2020年2月5日 | 虫
特定外来生物とは?しっかりと覚えておくべき危険な昆虫
特定外来生物。ときおりニュースなどでも耳にするこの言葉に、聞き覚えのある人は多いのではないでしょうか。
日本にはスズメバチのように毒針などを持った危険な虫たちがいますが、世界にはまだまだ私たちの知らない危険な生物がたくさんいます。そうした外来生物がなんらかの理由で日本にやってきて、人々の健康や作物などに被害を及ぼすケースが起きています。
昆虫に限って話をすれば、2017年に生息が確認された「ヒアリ」は記憶に新しいところでしょうが、「セアカゴケグモ」のようにすでに日本に10年以上生息する外来生物もいます。
そこで今回は、現在日本にいる外来生物(昆虫)の中でも、外来生物法で「特定外来種」に指定されている昆虫について解説していきます。
特定外来生物とは?
外来生物法によると、「外来生物」とは、“海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地または生育地の外に在することとなる生物”と定義されています。
もともと日本に生息していなかったのに、何らかの理由で日本にやってきた外来生物にとって、環境が異なる日本で生きていくことや、子孫を残すことは難しいと考えられていますが、日本の環境に順応し、定着する外来生物がいます。
そのすべてが悪影響を及ぼすわけではありませんが、もともと日本にいなかった外来生物の登場によって、地域の生態系や人々の健康、農林水産業などに被害を及ぼす、あるいは及ぼす恐れのある外来生物を「特定外来生物」として指定し、その飼育、栽培、保管、運搬、輸入などについて取り扱いを規制しています。
それでは、特定外来生物に指定された昆虫たちを紹介していきます。
特定外来生物:昆虫類
ミツバチ科 セイヨウオオマルハナバチ
生態 | 活動時期は4~11月。同時期に繁殖期を迎え、一世代一年。吸蜜や盗蜜を頻繁に行う。 |
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特徴 | 体長は女王バチで18~22mm、働きバチで10~18mm。黒と黄色の縞模様のふさふさした毛に覆われたマルハナバチ一種で、ヨーロッパ原産の外来種。腹部の先端が白く、在来種と比べて大型。 |
原産地 | オランダ、ベルギーなど |
国内分布 | 北海道に広く定着。 |
経緯 | 農業用として1990年代に輸入。トマトなどの温室栽培の受粉に利用されていたものが温室から逃げ出して定着。 |
被害 | エサや巣となる場所の競合や、在来種との交雑などで在来種のマルハナバチが減少。また、盗蜜などにより受粉を依存する植物を減少させる恐れがある。 |
外来生物法 | 2006年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | ハウスにネットを展張したり、使用済みの巣箱を適正に処分する。 |
スズメバチ科 ツマアカスズメバチ
生態 | 活動時期は4~11月(繁殖期は9月から)。女王バチ以外は越冬できないため1年以上は生きられない。初めのうちは低木の茂みや地中に巣をつくり、働きバチの増加に伴い10mを越える高い位置に巣をつくる習性がある(高層マンションにも巣をつくる)。 |
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特徴 | 体長は20~30mm(女王バチ:最大約30mm、働きバチ:約20mm)。全体的に黒く、お腹の先端が赤みを帯びていることから「ツマアカ」という名前に。性格は狂暴で人や、ミツバチを主食とするため農業に被害をもたらす。 |
原産地 | インドネシア・ジャワ島 |
国内分布 | 長崎県対馬に定着。福岡県、宮崎県、大分県で確認されている。 |
経緯 | 2012年、長崎県対馬で確認。中国原産の個体が船などで紛れ込んできたとみられている。 |
被害 | ミツバチを主食とするため養蜂場が被害に。ミツバチが減少することで農作物に奇形が増加。他の昆虫も捕食される被害に。高い攻撃性を持っているため人への刺傷被害も多発。アナフィラキシーショックの恐れも。 |
外来生物法 | 2014年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | 危険なため専門業者に相談 |
アリ科 ヒアリ
生態 | 活動時期は3~11月。公園や農耕地などに営巣する。道路わき、牧草地、芝生、造成地などを好み、土で高さ15~50cm程度のドーム状のアリ塚(巣)を作って生息。食性は雑食。女王アリは1日およそ1,600個の卵を産み、約7年生きることからも、驚異の繁殖力を持つ。暖かい気候を好み、30℃前後が最も活動や発育が活発化するため、春の終わり頃から活動しはじめ夏にピークを迎える。 |
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特徴 | 体長2.5~6mmで全体的に赤茶色で腹部は黒っぽい赤色。大きな顎(あご)と、お尻には毒針を持っている。 |
原産地 | 南アメリカ中部 |
国内分布 | 2017年に兵庫県で確認されて以降、愛知県、大阪府、東京都の大井ふ頭でも見つかる。 |
経緯 | 海外からのコンテナに積まれて移入。 |
被害 | 刺されるとアルカロイド系の毒により激しい痛みに襲われ水疱状(すいほうじょう)に腫れる。アナフィラキシーショックを起こす恐れもある。大きな顎で咬むことも。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | 殺虫剤を散布する。熱湯をかける。予防法としてヒアリの好きなもの(ポテトチップスなど油分を含んだもの)を家の周囲に置かないようにする。また、野外での作業時には手袋をする。体を登りにくいように靴やズボンにベビーパウダーを振りかけるという方法もある。 |
アリ科 アカカミアリ
生態 | 活動時期は3~11月。営巣できる土壌がある草地などに生息。食性は雑食性で、甘露、草の種子、小型の節足動物などを食べる。 |
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特徴 | 体長は3~5mm。ヒアリよりひとまわり大きい体は赤褐色で頭部は褐色。脚、お腹、胸に毛が多い。攻撃性や毒性はヒアリより弱い。 |
原産地 | アメリカ南部から中米 |
国内分布 | 沖縄本島、伊江島、硫黄島に定着。その他、兵庫県、愛知県、大阪府で確認されていて、2017年には東京港青海ふ頭でも発見されている。 |
経緯 | 海外からのコンテナに積まれて移入。 |
被害 | 刺されるとアルカロイド系の毒により激しい痛みに襲われ水疱状(すいほうじょう)に腫れる。アナフィラキシーショックを起こす恐れもある。大きな顎で咬むことも。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | 殺虫剤を散布する。熱湯をかける。予防策として、野外での作業時には手袋をする。体を登りにくいように靴やズボンにベビーパウダーを振りかけるという方法もある。 |
アリ科 アルゼンチンアリ
生態 | 活動温度帯は5~35℃と広く、ほぼ一年中活動するため、真冬でも屋外で姿を見かけることがある。暖冬となった2002年には積雪の上を歩行する姿が観察された。食性は雑食で、果実や植物、昆虫の死骸、生ごみなどを食べる。特に花の蜜などの甘未を好み、アブラムシなどが分泌する甘露も好んで食べる。 |
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特徴 | 体長は働きアリが約2.5mm、女王アリは5~8mmほど。黒褐色~茶褐色でほっそりしていて、触覚や脚が長く素早く動きまわる。攻撃性が強く、多種のアリの巣を見つけると巣を襲い、幼虫や成虫を食べてしまうほど。 |
原産地 | ブラジル南部からウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン北部 |
国内分布 | 1993年に広島県で確認されて以降、東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、山口、徳島で生息が確認されている。 |
経緯 | 海外からのコンテナなどに紛れて移入。 |
被害 | 農作物への被害。特にトウモロコシやサトウキビなどの甘味の強い植物を食害。さらに、分泌される甘露を好むことから農業害虫のアブラムシやカイガラムシを守る役割を担い、結果、アブラムシやカイガラムシによる被害も深刻化。 また、在来種のアリを食べてしまうことから、そのアリをエサとしていた生物の個体数が減少。人に対しても攻撃的なため咬まれることがある。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | 殺虫剤を巣全体に撒く、毒餌を使用する。数は減少できるがそれ以上の効果は望めない。 |
アリ科 コカミアリ
生態 | 活動時期は3~11月。昼夜を問わず活動。採食能力が高く、食性は雑食で甘露や草の種子などを食べる。 |
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特徴 | 体長は1~2mmと小柄。赤黄褐色で腹部は黒っぽい |
原産地 | 南米 |
国内分布 | 国内での発見例はなし(2019年時点) |
被害 | 刺されるとアルカロイド系の毒により激しい痛みに襲われ水疱状(すいほうじょう)に腫れる。毒に対してアレルギー反応を引き起こす例が多発。農山漁村業に大きな被害を与えている地域がある。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・予防方法 | 殺虫剤を散布 |
特定外来生物:クモ類
ヒメグモ科 セアカゴケグモ
生態 | 住宅街や公園などいたるところに生息。おとなしく自ら襲ってくることはないが、気づかずに近づくと身を守るために攻撃してくる。活動時期は6~10月とされるが、冬でも発見されている。エサはワラジムシやアリなどの小さな虫。
雌は25~30日ごとに産卵(1回の産卵で8~12個産卵)して、約3,000~5,000個程度の卵を産む。寿命は雌が2~3年、雄が6~7ヵ月。交尾をしたあと雄は雌に食べられることが多い。 |
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特徴 | 体長は雄が2.5~3mm、雌が10~14mm。暗褐色~黒色をしていて、雌の腹部背面中央には特有の形をした赤または橙色の模様がある。雌は毒を持つ。この模様は雄にはなく、雄には黄色い縦縞の模様がある。巣は一般的な形と異なり、立体的な袋状をしていて、その中で卵を産み孵化させる。 |
原産地 | オーストラリア |
国内分布 | 1995年、大阪府で初めて発見されて以降、三重県、和歌山県、兵庫県、奈良県、京都府、愛知県、群馬県などで続々と発見され、45都道府県で確認されている。 |
経緯 | 海外からのコンテナなどに紛れて移入。 |
被害 | 咬まれると激しい痛みとともに、腫れ、めまい、嘔吐などの症状が現れ、場合によっては血圧の上昇や呼吸困難を引き起こすことがある。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・処置方法 | クモの巣を見つけたら棒切れなどではらって巣を作らないする。殺虫剤を散布する。 絶対に素手では触らないこと。咬まれた場合、傷口をお湯や水で洗い流す。出血した場合、止血せずに毒を出す。その後、医療機関を受診。 |
ヒメグモ科 ハイイロゴケグモ
生態 | 暖かい場所を好み、日当たりがいい場所にある物陰を好む。ベンチや自動販売機の裏、エアコンの室外機、外に出しっぱなしにしている履物などに生息。エサはアリやカメムシなど。おとなしく自ら襲ってくることはないが、気づかずに近づくと身を守るために攻撃してくる。
活動時期は1年中(沖縄では1年中発生)。1回の繁殖で約5,000個産卵。寿命は雌が約3年生きるのに対し、雄は半年~1年。 |
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特徴 | 体長は雄が3~4mm、雌が6~9mm。灰色~褐色などの丸い胴体で、腹部背面に丸い模様が点在する。雌は強い毒を持つ。 |
原産地 | オーストラリア、中南米 |
国内分布 | 1995年神奈川県本牧埠頭で発見されて以来、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、山口、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄などで存在が確認されている。 |
経緯 | 海外からのコンテナなどに紛れて移入。 |
被害 | a-ラトロキシンという神経毒を持ち、咬まれると痛みや痒み、紅斑(こうはん)や硬結(こうけつ)をきたし、リンパ節が腫れることも。ときに脱力、頭痛、筋肉痛、不眠となり、ひどい場合は筋肉麻痺になるケースもある。 |
外来生物法 | 2005年に特定外来生物に指定 |
駆除・処置方法 | 殺虫剤を散布する。熱湯をかける。咬まれた場合、傷口をお湯や水で洗い流し、その後、医療機関を受診。 |
危険な外来生物
2014年9月、「外来生物法」に基づく特定外来生物に指定され、人間にとって有害とされるセアカゴケグモが東京都内で初めて確認されたことを受け、東京都では、特定外来生物のなかでも人の生命や身体への被害が報告される種を「危険な外来生物」と定め、より一層注意を呼び掛けています。
東京都内で見つかった危険な外来生物
- セアカゴケグモ
- ハイイロゴケグモ
- クロゴケグモ
- アカカミアリ
- ヒアリ
- キョクトウサソリ
東京都内で見つかっていない危険な外来生物
- ドクイトグモ
- イエイトグモ
- ブラジルイトグモ
- ジュウサンボシゴケグモ
- コカミアリ
- ツマアカスズメバチ
- アトラス属(シドニージョウゴグモ等)
- ハドロニュケ属(キノボリジョウゴグモ等)
危険な外来生物を見つけたら
上記の危険な外来生物を見つけた場合、不用意に捕まえようとはせず、そのエリアの管理者や行政機関に必ず相談するようにしましょう。
まとめ
今回ご紹介した「昆虫」以外にも、魚類、爬虫類、両生類、哺乳類など外来生物の侵入によってさまざまな被害が起こっています。
環境省では、外来種被害予防の三原則として、外来生物を「入れない・捨てない・拡げない」と呼び掛けています。外来生物の被害の拡大を防ぐには、一人ひとりの意識や心掛けが重要です。また、外来生物に対して正しい知識を持ち、実際に遭遇した際、被害にあった際、的確に対処できる術を日頃から身につけておきましょう。
【参考】環境省 日本の外来種対策