2019年3月10日 | 園芸・ガーデニング
自宅でできる苔(コケ)栽培。コケの育て方、増やし方について
落ち着いた色合いやしっとりとした趣、静かな存在感が魅力の苔。近年では、自宅で行なう苔の栽培が注目されています。苔は、一般の植物と少々異なる特徴や効果があるため、観賞用だけでなく社会に役立つ植物としての活躍も期待できます。
ここでは、初めて苔を栽培する人に向けて、苔の基礎知識や効果、屋外・室内における栽培方法、おしゃれな楽しみ方などをご紹介します。
密かなブーム!苔についての基礎知識
苔は和風庭園や日陰などで地面を覆う植物、というイメージが強いのではないでしょうか。一見、引き立て役のような苔ですが、実は大変に興味深い特徴と効果を持つ植物であることがわかっています。
苔は胞子で増える植物
「苔」とはシダや藻などの小さい植物を総称する場合もありますが、正式には生物の分類上「コケ植物門」に属するものを指します。
苔は一般の植物と異なり、栄養や水分を運ぶ「維管束(いかんそく)」や根を持たず、胞子で繁殖します。国内では約1,700種、世界には約18,000種の苔が自生し、温暖な地域だけでなく高地や極地、熱帯などでも見られます。
苔は大きく3つに分類
コケ植物門に属する苔は「蘚苔類(せんたいるい)」とも呼ばれ、大きく下記の3つに分類されます。
- 蘚類(せんるい)
よく目にするものではオオスギゴケやハイゴケ、エゾスナゴケ、ギンゴケ、ヒノキゴケなどがあり、国内では約1,000種類が自生しています。苔庭や苔玉、テラリウムなどで親しまれている種類です。
- 苔類(たいるい)
葉のような平たい形のゼニゴケやジャゴケ、葉と茎の部分に区別できるムチゴケなどがあり、国内には約620種が自生しています。主にテラリウムやアクアリウムなどに利用されます。
- ツノゴケ類
葉状の苔類に似た種類でとがったツノのような胞子を持ち、「藍藻(らんそう)」と呼ばれるバクテリアが共生します。国内では17種しか生育しておらず、園芸用に使用されることはほとんどありません。
苔を採取する際の注意点
街中に生育している苔は気軽に採取しがちですが、ほかの植物と同様に許可なく持ち帰ることはできません。公園や土手など、自宅以外の敷地内に見られる苔を持ち帰る場合は、自治体や土地の所有者に許可を得てから採取するようにしましょう。
観賞だけではない!驚くべき苔の効果
モコモコと密集した苔を見ると、思わずじっくり観察して触りたくなる人が多いかもしれません。苔は観賞用だけでなく、最近の研究によりさまざまな効果や効能がわかってきました。
見た目と香りで癒やされる
苔など植物の緑色は、数々の研究や実験によりストレスの軽減などの癒やし効果があることが判明しています。また、苔にはそれぞれ独自の芳香があるため、土の香りと混ざるとまるで森林の中にいるような気分になります。
苔の消臭と抗菌効果
空気中の水分や栄養分を吸収する作用や、苔の細胞壁が金属を蓄積する性質を利用し、消臭や汚染物質の浄化などの研究も行なわれています。また、苔の持つ抗菌や抗カビの効果から、太古には脱脂綿の代わりにした記録もあります。
温湿度調整とCO2の吸収
苔は保水だけでなく蒸散の作用もあるため、大気の温度や湿度の調整が可能です。また、わずかな栄養で生育する苔は微生物に腐食されにくいので、吸収した二酸化炭素内の炭素を蓄積したまま地面に泥炭(でいたん)層を形成することがわかっています。
劣化の軽減と環境保護
苔の貯水能力は土砂の流出・飛散の防止に役立ち、軽量で土を使用しない性質から建造物の保護にも利用されます。そのほか、乾燥に強い苔は散水作業が少なくて済むため、緑化に利用した場合は環境保護につながるとして注目されています。
庭で苔を栽培してみよう
それでは、さまざまな魅力や効能を持つ苔を実際に栽培してみましょう。庭などの屋外で苔を栽培するときには、日当たりに合わせて品種を選びます。
屋外におすすめの種類
日当たりがよい場所で育つ苔には、一般に「スギゴケ」と呼ばれるオオスギゴケやウマスギゴケ、「スナゴケ」と呼ばれるエゾスナゴケなどがあります。1日のうち数時間だけ日が当たる「半日陰」にはハイゴケやフデゴケなどがおすすめです。日があまり当たらない場所の栽培は、カモジゴケやヒノキゴケなどが適しています。
苔の基本的な育て方
苔は多湿を好みますが、蒸れに弱いため程よく空気が入れ替わる場所で栽培することが大切です。
水やりのタイミング
苔を植えつけた後の約2カ月は、1週間に数回のペースで水を与えましょう。夏場は蒸れを避けるため日が落ちてから散水し、冬は午前中に水やりをしてください。2カ月が過ぎたら定期的な水やりは不要ですが、乾燥が続いて褐色になったときは上記のタイミングで保水します。苔に適した環境を作ることが栽培のポイントになるので、お店の方のアドバイスや説明書に従って管理しましょう。
苔に肥料は必要?
一般の植物は定期的な施肥を行ないますが、苔は少ない栄養で栽培できるため肥料を与える必要はありません。肥料を与えると、苔が変色したり傷んだりすることがあります。なお、苔の中に雑草が出てきたときには引き抜いてきれいな景観を保ちましょう。苔が繁殖し、庭として定着するのは半年以上かかるので根気強く見守ることも大切です。
仲間の増やし方と土
苔を新しく植えるときや、面積を増やしたいときには下記の方法で行ないます。植えつける場所の土はあらかじめよく耕し、雑草や根を取り除いて腐葉土やピートモスなどを混ぜ込みます。加えて、それぞれの苔に合った黒土や砂などを用意しておきましょう。
まき苔法
「まき苔法」とは小さくほぐした苔をタネのようにまく方法で、少量の苔でも増やせます。苔を地面に直接まくこともできますが、風雨にさらされる心配があるため、保水性のよい土を入れたトレイなどで発芽させてから植える方法をおすすめします。
- トレイの一番下に赤玉土などを敷き、黒土や川砂、ピートモスなどを混ぜた土を入れて水を含ませます。
- 苔を小さめにほぐして土の上にまき、移植ゴテなどで軽く押しつけてなじませます。
- 遮光ネットやキッチンペーパーなどを被せ、乾燥させないように上から静かに水をやります。
- 発芽まで1カ月ほど待ち、2センチほどになるまで水を欠かさないようにします。
- 下記にご紹介する方法で植えつけたい場所に移植します。
はり苔法
「はり苔法」とは、苔をマット状にはがして土ごとほかの場所に植えつける方法で、スギゴケやギンゴケ、ハイゴケ、カモジゴケなどに適しています。植えた後に変色することがありますが、ほとんどの場合は回復して定着します。
- 植えつける場所の土を準備し、水をまいておきます。
- 苔は崩さないように、大きめのマット状にはがします。
- はがした苔を植えつける場所に置き、コテなどで土を密着させてなじませます。
- 苔が3分の1ほど隠れるように土を被せます。
- 静かに散水をして様子を見ます。
移植法
「移植法」とは、小分けにした苔を土に直接植えていく方法で、スギゴケやヒノキゴケ、カサゴケ、「ヤマゴケ」と呼ばれるアラハシラガゴケ、ホゾバオキナゴケなどに向いています。一度にたくさんの量を移植するのは手間が掛かるため、小さい面積に対して行なう方法です。
- 植えつける場所の土を準備し、水をまいて植える穴を開けておきます。
- ピンセットや割り箸を使って、数センチに分けた苔を1つずつ穴に植えます。
- 苔の周りに土を入れて安定させます。
- 植えた苔が動かないよう、霧吹きなどで静かに水を与えます。
部屋で苔を栽培するには
続いて、部屋などの室内で苔を栽培するときのポイントをご紹介します。本来、苔は屋外で生育する植物なので、なるべく外の環境に近づけて管理しましょう。
室内におすすめの種類
室内でも育てられる苔は、ヒノキゴケやハイゴケ、コツボゴケ、ホソバオキナゴケ、ホウオウゴケ、オオシラガゴケ、タマゴケなどがあります。下記にご紹介する苔玉やテラリウム、盆栽などに使用されている種類です。
室内の栽培のポイント
先述したように、苔はそれぞれの生育条件に合った環境下で育ちます。日当たりを好む苔は日照時間を確保する必要があり、時々屋外の風に当てて蒸れを防ぐ配慮も大切です。
エアコンで室内が乾燥する場合は、様子を見ながら適宜水やりを行なってください。そのほか、室内用に苔がアレンジされたものは、それぞれの説明書に従って管理しましょう。
おしゃれな苔の楽しみ方
近年では、室内でも楽しめるおしゃれな苔のアレンジが各種販売されています。ここでは、室内で苔を栽培する方法も一緒にご紹介します。
大人気の苔玉に挑戦
土を丸く固めた周りに苔をはって仕立てた苔玉は、コロンとした形が人気のアレンジです。皿に置くだけでなく、つるして観賞するタイプもあります。和風の植物に限らず、洋風の草花、観葉植物も苔玉に仕立てて楽しむことができます。
【置き場所】
風通しのよい棚の上などに置き、数日室内で楽しんだ後は外の空気に当てるようにしましょう。屋外でも地面に置かず、棚の上などで栽培を行なってください。使用されている苔の品種に合わせて、日照時間を確保することもポイントです。
【水やり】
水やりの目安は数日に1回で、夏場は1~2日に1回与えます。苔玉を手で持って軽いと感じたときが水やりのタイミングです。通常は皿に水をはって苔玉を置きますが、極端に乾いたときはバケツなどの容器に水を入れ、玉の部分をそのまま漬けます。空気の泡が出なくなるまでたっぷり吸水させましょう。
個性あふれるテラリウム
ガラス容器の中で独特の世界を表現できるテラリウムも、大変人気のあるインテリアの1つです。容器は、フタ付きのものや一部が開いているものなどさまざまです。苔のほかに観葉植物や多肉植物など、複数の植物を組み合わせているテラリウムもあります。
【置き場所】
苔のテラリウムは、レースカーテンなどで直射日光を避けた明るい場所に置きましょう。また、エアコンやストーブの直風が当たらないようにしてください。極端に蒸れたり排水ができなかったりするときは、苔を取り出して外気に当てながら水分を飛ばします。
【水やり】
苔の表面が乾き、容器の内側にも水滴がなくなったら霧吹きで水を与えます。水やりの直後はフタをせず、半日ほど開けて余分な水分を飛ばしましょう。容器の形状や季節、置く環境にもよりますが、水やりは1日~数日に1回のタイミングで行います。
カビが生えたときには、その部分を取り除いて苔全体を外気に当てましょう。カビが繁殖を繰り返す場合は園芸用の消毒液を薄めに使用し、風通しをよくしてください。
盆栽と苔の王道アレンジ
盆栽は中国から伝わった文化ですが、国内における盆栽の技術やセンスのレベルは非常に高く、近年では海外でも「BONSAI」として技を学ぶ愛好家が急増しています。苔の存在は美観だけでなく、保湿や土の流出といった役割も担っています。
【置き場所】
室内で盆栽を管理するときは、日当たりがよい窓辺などに置きましょう。乾燥を防ぎ、常に苔や土の状態をチェックすることがポイントです。盆栽はもともと屋外で栽培するものなので、夏は数日、冬は1週間ほど外気に当て、1日4~6時間の日光浴をするなどの管理が必要です。
【水やり】
屋外の盆栽の場合、夏は1日2回、冬は2日に1回ほどの水やりを行いますが、室内は乾燥しやすいのでもう少し回数が増えます。苔が流れないように水をゆっくり与え、鉢の底から流れるのを確認しましょう。受け皿に出てきた水は、根腐れを防止するためにも処分してください。水が浸み込まないときは、土の部分を竹串などで優しく突いて浸透させます。
冬も楽しめる苔のキットなど
上記のほかにも、苔を使ったさまざまな栽培用キットやアレンジが販売されているので好みに合うものを探してみましょう。近年では、季節に関わらず各種の苔をそろえたセットも見かけます。管理に慣れてきたら、これらを使ってオリジナル作品を製作してみましょう。一般的な管理は先述した通りですが、詳細は商品によって異なるためそれぞれの説明書に沿って栽培してください。
なお、「乾燥水苔」として販売されているものは、国内産であれば水耕栽培で新芽が出てくるケースもあります。新芽が数センチになったらご紹介した方法で植えつけると増やすことができます。
自宅で苔の栽培を楽しもう
今回は、苔の持つ特徴や効果、屋外・屋内の栽培方法、おしゃれな楽しみ方などをご紹介しました。街中では見過ごしてしまいそうな小さな苔も、実は驚くべき能力や魅力を持ち合わせています。管理のポイントとなる乾燥や日当たりに注意すれば、初心者でも自宅で苔を栽培できます。この機会に、おしゃれな苔のある暮らしを始めてみませんか?