最初の誕生日となるのは4月2日。そのため、4月1日生まれの人は1日違いで「早生まれ」となってしまうのです。
海外の入学式・新学期の時期
いっぽう海外では、夏休み明けから新学年が始まり、入学式も9月に行う国が多いようです。
<各国の入学時期>
1月:シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー
2月:ブラジル
3月:韓国、アルゼンチン
4月:日本
5月:タイ
6月:フィリピン
9月:アメリカ、カナダ:イギリス、フランス、イタリア、オランダ、ロシア、ベルギー、ブルガリア、トルコ、イラン、エジプト、中国、台湾、ベトナム
10月:カンボジア、ナイジェリア、セネガル
※学校によって異なる場合があります
海外の入学式
日本の入学式は、我が子の新しいスタートを祝う記念すべき日として、家族にとっても一大イベント。服装にも気を配り、厳粛な式典に臨みますが、アメリカやイギリス、オーストラリアなど世界の国々では日本のような入学式というもの自体がなく、入学初日にクラスが発表され、ガイダンスを行うだけ。親が着飾って式典に臨むこともなく、割とあっさり学校生活がスタートするようです。
海外では入学式に限らず、日本の運動会のように観客として家族もそろって参加する大きなイベントはほとんどありません。代わりに季節や年中行事に沿った小さな行事が数多く開催されますが、その際には保護者がボランティアとして運営をサポートします。
入学より進級
日本の場合、小学校(6年)・中学校(3年)・高校(3年)と数年ごとに入学式と卒業式を迎える節目の年がやってきますが、海外の場合、小学校・中学・高校と一貫教育の学校が多いため、入学というよりも進級という意識でとらえられているようです。
入学式・新学期のはじまりは春?それとも秋?
入学式や新学期は4月という日本の常識も、世界的に見るとかなり少数派であることがわかります。海外では夏休み明けとなる9月に入学や新学年を迎える学校が多いことから、日本の教育制度も国際的なスタンダードに合わせる動きが活発化しています。
入学式や新学期が春の場合と秋の場合、それぞれにどんなメリット・デメリットがあるか見ていきましょう。
秋入学のメリット・デメリット
2011年に東京大学が、大学のグローバル化・競争力の向上を目指し9月入学への移行を検討しましたが、「医師国家試験や司法試験などの国際試験が、春に卒業することを前提として日程が組まれている」「就職活動期は春の入学を前提に組まれていて、秋入学の学生には不利になる」などの理由から、秋入学制度は見送られることになり、代わりに2015年から4学期制が導入されたという事例があります。
ここでは、東京大学の取り組みから見えた、秋入学のメリット・デメリットについて紹介します。
秋入学のメリット
- 秋入学導入によって欧米と学期を合わせることができ、海外からの留学生を迎え入れやすく、日本から海外への留学もしやすくなる。
- 世界の優秀な人材を受け入れやすい体制が整う。
- 高校卒業から大学入試までの空いた期間や、大学卒業から就職するまでの期間、いわゆるギャップタームに、ボランティアやインターンシップなどが経験できる。
- 企業の新卒採用の時期も一律ではなく、多様化していくきっかけになる。
- 冬の寒い時期の入試を避けられる。
秋入学のデメリット
- 春入学と秋入学が混在することで、入試、就職、大学間交流が混乱する。
- 国家試験などは春に卒業することを前提に日程が組まれている。
- 就職活動期は春の入学を前提に組まれているため、秋入学の学生には不利となる。
- 海外から日本の大学に来る人にとっては、空白の期間(ギャップターム)が生じてしまう。
- 大学卒業が秋になると4月の入社までギャップタームが生じ、家計への負担が増える。
- ギャップタームにボランティアやインターンシップなどを希望する学生に対し、社会的な受け皿が整っていない。
- 日本の制度を変えるには、さまざまな面で調整が難しい。
春入学のメリット・デメリット
欧米にならい入学式を秋にしようとする動きがあるなかで、入学式は「やっぱり春」という人たちも多いのではないでしょうか。草木が芽吹き、新しいはじまりを予感させる春という季節は、大きな希望に満ちています。桜の木の下で記念撮影をする姿は、いまや日本の風物詩とも言える光景です。ここでは、そんな春入学のメリット・デメリットについて考えてみます。
春入学のメリット
- 就職活動期は春の入学を前提に組まれている。
- 国家試験などは春に卒業することを前提に日程が組まれている。
- 比較的、春の暖かい日に入学式を迎えられる。
- 四季のはじまりでもある春に行うことは、入学式にぴったり。
春入学のデメリット
- 国際的なスタンダードに乗り遅れる。
- 欧米と学期が合っていないため、海外からの留学生や、日本から海外へ留学する人にとっては空白の期間(ギャップターム)が生じてしまう。
入学式のイメージが、桜からイチョウになる日が…
日本にあるインターナショナルスクールは、本来は日本で暮らす外国人の子どもが学ぶ学校です。将来的に海外の大学を目指す生徒が多いことから、入学時期がズレないように秋入学にしている学校も増えているようです。また、通信制高校では4月や9月に限らず、さまざまなタイミングで入学できる学校もあります。
桜が咲いていない季節の入学式とは、なんとも不思議な感じがしますが、国際的なスタンダードに向けて、今後ますます秋入学の導入を検討する学校が増えてくるかも知れませんね。
もしかすると近い将来、鮮やかなイチョウが日本の入学式のシンボルになるかもしれません。