2020年3月1日 | お役立ち情報
道路交通法改正(2019年)のポイントと過去の改正を振り返る
持病をもっている人が運転中に発作を起こして意識をなくしたり、高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えたりして事故に至るケースが増えています。また、スマートフォン(以下スマホ)などを見ながら運転するいわゆる「ながら運転」や、前の車をあおる「あおり運転」などの危険な運転行為が昨今ニュースでも話題となりました。
こうした状況に応じて、道路交通法の見直しが行われ、2019年12月の改正では「ながら運転」の影響による事故が発生していることへの対応として、携帯電話の使用に関して罰則が強化されました。
かつては、シートベルトを着用せずに運転していた時代があったなんて、今となっては信じられないような話ですが、道路交通法は時代とともに変化しています。そこで今回は、主だった道路交通法の改正について、歴史や背景とあわせて解説していきます。
道路交通法とは
道路交通法とは、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るとともに、道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」日本の法律です。
戦後の高度経済成長に伴う自動車の急速な普及により、昭和20年代後半から交通事故や事故による死者数が増加。こうした事態に対応するため、昭和35年にそれまでの「道路交通取締法」が廃止され、新たに「道路交通法」が制定されました。
道路交通法は、取り締まりの根拠法にとどまらず、「すべての者が安全に道路を通行するために順守すべき道路交通の基本法たる性格を有するものである」とされ、その後も時代の発展とともに交通法の新設および見直しがされてきました。
- 昭和35年:道路交通法制定。道路標識、区画線および道路標示に関する命令などの関連法令を整備
- 昭和37年:自動車の保管場所の確保等に関する法律などの関連法令を整備
- 昭和38年:高速道路における自動車の交通方法の特例の新設
- 昭和39年:道路交通に関する条約への加入に伴う国際運転免許証等にかかわる制度の導入
2019年12月1日の道路交通法改正
スマホなど携帯電話の普及に伴い、近年、携帯電話を操作しながら運転する「ながら運転」による交通事故は増加傾向にあります。
こうした事態を受け、2019年12月1日に道路交通法を改正(携帯電話等対策の推進を図るための既定の整備、運転免許証の再交付および運転経歴書に関する規定の整備)。携帯電話の使用等による罰則が強化されるとともに、同違反にかかわる基礎点数および反則金の額が引き上げられました。
携帯電話等対策の推進を図るための既定の整備
携帯電話等対策の推進を図るための既定の整備として、「罰則の強化」と「運転免許証の仮停止」が追加されました。
罰則の強化
以下の罰則が強化されました。
違反種別 | 携帯電話使用等(交通の危険※) |
---|---|
罰則 | 1年以下の懲役または30万以下の罰金 |
違反点数 | 6点(免許停止) |
備考 | 非反則行為としてすべて罰則の対象 |
※携帯電話等の使用により道路における交通の危険を生じさせたもの
以前の罰則
違反種別 | 携帯電話使用等(保持※) |
---|---|
罰則 | 6カ月以下の懲役または10万以下の罰金 |
違反点数 | 3点 |
反則金の金額 | 大型:2万5千円 普通:1万8千円 二輪:1万5千円 原付等:1万2千円 |
※携帯電話等を使用し、または手に保持して画像を表示して注視したもの
運転免許の仮停止を対象行為に追加
携帯電話使用等(交通の危険)の違反をして、交通事故を起こして人を死傷させた場合、免許の効力が仮停止の対象となりました。これにより、交通事故を起こした場所を所轄する警察署長は、30日以内の範囲で免許の効力を停止(仮停止)することができるようになりました。
運転免許証の再交付および運転経歴書に関する規定の整備
運転免許証の再交付および運転経歴書に関する規定の整備として、「運転免許証の再交付要件の緩和」と「運転経歴証明書の交付要件の見直し等」が行われました。
運転免許証の再交付要件の緩和
運転免許証の紛失や破損に限らず、名字変更や住所変更でも運転免許証の再交付申請が可能となりました。
運転経歴証明書の交付要件の見直し等
自主返納者のみに限らず、免許失効者(運転免許証の更新を受けずに運転免許が失効した人)についても運転経歴書の交付申請が可能となりました。また、運転経歴証明書の申請先が、申請による運転免許の取り消しを行った都道府県公安委員会から住所地の都道府県公安委員会に改められました。
【参考】道路交通法の改正のポイント – 一般財団法人 全日本交通安全協会
過去の道路交通法改正
道路交通法は、時代の発展とともに交通法の新設および見直しがされてきました。ここでは、2019年以前に改正された道路交通法について、その一部を見ていきます。
2017年3月12日に施行されたもの
高齢運転者対策の推進を図るための既定の整備
高齢ドライバーによる交通事故を防止するため、認知症などに対する対策として、「臨時認知機能検査」や「臨時高齢者講習」が新設されました。
■臨時認知機能検査
75歳以上の運転者が、認知機能が低下したときに起こしやすい一定の違反行為(18基準行為)をしたときには、臨時の認知機能検査を受けることが定められました。
<違反行為(18基準行為)>
- 信号無視
- 通行禁止違反
- 通行区分違反
- 横断等禁止違反
- 道路変更禁止違反
- 遮断踏切立ち入り等
- 交差点右左折方法違反
- 指定通行区分違反
- 環状交差点左折等方法違反
- 優先道路通行者妨害等
- 交差点優先者妨害
- 環状交差点通行車妨害等
- 横断歩道等における横断歩行者等妨害等
- 横断歩道のない交差点における横断歩行者等妨害等
- 徐行場所違反
- 指定場所一時不停止違反
- 合図不履行
- 安全運転義務違反
■臨時高齢者講習
臨時認知機能検査を受け、認知機能の低下が運転に影響するおそれがあると判断された高齢者は、「臨時高齢者講習」(実車指導と個別指導)を受けることが定められました。
■臨時適性検査制度の見直し
更新時の認知症機能検査または臨時認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判断された人は、「臨時適性検査」(医師の診断)を受け、主治医等の診断書を提出することが定められました。
※医師の診断の結果、認知症と判断された場合は、運転免許証の取り消しまたは停止となります。
■高齢者講習の合理化・高度化
75歳未満の方については、高齢者講習が2時間に合理化(短縮)。75歳以上の方は認知機能検査の結果に基づいて、より高度化または合理化が図られた高齢者講習が実施されることとなりました。
準中型免許の新設
それまで自動車免許の区分は、普通自動車免許(普通免許)、中型自動車(中型免許)、大型自動車(大型免許)でしたが、2017年3月12日、普通自動車と中型自動車の間に「準中型自動車(準中型免許)」が新設されました。
準中型免許は18歳から取得することができ、車両総重量7.5トン未満(最大積載量4.5トン未満)の自動車を運転可能。すでに免許を取得している場合、さらに限定解除審査に合格すれば、車両総重量5トン以上7.5トン未満の自動車を運転することができます。
2015年6月1日に施行されたもの
自転車のルール改正
自転車の交通違反による事故が増えてきたこと、なかには死亡事故に至ったケースもあることから、2015年6月1日に道路交通法が改正され、自転車による交通違反の罰則が厳しくなりました。
違反行為(下記参照)を3年間のうち2回以上摘発された自転車利用者は、公安委員会の命令を受けてから3ヵ月以内の指定された期間に「安全運転」を受講する義務が発生します。安全講習とは、自分の自転車運転の危険性を自身に気づかせ、自主的に安全運転を促すもの。講習には講習手数料の支払いが義務付けられます。
なお、違反を犯して安全講習の受講命令を受けたのに受講しなかった場合、事件扱いとなり裁判所に呼び出されるうえ、5万円以下の罰金が科せられます。
<違反行為>
- 信号無視
- 通行禁止違反
- 歩行者専用道での徐行違反等
- 通行区分違反
- 路側帯の歩行者妨害
- 遮断機が下りた踏切への進入
- 交差点での優先道路通行車妨害等
- 交差点での右折車妨害等
- 環状交差点での安全進行義務違反等
- 一時停止違反
- 歩道での歩行者妨害
- ブレーキのない自転車運転
- 酒酔い運転
- 安全運転義務違反
2008年6月1日に施行されたもの
シートベルト全席着用の義務
運転席や助手席ではしっかりとシートベルトを締めるものの、後部座席ではシートベルトを着用していない人もいるのではないでしょうか。2008年6月1日より、シートベルトの着用は全席着用が義務付けられています。
運転中にシートベルトを着用していなかった場合、一般道路、高速道路に関わらず「座席ベルト装着義務違反」となり、違反点数1点が付されます(後部座席のシートベルト非装着で、一般道路の場合、違反点数はなし)。
今でこそシートベルトが当たり前の時代になりましたが、その昔、そもそも車にシートベルトが付いていない時代がありました。当時、シートベルトは高級車におけるオプション装備という位置づけでしたが、欧米でのシートベルト設置義務化の動きを受け、1969年(昭和44年)4月1日以降に国内で生産された普通自動車には、運転席にシートベルトの設置が義務付けられました。また、1973年(昭和48年)12月1日以降の生産車には助手席、1975年(昭和50年)4月1日以降の生産車には後部座席にも設置が義務付けられました。
2000年4月1日に施行されたもの
チャイルドシート着用の義務
赤ちゃんや幼児を事故の衝撃から守るために、海外では数十年前から着用が義務付けられていたところもあるというチャイルドシート。日本では道路交通法の改正により、2000年(平成12年)4月からチャイルドシートの着用が義務付けられました。
着用が義務化された背景には、チャイルドシート着用の有無により致死率や重傷率に大きな差が見られたこともあり、平成4~8年に行われた「6歳以下の子供が自動車乗車中に交通事故にあった時の被害実態の調査」によると、重傷率はチャイルドシート非装着時が2.36%に対してチャイルドシート装着時は0.82%、致死率はチャイルドシート非装着時が0.24%に対してチャイルドシート装着時は0.03%とどちらも低い数値を示しています。
これからの道路交通法改正
自動車の自動運転の実用化を間近に控え、道路交通法においても自動運転による規定の整備が進められています。ここでは、時代とともに変わっていく道路交通法において、今後予定されている改正について紹介します。
2020年5月23日までに施行されるもの
自動車の自動運転技術の実用化に対応するための既定の整備
2020年5月23日までに施行される道路交通の改正では、「自動運行装置の定義等に関する規定」「自動運行装置を使用する運転者の義務に関する規定」「作動状態記録装置による記録等に関する規定」などの整備が進められています。一般財団法人 全日本交通安全協会のホームページによると、下記の改正が発表されています。
■自動運行装置の定義等に関する規定の整備
道路運送車両法に規定する「自動運行装置」を使用する場合も、道路交通法上の「運転」に含まれる旨が規定されました。これにより、速度や天候といった一定の条件ではシステムが運転操作を担い、緊急時には運転者運転操作を引き継ぐ「レベル3」の自動運転が可能になりました。
自動運転のレベルは0~5まで6段階に分けられています。
- レベル0:ドライバーがすべてを操作
- レベル1:システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート
- レベル2:システムがステアリング操作、加減速のどちらもサポート
- レベル3:特定の場所でシステムがすべてを操作、緊急時はドライバーが操作
- レベル4:特定の場所でシステムがすべてを操作
- レベル5:場所の限定なくシステムがすべてを操作
■自動運行装置を使用する運転者の義務に関する規定の整備
一定の条件からはずれた場合は、自動運行装置を使用した運転が禁止され、運転者が運転操作を引き継がなければならないことに。また、自動運行装置を適切に使用する場合には、携帯電話等を保持しての使用やカーナビ等の画面注視を一律に禁止する規定が適用されないこととなりました。
■作動状態記録装置による記録等に関する規定の整備
自動運行装置を備えた自動車について、整備不良車両に該当するか否かを確認したり、交通事故等の原因究明を行ったりするため、作動状態記録装置が必要な情報を正確に記録することができない状態での運転が禁止に。また、同装置に記録された記録の保存が義務付けられました。
時代とともに変化する道路交通法、規則を守って事故のない社会を
1769年、世界初の自動車(蒸気で走る自動車がフランスで発明されました)が誕生してから約250年。蒸気からガソリン車へと姿を変え、電気や水素でも自動車が走る時代となった今、「自動運行」という夢のようなテクノロジーによって、自動車の新しい社会が実現しようとしています。
時代とともに変化する道路交通法ですが、いつの時代も規則を守って安全運転を心がけたいものですね。