奨学金を借りる前に考えておきたいこと – 申し込み前に現実を知っておこう

奨学金を借りる前に考えておきたいこと - 申し込み前に現実を知っておこう

奨学金は学生の「もっと学びたい」という気持ちをサポートするための制度です。しかし、近年「奨学金を返済できない」「返済できないから自己破産をする」といった問題が増加傾向にあります。

なぜ将来の日本を担う若者を支援する制度でこのような問題、トラブルが起きてしまうのでしょうか?今回はこの奨学金問題に関する現実、疑問を解説しながら、奨学金を借りる前に意識しておきたいポイントなどをご紹介します。

奨学金を借りる前に知っておきたい現実

奨学金を借りる前に知っておきたい現実

奨学金を返済できないいわゆる「奨学金問題」が社会問題化しています。文部科学省が公表している資料によると平成26年度末の時点で奨学金の返済が3ヶ月以上滞っている者は17万3,000人います。
【参考サイト】文部科学省「参考資料4 奨学金事業関係資料」

ちなみに平成21年度の延滞期間3ヶ月以上の者は21万1,000人ですから、数字だけ見ると長期延滞者は減少傾向にあります。これは奨学金を貸与している独立行政法人 日本学生支援機構が長期の延滞に陥らないように早い段階で回収を促す対策を施しているためです。

しかし、延滞期間3ヶ月以上の者は減りましたが、延滞期間3ヶ月未満の者が増加傾向にあるのが現状の課題です (平成21年度は12万6,000人に対し、平成26年度は15万5,000人)。

延滞期間3ヶ月未満、3ヶ月以上の総数も平成20年度から30万人を超えている状況です。平成15年度の奨学金延滞者の総数が22万2,000人ですから、奨学金問題は今を生きる学生にとって真剣に考える必要がある問題と言えるでしょう。

奨学金問題は近年各メディアでも取り上げられていますが、中には奨学金返済のために精神的負担が大きい水商売の仕事を選択せざるを得ない女子学生もいると言います。

奨学金を返済できないと両親および親族にも大きな迷惑がかかる

奨学金の返済が困難な状態に陥ると両親や親族にも大きな負担がのしかかる可能性があります。日本学生支援機構から奨学金の貸与を受けるには保証制度を選択する必要があります。

保証制度には「機関保証制度」と「人的保証制度」の2つがあります。このうち奨学金の返済が滞ることで親族にまで大きな負担がかかるのが人的保証制度です。

日本学生支援機構では人的保証制度を選択すると連帯保証人を原則として父母 (父母がいない場合は奨学生本人の兄弟姉妹、おじ、おば等の4親等以内の親族)、保証人を原則としておじ、おば、兄弟姉妹等に引き受けてもらいます。
【参考サイト】独立行政法人 日本学生支援機構「人的保証制度」

連帯保証人はその名の通り奨学生本人と連帯して返済の責任を負います。また保証人は奨学生および連帯保証人が返還できなくなった時に、代わりに返済をする必要があります。つまり奨学金の返済が滞ると両親や親族に請求がくるということです。

実際に返済が長期に渡って滞ったことで「800万円の請求が兄にきた」「延滞続きで裁判を起こされ、保証人になっている母に高額な請求がいきそう」といった事例は数多くあります。

返済が不可能な状態に陥ると本人が破産をするのはもちろんのこと、連帯保証人、保証人まで破産に追い込まれる「連鎖的破産」の可能性も十分にあります。ちなみに日本学生支援機構の調査データでは、平成24年度~平成28年度の破産件数は以下のようになっています。

  • 返還者本人:8,108件 (うち保証機関分が475件)
  • 連帯保証人:5,499件
  • 保証人:1,731件

【参考サイト】独立行政法人 日本学生支援機構「JASSOの事業に関する報道等について」

奨学金関連の自己破産の割合は0.05%前後となっており、この数字自体は日本全体における自己破産発生割合と比較しても、特別高いわけではありません。しかし、約5年で延べ約1万5,000人が自己破産に追い込まれているのは事実であり、それが連帯保証人、保証人にまで及んでいます。

このように奨学金問題は借りた本人だけではなく、親や親族の人生も壊してしまう可能性があることをしっかりと理解しておかなければなりません。

奨学金問題が起きる理由

奨学金問題が起きる理由

奨学金問題という言葉は近年急激に目立つようになりました。日本の奨学金制度は第二次世界大戦中の1943年に始まったため、それなりの長い歴史を誇っています。ではなぜ現代の日本で奨学金問題という新たな問題が起きてしまったのでしょうか?ここでは奨学金問題が引き起こされている理由をまとめましたのでご覧ください。

学費の高騰

現在の日本は少子化も叫ばれています。人口が減れば、その分需要も減るということですから経済の基本原理としては学費も安く収まるのが一般的な流れです。しかし、なぜか今の日本は学費も高騰しています。文部科学省が公表している資料では国立大学の授業料は平成元年33万9,000円でしたが、平成17年には53万5,800円と約6割も上昇しています。

また公立大学の授業料も平成元年33万1,686円に対し、平成29年には53万8,294円と学費の高騰に歯止めがかからない状態が続いています。
【参考サイト】文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」

ひと昔前であれば「国公立の大学に入学してくれれば何とかなる」という家庭も多かったですが、その期待も通用しない状況になっていると言えます。これは国の財政が厳しく、大学を運営するための交付金が削減されていることも強く影響しているでしょう。

学費が高騰することで奨学金の借入額も必然的に多くなると予想できます。当然、借入額が多ければ多いほど本人にのしかかる負担も大きくなりますから、途中で返済が困難になることは十分に考えられるでしょう。

雇用の悪化

学費の高騰に合わせるように若年層世代の年収も増加すれば何ら問題はありませんが、残念ながら、昨今は正社員で働く機会も減少しています。

厚生労働省が公表している資料では、15歳~24歳の非正規雇用労働者数は平成4年時点では157万人でしたが、平成14年には259万人、直近の平成29年では240万人となっています。
【参考サイト】厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」

みなさんご存じのように非正規雇用者は正社員と違って、将来的な昇給が見込めずに雇用も不安定になりがちです。収入も常に不安定な状態になりますから、その結果奨学金の返済も難しくなってしまうことが考えられます。

返済義務があるのを知らなかった

ウソのようで本当の話ですが、延滞者の中には「奨学金に返済義務があるのを知らなかった」という者もいます。日本学生支援機構では奨学金回収方策に役立てるため、毎年返還者の属性調査を実施しています。

この調査の中に「返還(返済)義務を知った時期」という質問があります。奨学金の返済が滞ったことがない無延滞者の89.1%は「申込手続きを行う前」に返済義務があるのを把握していました。

一方、延滞者で申し込み前に返済義務があるのを知っていたという者は50.5%。つまり延滞者の約2人に1人は「奨学金は返す必要がない」と思っていたわけですね。
【参考サイト】日本学生支援機構「平成28年度 奨学金の返還者に関する属性調査結果」

キャッシングやローンを利用する際には「ご利用は計画的に」という言葉が頻繁に使われています。奨学金も種類によりますが、基本的には立派な「借金」ですから、申し込む前にある程度の計画を立てておく必要があります。

しかし、延滞者の多くは申し込み前に返済義務があるのを知らなかったため、無計画で借入額を多くしてしまったということも考えられます。この返済義務に気付いた時には、すでに手遅れの状態になっていることも多いため、返済が困難になるのはある意味当然と言えるでしょう。

奨学金を申し込む際にチェックしておきたいポイント

奨学金を申し込む際にチェックしておきたいポイント

奨学金問題は政府が主体となって改善に取り組む必要がありますが、一個人でも申し込み前にチェックしておきたいポイントが複数あります。ここでは奨学金を借りる前に意識しておきたい点を取り上げます。

奨学金の種類は「給付型?」「貸与型?」

前述のように奨学金に返済義務があるのを知らないという奨学生は多いです。したがって事前に奨学金の種類をしっかりと把握しておく必要があります。利用者が圧倒的に多い日本学生支援機構の奨学金には大きく分けて2つの種類があります。

一つめは返済義務が生じない「給付型奨学金」。こちらは支給月額が2万円~4万円と後述する貸与型と比べると少ないですが、返済の必要性がないため、卒業後は精神的にも経済的にも楽な生活を送れることが多いです。

ただし給付型奨学金の場合は高校が推薦者を選定します。推薦基準は各高等学校で若干異なるものの、一般的には「学習成績」「教科以外で優れた点がある人物」など日本学生支援機構が提示するガイドラインに基づき、選考を行うことになります。したがって給付型奨学金は誰でも申し込めるわけではないので注意が必要です。

二つめの「貸与型奨学金」ですが、こちらは卒業後に「返さなければならない奨学金」となります。「奨学金に返済義務があるのを知らなかった」という学生は、この貸与型奨学金に申し込みをしていたことになります。貸与型奨学金には無利子の第一種奨学金、有利子の第二種奨学金の2種類があり、それぞれ併用することも可能です。

平成30年度以降に入学する学生は第一種奨学金が貸与月額2万円~6万4,000円、第二種奨学金が貸与月額2万円~12万円(私立大学の医・歯科、薬・獣医学の課程は増額可)となっています(※いずれも大学の場合)。

日本学生支援機構の奨学金制度を利用する場合は、この奨学金の種類と返済の必要性の有無をしっかりと把握しておくようにしましょう。

毎月の返済額

奨学金は借りた総額によって毎月の返済額と返済期間が決められています。基本的に借入額が多くなればなるほど、毎月の返済額も大きくなり、返済期間も長くなる傾向にあります。

したがって返済の必要がある貸与型奨学金に申し込む場合は、毎月の返済額と返済期間をある程度把握しておく必要があります。これは無計画で大きな借入れをしてしまうと、いざ返済が開始された時に「1ヶ月の返済額が高すぎて返せない」という状況に陥ってしまうからです。

一般的な4年制大学に通った場合の月々の返済額目安は以下のとおりです。

【第一種奨学金】

貸与総額 返還月額 返還回数(年数)
国・公立 216万円 1万2,857円 168回(14年)
私立 307万2,000円 1万4,222円 216回(18年)

【第二種奨学金】

貸与総額 返還総額 返還月額 返還回数(年数)
144万円 149万1,061円 9,557円 156回(13年)
240万円 249万7,419円 13,874円 180回(15年)
384万円 404万5,295円 16,855円 240回(20年)
480万円 505万6,654円 21,069円 240回(20年)
576万円 606万8,011円 25,282円 240回(20年)

※第二種奨学金の返還総額は年利0.50%で計算

【参考サイト】独立行政法人 日本学生支援機構「大学・返還例」

借入総額が少なければ月々の返済額も1万円前後で済ませることができます。しかし、借入総額が500万円、600万円になってくると毎月の返済額も2万円を超してきます。したがって特に借入総額が大きい奨学生ほど、毎月の返済額および返済期間の目安は把握しておくようにしましょう。

奨学金制度の返還期間(回数)は返還方式に応じて異なります。日本学生支援機構では毎年の所得に応じて返済月額が異なる「所得連動返還方式」と毎月一定額を支払う「定額返還方式」が選択可能です。
【参考サイト】独立行政法人 日本学生支援機構「返還期間(回数)」

前述のように近年は低所得で悩む若者も増えているため、収入に見合った返済額を設定してほしいという奨学生は所得連動返還方式での支払いがおすすめです。このように選択する返還方式によっても毎月の負担を軽くすることができますので一つ、一つの手続きは慎重に行うようにしましょう。

万が一、返済が難しくなった場合はどうすればよいですか?

申し込み前にしっかりとした計画を立てても、それはあくまでも計画です。中には雇用の悪化などが影響して、卒業後に満足な職に就けないという方もいるでしょう。この場合はどうしても奨学金の返済が困難になることが予想されます。

そのような時はそのまま放置せずに、日本学生支援機構が用意している救済措置を活用するようにしましょう。日本学生支援機構では一定の期間、毎月の返済額が減額される「減額返還」と一定期間、返済を停止できる「返済期限猶予」の制度を用意しています。
【参考サイト】独立行政法人 日本学生支援機構「返還が難しいとき」

この制度はどちらも災害、傷病、経済困難、失業など返済が困難な状態に陥った方が利用できるものです。返済が困難だからといってそのまま放置していれば連帯保証人や保証人である両親、親族にも迷惑がかかることになります。したがって返済が難しいと感じた時は速やかにこれらの制度を活用するようにしましょう。

奨学金は「将来返す必要があるお金」と肝に銘じておこう

奨学金は「将来返す必要があるお金」と肝に銘じておこう

奨学金の返済が困難に陥るなどの奨学金問題。この問題は政府はもちろんのこと、これから奨学金制度を利用する学生全員が真剣に考える必要があります。私たち一個人でできる対策は非常に限られていますが、最も大切なのは「奨学金は将来返す必要がある」という事実を知っておくことです。

無延滞者の約90%は奨学金の返済義務を把握しており、延滞者の半数は奨学金の返済義務を知らなかったという調査データからも、その重要性が理解できると思います。このように意識一つで奨学金問題を改善できる可能性は十分にあります。

また申し込み前に疑問点、不安点などがある場合は必ず学校や日本学生支援機構に相談、問い合わせをするようにしましょう。意味を理解せずに手続きを進めてしまうと、将来の返済負担が大きくなることも予想されます。これから奨学金制度を利用する学生やそのご両親はぜひ参考にしてください。

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