腐植酸とは?フミン酸やフルボ酸、バイオスティミュラントとの関係性

腐植酸とは?フミン酸やフルボ酸、バイオスティミュラントとの関係性

近年、農業の分野で注目されている「腐植酸(ふしょくさん)」をご存じでしょうか。腐植酸とは土壌(どじょう)に含まれる有機物の一部を指し、農業における新しい概念の「バイオスティミュラント」と深く関わっています。

この記事では、腐植酸の基礎知識としてフミン酸やフルボ酸などを含む腐植酸の概要と、腐植酸の効果やバイオスティミュラントとの関係性、バイオスティミュラントの効果などについてご紹介いたします。

腐植酸の基礎知識

腐植酸の基礎知識

はじめに、腐植酸の基礎知識を解説いたします。

腐植とは

そもそも「腐植」とはどのような意味があるのでしょうか。森林などの土壌内には、炭素や水素などを含む分子が集まった化合物である「有機物(ゆうきぶつ)」が無数に存在します。それらの有機物のうち、活動している微生物と、枯れて間もない植物や新しい動物の死骸を除いたすべての有機物を腐植と呼びます。

腐植物質とは

腐植物質は、枯れた植物や動物の遺体が土壌内の微生物に分解されて最終的に残ったものを指し、英語では「Humic substances」と表記します。土壌内の腐植物質は、次の3つに分類されます。

フミン酸

フミン酸は英語で「Humic acid」と表記し、アルカリ性の溶液に溶けて酸性の溶液に溶けない性質を持ちます。フミン酸の色は赤い褐色(かっしょく)から黒色で、主に土壌や河川の堆積物などに存在します。フミン酸の分子量は10,000~100,000と推定されますが、固有の分子構造を持っていません。

フルボ酸

フルボ酸は英語で「Fulvic acid」と表記し、アルカリ性の溶液にも酸性の溶液にも溶ける性質を持ちます。フルボ酸の色は褐色からオレンジ色・黄色で、森林の土壌や河川の水などに存在します。フミン酸の分子量は1,000~10,000と推定され、フミン酸と同様に固有の分子構造を持っていません。

水に溶けるフルボ酸は河川から海に流れ出て、プランクトンや海藻などの生育に寄与すると考えられています。

ヒューミン

ヒューミンは英語で「Humin」と表記し、アルカリ性の溶液にも酸性の溶液にも溶けない性質を持ちます。ヒューミンの色は黒褐色から暗褐色で、森林の土壌などに存在します。ヒューミンの分子量は100,000~10,000,000と推定され、分子構造は不明です。

ヒューミンは、その性質からアルカリや酸による処理でも機能が失われないため、新しい環境材料としての開発や利用が期待されています。

腐植酸とは

腐植酸とは、広義では上述したフミン酸とフルボ酸を合わせたものを指し、狭義ではフミン酸のみを指します。したがって、腐植酸は英語でフミン酸と同じく「Humic acid」と表記します。この記事では広義を採用し、フミン酸とフルボ酸を合わせたものを腐植酸として説明いたします。

腐植酸は、作物の栽培において欠かせない成分の1つです。しかし、土壌内の腐植酸は栽培の過程で減少していくため、畑や水田などの圃場(ほじょう)では腐植酸が不足する傾向があります。一般的に、土壌の改良には堆肥(たいひ)を使用しますが、堆肥における腐植酸の含有量は約1~2%と少なく、腐植酸が持つ効果は期待できません。

したがって、土壌の改良には腐植酸を含む資材と堆肥などの併用が有効と考えられています。腐植酸の資材のうち、「天然腐植酸」は水分を多く含む褐炭(かったん)や、水生植物などが堆積して炭化した泥炭(でいたん)などを20%以上含有する原料からつくられます。

さらに、天然腐植酸を硝酸(しょうさん)で処理した「ニトロ腐植酸」や、マグネシウムを多く含む「腐植酸苦土(くど)」、カリウムを多く含む「腐植酸加里(かり)」、リン酸を多く含む「腐植酸りん肥」などがあり、土壌の状態に合わせて腐植酸を選択できます。畑などに腐植酸を使用する際は、商品の説明をよく読んで適切な量を投入してください。

腐植酸の効果

腐植酸の効果

次に、腐植酸の効果についてご紹介いたします。

直接的な効果

腐植酸が植物に与える直接的な効果として、次の内容が挙げられます。

発芽・発根などの促進

腐植酸に含まれる成分のうち、水に溶けやすいフルボ酸は植物ホルモンに似た働きを持ちます。そのため、腐植酸を土壌に投入すると植物の葉や茎、根などの生長に加えて、発芽を促進する効果が期待できます。

栄養分の吸収力が向上

マイナスの電気を帯びている腐植酸は、プラスの電気を帯びているミネラル類と結びつく「キレート作用」が働きます。この作用により、ミネラルなどの栄養分が土壌の中に広く行きわたる効果が期待できるため、植物の吸収力が高まります。

間接的な効果

腐植酸が植物に与える間接的な効果としては、次のとおりです。

土壌の栄養の保持

上述したキレート作用により、腐植酸はプラスの電気を帯びているマグネシウムやカルシウムなどと結びついて土壌内の栄養を保持する作用が働きます。同時に、栽培に適切な土壌の酸度(pH5.5~7.0くらい)を保ちます。

微生物と土壌の変化

土壌内の微生物は、腐植酸をエサにして活性化します。その結果、土壌内で小さな粒が集まる「団粒(だんりゅう)構造」が形成され、通気性や排水性、保水性を備えた栽培にふさわしい環境が保持されます。

有害な重金属の吸収

腐植酸のキレート作用は、土壌内でプラスの電気を帯びている有害な重金属と結びつく効果もあります。いったん結びついた重金属の毒性は軽減され、根から吸収されることがないため、作物に対する害を抑制できます。

リン酸の固定を軽減

アルミニウムや鉄などが豊富な火山灰の土壌では、リン酸がこれらの物質と結合する「固定化」が生じます。キレート作用により、腐植酸がアルミニウムなどと結びつくと固定化が軽減するため、根がリン酸を吸収しやすくなります。

地面の温度を上昇

腐植酸は褐色から黒色といった暗い色をしているため、土壌に投入すると太陽の熱を吸収して地面の温度が上がります。地温の上昇は、微生物の活動の活性化や、植物の生育の向上、根の吸収力の増加といった利点があります。

バイオスティミュラントと腐植酸

バイオスティミュラントと腐植酸

最後に、注目されているバイオスティミュラントと腐植酸の関係性についてご紹介いたします。

バイオスティミュラントとは

バイオスティミュラントとは、植物および土壌などの周辺の環境が持つ本来の力を活用して、植物の健全な生育と安定した収穫を目的とする資材や技術を指します。バイオスティミュラントに使用される資材は、腐植酸などの腐植物質や海藻、アミノ酸、ミネラルなどからつくられます。

バイオスティミュラントは、天候や気温といった物理的な原因と、害虫や病気といった生物的な原因による収穫量の減少や、世界的な人口の増加による食料不足などの問題の解決に向けて、効率的な農業を展開する手段の1つとして期待されています。

国内では、一部の開発者や生産者がバイオスティミュラントに着手している状況です。ただし、現時点では法的に整備されていないため、バイオスティミュラントは肥料取締法・農薬取締法・地力増進法の中間に位置します。欧米をはじめとする世界では、急速な展開が見込まれていることから、国内の今後の動向に注目が集まっています。

バイオスティミュラントについては、「バイオスティミュラントとは?肥料や農薬との違い・今後の課題を解説」の記事で詳しくご紹介しています。

腐植酸との関係性

腐植酸は、バイオスティミュラントに有効利用できる資材として期待されている成分の1です。フミン酸やフルボ酸を含む腐植酸は、植物の発芽や発根の促進、微生物の活性化や重金属の吸収といったさまざまな効果が期待できます。そのため、農業の発展につながる新しい成分として腐植酸が世界的に注目されています。

近年では、国内でも腐植酸を含む土壌改良用の商品が数多く開発されており、自然が持つ本来の力を利用した農業の効率化が期待されています。

バイオスティミュラントの効果

腐植酸をはじめとするバイオスティミュラントの資材の効果について、国内の研究では大きく3つに分けた見解が述べられています。これらは、腐植酸などの腐植物資や海藻、アミノ酸、ミネラルなどの自然の素材がもたらす効果です。

促進や向上

バイオスティミュラントは、天候や気温、害虫や病気といった非生物的なストレスに対する耐性を強める作用や、植物の体内でおこなわれる代謝(たいしゃ)の効率を改善・向上させる作用があります。さらに、光合成を促進する作用、開花や着果(ちゃっか)を促進する作用もあります。

調整とコントロール

植物は、葉や茎から水分を蒸発させる「蒸散(じょうさん)」の作用によって体内に必要な水分量を調整しています。また、根が栄養分などを吸収する際の圧力である「浸透圧(しんとうあつ)」も調整しています。バイオスティミュラントは、これらを適切にコントロールする効果があります。

根の活性化

植物の根は、栄養分や水分を吸収したり体を支えたりする重要な役割を担う器官です。バイオスティミュラントは、根の周囲で栄養分などが吸収される「根圏(こんけん)」の環境を改善する作用や、根の量を増加したり活性化したりする作用があります。また、水に溶けにくいミネラルを溶けやすくすることで、根の吸収を促す働きもあります。

【参考】
高木篤史「バイオスティミュラント資材活用による作物の生育等改善」

腐植酸とバイオスティミュラント

腐植酸とバイオスティミュラント

今回は、近年注目されている腐植酸について、成分のフミン酸やフルボ酸の概要と腐植酸の効果、バイオスティミュラントとの関係性やバイオスティミュラントの効果などについてご紹介いたしました。

腐植酸は森林などの土壌に含まれる腐植物資の1つで、発芽や発根の促進、土壌の栄養の保持や環境の調整といったさまざまな効果があります。農業の新しい概念であるバイオスティミュラントに腐植酸を導入することで、自然が持つ本来の力を最大限に利用した農業の効率化が期待できます。

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