2019年11月18日 | 園芸・ガーデニング
【花を長持ちさせる】水揚げの種類と方法について解説
「美しい花をより長く観賞したい」と思ったことはありませんか?切り花は、適切な「水揚げ(みずあげ)」と手入れを行えば長持ちします。
この記事では、花が水を吸うメカニズムと水揚げの必要性をはじめ、花に合った水揚げの方法を9種類ご紹介し、水揚げ後に花を長持ちさせるポイントをまとめました。水揚げの手順と手入れの方法を参考にして、美しい花を長くお楽しみください。
花の水揚げとは?
はじめに、花のメカニズムを理解しながら、花がしおれる理由と水揚げについての知識を深めましょう。
花が水を吸うメカニズム
植物の茎には「維管束(いかんそく)」と呼ばれる組織があり、中には根から吸収した栄養や水分が通る「道管(どうかん:導管)」と、葉で作った栄養が通る「師管(しかん)」が集まります。花などの植物は、これらの器官で栄養や水分を運んで鮮度を保っています。
しかし、茎の切り口が空気に触れて道管に空気が入ったときや、切り口に樹液などが付いたとき、花びんの水の中にバクテリアが発生して腐敗したときなどは道管が詰まり、栄養や水分が十分に行き渡らなくなって植物はしおれてしまいます。また、葉から水分が蒸発する「蒸散(じょうさん)」の作用や、「エチレン」と呼ばれるガスの発生なども鮮度に影響します。
水揚げの必要性
水揚げとは、道管に入った空気を出したり傷んだ部分を取ったりして、茎が水を吸収しやすくなるように手助けをする作業です。生花店では、市場から仕入れた花を店内で水揚げをしてから販売していますが、購入後はいったん水から出た状態になるため、自宅でも同様に水揚げをすると花が長持ちします。
後にご紹介する水揚げの作業を適切に行えば、花を手に入れたときだけでなく、花が多少しおれたときでも復活して長く観賞できます。それぞれの花に合った方法で水揚げを行い、花の鮮度を保って長く楽しみましょう。ただし、ひどく鮮度が落ちた花や枯れた花は、水揚げをしても効果がありません。
花が手に入ったら
花を購入したり、お祝いやパーティーなどで花をもらったりして自宅まで移動する際は、花を下に向けて優しく握り、なるべく温度が低い状態で持ち帰りましょう。家に着いたらラッピングを外し、茎の下の方に付いた余分な葉や茎、つぼみなどを取り除いて蒸散によるしおれを防ぎます。
また、ユリやチューリップなどの大きな花で、花粉を出す「おしべ」はあらかじめ取ってください。
花に合わせた水揚げ9つの方法
それでは、ここからはそれぞれの花に合った水揚げの方法を順にご紹介します。水揚げが終了したら、後にご紹介する長持ちの方法を参考にして花を活けましょう。
① 水切り(みずきり)
どの花にも合い、最も簡単にできる方法です。茎に入った空気を水中に逃がすほか、水圧で水の吸収を助けます。カットするときは、力を入れて一気に切りましょう。
用意するもの
- 切り花
- 清潔なはさみ
- バケツなどの容器
- 新鮮な水
手順
- バケツなどの容器に水をためる
- 茎の先端を水中に入れる
- 水中で、茎の端から数cmのところを斜めに切る
② 水折り(みずおり)
はさみを使わずに茎を手で折る方法で、キク科やリンドウ科の花やカーネーションなどに向いています。1回で折れないときは、ねじ切るような形でも構いません。繊維がバラバラになれば表面積が広くなり、吸収力が高まります。
用意するもの
- 切り花
- バケツなどの容器
- 新鮮な水
手順
- バケツなどの容器に水をためる
- 茎を水中に入れる
- 茎の先端から5cmほどの位置に親指を立て、勢いよく折る
- そのまま5秒ほど浸ける
③ 割る方法
サクラやウメ、モモ、ツツジ、アジサイなどの「枝もの(えだもの)」に向いている方法で、「根元割り(ねもとわり)」とも呼びます。硬い茎や枝を持つ花は水の吸収が悪いため、はさみで茎に切れ込みを入れて水揚げします。
用意するもの
- 切り花
- 清潔なはさみ
手順
- 茎や枝の先端を斜めに切る
- 茎や枝に対して縦にはさみを入れ、先端から数cmの長さで十字に切る
④ たたく方法
こちらも枝ものや硬い茎を持つ花に向いていますが、茎が細くて割る方法ができない場合に行います。たたいてつぶすというよりも、繊維をほぐす感覚で作業しましょう。たたく際は、手や指をケガしないように注意してください。
用意するもの
- 切り花
- ハンマーや木づちなど
手順
- 茎や枝の先端の5cmほどをたたいて繊維を壊す
⑤ 湯揚げ(ゆあげ)
マーガレットやヒマワリなどのキク科の植物や、バラ、ストックなどに向いています。湯で切り口を消毒するとバクテリアなどが消滅し、茎の水分が膨張して中の空気が排出します。花や葉を湯気から保護するために新聞紙を巻き、作業中はやけどに注意してください。
用意するもの
- 切り花
- 新聞紙
- バケツなどの容器
- 90℃以上の湯
- 清潔なはさみ
- 水を入れた容器
手順
- 茎の先端を少し出して、新聞紙をきつめに巻く
- 茎を斜めにカットしておく
- 茎が数cmほど浸かる量の湯を容器に入れる
- 茎を湯に浸けて、鮮やかな色に変わったら取り出す(種類にもよるが、一般的には10~20秒ほど)
- すぐに水を入れた容器に浸けて、2時間ほど冷ます
※なべで湯を沸かしながら作業するときは、浸ける時間が短くなります。
⑥ 焼き揚げ(やきあげ)
バラやカスミソウ、デルフィニウムなどの花に向いた方法です。湯揚げと同様に、切り口を熱で殺菌し、茎の中の空気を排出させる効果があります。また、切り口が燃えて炭化すると、本来の炭と同様に吸水がよくなる上、水の腐敗防止も期待できます。焼き揚げの作業中は、火の扱いに十分注意してください。
用意するもの
- 切り花
- 新聞紙
- ガス台など
- 水を入れた容器
手順
- 新聞紙を水でぬらし、茎を出した状態で花を巻く
- ガス台などで火をつける
- 茎の先端の2~5cmほどを火であぶる
- 炭のように黒くなったら水の入った容器に浸けて冷ます
⑦ ポンプの使用
華道で、「水もの(みずもの)」と呼ばれるハスやスイレン、コウホネなどの水揚げの際に行う方法です。
用意するもの
- 切り花や葉
- 専用のポンプ
手順
- ポンプにラッパ状の金具をセットする
- ポンプに水を入れる
- ラッパ状の金具部分に茎を差し込む
- ピストンを押して水を注入する
⑧ 深水(ふかみず)
バラやボタン、ラナンキュラスなど、葉や茎がしっかりしている花に合う水揚げの方法で、花の元気がないときに行います。白い花には、模様が写らないように白い紙を使用しましょう。花の部分が水に浸かると傷むため、水の量に注意してください。
用意するもの
- 切り花
- 新聞紙または白い紙
- 清潔なはさみ
- バケツなどの容器
- 新鮮な水
手順
- 茎の先端を少し出し、花をまっすぐの状態にして新聞紙をきつめに巻く
- バケツなどの容器に花を立てて入れ、茎の長さの半分くらいまで水を注ぐ
- 様子を見ながら1時間~数時間、状況によってはひと晩置く
⑨ 逆水(さかみず)
蒸散の作用は、主に葉の裏側で活発に行われています。逆水は、葉が大きい植物や、葉がたくさん付いている植物がしおれかけたときに向いている方法です。ただし、バラなどは花に水がかかると傷むので、逆水を行わないようにしてください。
用意するもの
- 葉が多い植物
- シャワーやじょうろなど
- 新聞紙
手順
- 花の部分が下になるように持つ
- 葉の裏からシャワーなどで水をかける
- 新聞紙を軽くぬらし、植物を優しく包む
- 1~2時間ほど涼しい場所で寝かせる
水揚げ後に長く楽しむには
水揚げの作業が終わったら、次の方法でさらに花を長く楽しみましょう。
切り口を殺菌する
水揚げをした茎の切り口には、下記のものを選んで付けると殺菌作用が期待できます。水切りだけでなく、たたいたり焼いたりした後でも効果があるといわれます。作業が終わったら、すぐに花びんなどに活けてください。
- 塩・・・切り口にすり込む
- ハッカ油・・・切り口を数秒浸ける
- ミョウバン・・・切り口にふりかけて、歯ブラシなどでこする
- 酒・・・切り口を10秒ほど浸ける
- 酢・・・切り口を30秒~1分ほど浸ける
置き場所と水の交換
花びんに直射日光が当たると温度が上がって水が腐敗しやすいため、窓際ではレースカーテンで光を遮りましょう。また、エアコンやストーブの風が当たると花が乾燥するので、置き場所を選んでください。空気が極端に乾燥しているときには、葉の裏側に霧吹きで水をかけると長持ちします。
基本的に水は毎日交換し、花びんの中はよく洗って清潔にしましょう。ただし、使用する花の栄養剤によっては、水を毎日交換しないものもあります。
切り戻しと花がら摘み
水を交換する際、茎の先を数cmのところで斜めに切る「切り戻し」の作業を行うと、さらに水の吸収がよくなります。作業は毎日が理想ですが、数日に1回でも構いません。また、しおれてきた花を取り除く「花がら摘み」も行いましょう。どちらも、作業の際は清潔なはさみを使用してください。
水に入れるもの
そのほか、花びんの水に追加すると花が長持ちするものをご紹介します。
切り花栄養剤
現在は「切り花栄養剤」という名称に統一されましたが、「延命剤」や「鮮度保持剤」などと呼ばれることもあります。栄養剤には開花に必要な糖分や抗菌剤、エチレンの発生を抑える成分などが含まれているため、水に加えると花が鮮やかに咲いて長持ちします。栄養剤は、商品ごとに決められた倍率で薄めて使用してください。
多くの栄養剤は花全般に使用できますが、バラやお供え用の仏花(ぶっか)などの専用のタイプも販売されています。栄養剤を正しく使えば毎日の水の交換は必要ありませんが、水がにごってきたときなどはすぐに入れ替えましょう。
漂白剤や洗剤など
自宅にあるものでは、殺菌効果がある漂白剤や、水揚げを促進する中性洗剤を入れると長持ちの効果が期待できます。また、開花時の栄養になる砂糖や、細胞を引き締めて水揚げの効果を高めるミョウバンも花が長持ちすることがわかっています。ただし、たくさん入れると逆効果になるので、数滴またはごく少量を入れましょう。
【参考サイト】
花の王国あいち 「ハナシのタネ」
日本植物生理学会 「植物Q&A」
浅水(あさみず)と深水(ふかみず)
「浅水」とは花びんの水を数cmくらいにして活けることで、花の吸水を抑えて長持ちさせる目的があります。チューリップやヒヤシンス、アネモネなど、茎が柔らかく吸水がよい花に向いています。また、ヒマワリやガーベラのように、茎にこまかい毛が生えている花は水の汚れが早いため、浅水で活けましょう。
反対に、茎がしっかり浸かる量は「深水」といい、水揚げの方法とは別の意味で使われます。深水を好むのはバラやライラック、アジサイなどがあります。植物の好みに合わせて水の量を調節し、基本的には毎日交換しましょう。初心者の方はガラスの一輪挿しなどを利用すれば、中の水の量がひと目でわかります。
一輪挿しについては、【一輪挿しでお部屋を華やかに!】一輪挿しの魅力や楽しみ方を紹介しますの記事も参考にしてください。
適切な水揚げと手入れで花を長持ちさせよう
今回は、切り花と水揚げの基礎知識、9種類の水揚げの方法や花を長持ちさせるポイントについてご紹介しました。花を長く観賞するには、それぞれの花に合った水揚げを行った後、茎の切り戻しと水の交換などの衛生面に気を配ることが大切です。さらに、栄養剤なども使用すればお気に入りの花はさらに長持ちします。
活けた花は観賞も兼ねて毎日観察し、手入れをしながら長く楽しみましょう。