2020年7月21日 | 園芸・ガーデニング
美しい『枯山水』の世界へ。枯山水の歴史・意味・楽しみ方を解説します
「枯山水(かれさんすい)」の庭園を観賞したことはありますか。枯山水は、石や砂などを用いて水が流れる風景を表現した庭園です。今回は、美しい枯山水についての基礎知識と歴史のほか、見どころ、枯山水が有名な国内の施設と気軽な楽しみ方をご紹介します。
そもそも枯山水とは
はじめに、枯山水の概要を簡単にご説明します。
枯山水の基礎知識
枯山水は、水がない場所で石や砂、植物、地形を利用して水の流れを表現した日本の代表的な庭園の形式です。枯山水は「かれせんすい」や「かれせんずい」、「こせんすい」とも読み、平安時代の書物では「こせんずい」と説明しています。他に乾泉水(あらせんすい)、涸山水(かれさんすい)、仮山水(かさんすい)、故山水(ふるさんすい)などの呼び名もあります。
庭園の要素で分類するときは「枯山水庭園」と呼び、池をメインとする「池泉(ちせん)庭園」、池や林、茶室などを設けた「築山林泉(つきやまりんせん)庭園」と区別します。
枯山水は時代や造園の方法によって異なり、植物と石が織りなす色の対比や、石や砂だけの静かな佇まいを楽しむことができます。
枯山水の分類
枯山水は、さらに次のように分類されます。
様式による分類
- 平庭(ひらにわ)式・・・平らな庭に造られた枯山水
- 準平庭式・・・平庭式に小高い山を加えた枯山水
- 築山(つきやま)式・・・斜面を生かして作られた枯山水
- 枯池(かれいけ)式・・・石を組んで池を表現した枯山水
- 枯流れ(かれながれ)式・・・小石や砂で水の流れを表現した枯山水
- 特殊形式・・・白い砂のみ、または上記以外の枯山水
年代による分類
- 前期式枯山水・・・南北朝時代までに多く、敷地の一部を枯山水にしたもの
- 後期式枯山水・・・室町時代以降に多く、敷地の全体を枯山水にしたもの
日本庭園や石庭との違い
日本庭園とは日本に古くから伝わる庭園を総称したもので、枯山水も日本庭園に含まれます。
石庭は「せきてい」や「いしにわ」と読み、植物を使わずに石や砂、岩で造った庭の呼び方です。本来は京都にある龍安寺(りょうあんじ)の枯山水を指しますが、現在は石や砂を主体とした枯山水を石庭と呼ぶ傾向にあります。
枯山水を英語で表現するには
海外でも人気が高い枯山水は、その歴史から「Zen garden」と表現することが一般的です。また、「Japanese rock garden」や「dry landscape garden」、「dry garden」なども使われます。有名な施設の多くは、HPに英語の解説があるので参考にしてください。外国の方から尋ねられたときは、サイトを紹介してもよいでしょう。
枯山水の歴史と見どころ
続いて、枯山水の歴史と見学のポイントについてご紹介します。
枯山水の歴史~前半
日本には、飛鳥時代の頃から水を使わずに水を表現する庭園が存在していました。平安時代の造園に関する書物「作庭記(さくていき)」では、水がない場所に石を立てて表現する形式を枯山水(こせんずい)と紹介しています。
鎌倉時代には、主に座禅で修業をする仏教の「禅宗(ぜんしゅう)」が中国から伝わりました。京都の西芳寺(さいほうじ)はもともと池泉庭園でしたが、1339年に禅の修行の場として石組を導入し、国内初の枯山水を築きました。初期の枯山水は、風景をそのままに表現した写実的な作品が多く見られます。
その後、1467年の応仁の乱で京都の池泉庭園の多くが破壊され、経済的に苦しんだ権力者たちは小規模な枯山水の庭園を造りました。枯山水は、禅の精神から生まれた「侘び(わび)・寂び(さび)」の美意識に加え、盆の上に石や植物で自然を表現する「盆景(ぼんけい)」、山水画などの文化も取り入れながら、独特の趣がある庭園として発展します。
盆景に影響を受けた日本の文化については、「【初心者でも挑戦できる!】盆栽の育て方や手入れ方法を紹介」の記事も参考にしてください。
枯山水の歴史~後半
かつて多くの寺では、住職の居室である「方丈(ほうじょう)」の南側に清浄を意味する白い砂を敷きつめ、神聖な場として儀式を執り行っていました。やがて儀式は室内で行うようになったため、白い砂の空間は庭園に改築されます。
室町時代に入ると、中国の故事に基づく島などを意味する石を白砂に配置して、抽象的な表現をする枯山水が多く造られました。質素ながらも高い観賞価値がある枯山水は、武家や庶民にも広がり最盛期を迎えます。室町時代の中期から後期には、だんだんと絵画的な要素を含んだ枯山水に変化しました。
その後は、茶道の発展とともに植物を主体とした茶庭(ちゃてい・ちゃにわ)や、池の周囲を散策する回遊式の池泉庭園などの人気が高まり、枯山水は徐々に衰退していきました。
昭和に入ると、著名な作庭家(さくていか)がモダンな枯山水を数多く造園し、人々の心を静かに魅了し続けています。
枯山水の見どころ
枯山水は、単に石や植物を観賞するだけではありません。空間に表現される禅の教えや中国の思想を読みとき、静かに自分自身と向き合いましょう。
石の意味
枯山水の石は、中国の故事で不老不死の仙人が住む「蓬莱島(ほうらいじま)」や、長寿の象徴である「鶴亀」、財宝を運ぶ「宝船」、激流に立ち向かう鯉(こい)を表した「鯉魚石(りぎょせき)」などに見立てられることが一般的です。
そのほか、「三尊仏(さんぞんぶつ)」を表す3つの「三尊石(さんぞんせき)」、滝の流れを表現する「滝石組(たきいわぐみ)」などもあります。枯山水の石からは、自然の厳しさと力強さ、故事にちなんだ物語などをイメージしましょう。
砂の模様
白い砂に描かれた線は、「砂紋(さもん)」と呼ばれる模様です。砂紋は穏やかな流れだけでなく、大波やうねり、市松模様や「井」の模様のほか、悟りや心理、世界観や宇宙観も表す渦巻きもあります。
砂の細やかな表現は日本人の繊細な感性によるもので、質素と静寂、清らかで澄み渡った侘び・寂びの美意識が伝わります。砂紋を清掃することは心を清めることに通じるとされ、禅を学ぶ僧侶(そうりょ)がほうきやレーキで美しく整えています。
静かに観賞
枯山水は、散策をせずに静かに眺めて観賞する庭園です。石の白と植物の緑のコントラスト、砂の表現や数々の石をゆっくりと眺めながら、空間に込められた意味を自問自答して過ごしましょう。
説明と異なる印象を受けるときは、個々の心の中を反映していると考えられます。慌ただしい日常から離れて枯山水の庭園を訪ね、静かに己の心を見つめる機会を作ってはいかがでしょうか。
室内から楽しむ
白い砂を使用した枯山水の多くは、建物の中から観賞して楽しみます。縁側から眺めたり、それぞれの部屋から異なる風景を楽しむほか、禅の思想で悟りを表す「円窓(えんそう)」と呼ばれる丸い窓から観賞する寺もあります。
瞑想(めいそう)によって心を静め、禅の教えや歴史に思いを馳(は)せる清らかな時間。事前に施設のホームページなどで特徴を知っておくと、より枯山水の理解が深まることでしょう。
枯山水が有名な庭園・施設
続いて、枯山水を観賞できる国内の施設をご紹介します。
京都の有名な枯山水
枯山水と言えば、やはり京都の寺が有名です。
龍安寺
先述した龍安寺は、世界遺産にも登録されています。かつてイギリスのエリザベス女王も訪れ、外国からの観光客が絶えない有名なお寺です。
大徳寺大仙院
小規模ながらも枯山水のすべてを表現した庭園で、千利休が参拝したとされています。眼前に迫る石の数々は、解説書を見ながらじっくりと観賞することをおすすめします。
建仁寺
京都では最も古い禅宗寺院で、広々とした白い砂の美しさが印象的です。苔と石で造られた中庭の枯山水は、取り囲む四方の建物から鑑賞できます。
高台寺圓徳院
豊臣秀吉と妻が眠る寺として知られ、桜や紅葉も美しい名所です。白い砂の一部が彩られていることもあり、プロジェクションマッピングなどのイベントも開催されています。
西芳寺
先述した西芳寺は苔の美しさから「苔寺」とも呼ばれ、世界遺産にも登録された名所です。貴重な前期式枯山水や、苔と木々が織りなす池泉庭園をゆっくりと観賞しましょう。
苔については、「自宅でできる苔(コケ)栽培。コケの育て方、増やし方について」の記事もご覧ください。
そのほかの地域
国内では、次のような施設でも枯山水が観賞できます。
輪王寺【仙台市】
伊達政宗の妻と縁がある寺で、比較的新しい3つの枯山水では三尊石などの石組が観賞できます。広々とした境内には、三重塔や池泉庭園などの見どころが満載です。
玉堂(ぎょくどう)美術館【青梅市】
日本画家の川合玉堂を記念した美術館で、東京都内で枯山水を見学できる貴重な施設です。自然を背景にしながら、広々とした静かな枯山水を堪能できます。
名古屋城 二之丸庭園【名古屋市】
国指定の名勝、名古屋城の二之丸に造られた枯山水式庭園です。石で滝を表現した大迫力の「枯滝(かれたき)」は、全国でも珍しい「玉澗流(ぎょっかんりゅう)」の作品です。
高野山金剛峯寺【和歌山市】
空海によって開かれた寺で、構成の一部として世界遺産に登録されています。国内で最大級の枯山水は、白い砂の雲海で2頭の龍が向かい合い、奥殿を守る様子を表現しています。
足立美術館【島根県安来市】
実業家の足立全康氏による美術館で、額縁に見立てた窓から庭園を観賞できます。数々の石の組み方と木々の対比が見事な枯山水は、一見の価値があります。
光明禅寺【福岡市】
太宰府天満宮に隣接する寺で、石庭は九州で唯一と言われています。「光」の文字に配列された前庭の七・五・三の石や、本堂の裏側にある絵画のような枯山水は必見です。
枯山水を自宅やカフェで楽しもう!
最後に、自宅やカフェで枯山水を気軽に楽しむ方法をご紹介します。
ミニチュアの枯山水
近年では、ミニチュアの枯山水を楽しむキットが販売されています。箱庭に敷いた白い砂をレーキで整え、天然石を配置する本格的な仕様です。龍安寺の石庭と同じ縮尺で造られたものや、フリーズドライの苔、ミニチュアの灯篭(とうろう)などがあり、机上で枯山水の雰囲気が十分に楽しめます。解説書は英語の表記があるため、外国の方へのプレゼントにもおすすめです。
お菓子で枯山水が作れる
お菓子で枯山水を再現する発想には脱帽ですね。木の箱に敷きつめた白い砂はラムネ、石はチョコレート菓子やラムネを固めたものですが、お菓子とは思えないリアルさが魅力。こちらも英語の表記があるので、渡航の際のお土産などにいかがでしょうか。
また、スイーツで仕上げる枯山水のメニューが人気のカフェもあります。白い砂はグラニュー糖、石はわらび餅(もち)やチョコレートなどを使用しています。自由にパーツを並べて和の空間を仕上げれば、SNS映えがする枯山水の完成です。
ゲームで枯山水に親しむ
プレイヤーが禅の僧侶になり、砂紋や石をそろえて美しい枯山水を造り上げるボードゲームです。座禅によって徳(とく)を積み、侘び・寂びを追求する姿勢はまさに禅の思想そのもの。最終的には、砂紋や石の配置などの美しさで得点を競い合います。相手の作品を評価して余韻も楽しめる、インターネットでも話題のゲームです。
枯山水の知識を深めて観賞しよう
今回は枯山水の魅力を取り上げ、基礎知識と発展の歴史、枯山水の観賞のポイントや名所、手軽に楽しむ方法をご紹介しました。ひと口に枯山水と言っても趣が異なり、傾斜の利用や石の組み方、砂の模様などの表現は多彩です。
あらかじめ下調べをしてから観賞し、非日常の空間で己を見つめ直す機会を作ってはいかがでしょうか。