フマキラーの前身「薬種商」とは?薬剤師との違いや歴史を解説

フマキラーの前身「薬種商」とは?薬剤師との違いや歴史を解説

かつて医薬品や漢方薬を販売する「薬種商販売業」と呼ばれる仕事がありました。しかし、薬種商制度が廃止されたため、その名前を聞く機会は少なくなりました。フマキラーも前身は薬種商だったことをご存じの方は少ないのではないでしょうか。

本記事では、「薬種商」の概要や薬剤師との違い、歴史などを解説いたします。

薬種商とはどのような仕事?

薬種商とは、指定医薬品以外の医薬品や健康食品、漢方薬などを販売する仕事です。指定医薬品とは、取り扱いについて高度な薬学の知識を必要とする医薬品です。医薬品の持つ化学的性質や薬理的性質を十分に理解していなければ危険性が高く、薬剤師以外の者に取り扱わせることで保健衛生上危害を生ずる恐れがあるとされ、薬種商には販売が許されていませんでした。

フマキラーも前身は薬種商でした。明治7年に薬種商として創業し、明治23年に屋号を大下回春堂(薬種商)と命名しています。大正9年に殺虫剤「強力フマキラー」を製造販売し、昭和37年に社名をフマキラー株式会社に変更しています。

薬種商の許可を受けるには

薬種商の許可を受けるには

薬種商の許可を受けるには、申請者(法人の場合は業務を行う役員など)が指定医薬品以外のすべての医薬品を取り扱うために必要な知識や経験を持たなくてはなりません。そのため、許可の申請者は次の要件に該当する者とされています。

  • 都道府県知事が行う試験の合格者または以前に一度合格したことがある者
  • 大学で薬学の専門課程を修了した者
  • 薬種商販売業の業務を8年以上行っており、都道府県知事が適当と認めた者

大学とは旧制大学、旧専門学校を含みますが、短大は含まれません。薬学士に限り、実務経験がなくても許可を申請できますが、それ以外の人は実務経験が必要です。

店舗の管理は許可の申請者が行うことが薬事法により決められていました。申請者が法人の場合、薬種商販売業の業務を行う役員などが店舗の管理を行う必要があります。

薬種商販売業とは

薬種商販売業は店舗形態の医薬品販売業で、厚生労働大臣の指定する医薬品(指定医薬品)以外の医薬品を販売できるとされています。許可は店舗ごとに所在地の都道府県知事が与えます。ただし、当該許可は店舗の営業許可であり、人に対する試験や免許ではありません。

薬種商は承継者試験も実施されました。薬種商試験は、薬種商販売業者が死亡した場合、配偶者または直系卑属のうち一人に限り受験できるものです。薬種商試験は通常一定の間隔で実施されているため、承継者が薬種商試験に合格して販売業許可を受けるまで医薬品の販売ができなくなってしまいます。

そこで承継者が薬種商販売業者として円滑に業務を承継し、店舗が所在する地域において医薬品の供給が確保できるように承継者試験が実施されました。

改正薬事法で薬種商は廃止に

2009年に施行された改正薬事法で、薬種商販売業は一般販売業と統合され「店舗販売業」になりました。薬種商の名前は廃止され、代わりに登録販売者の資格が新設されています。

薬事法の改正で何が変わった?

薬事法の改正で何が変わった?

2009(平成21)年6月1日に薬事法が改正されました。一般医薬品を販売できる「登録販売者」という資格を設け、薬剤師とは別の新たな専門家の仕組みが設けられたのです。

改正前は業態の種類別に以下のような専門家の配置が求められていました。

業態の種類(改正前) 専門家(資質) 販売可能な一般用医薬品
薬局 薬剤師(国家試験) すべての医薬品
薬店 一般販売業
薬種商販売業 薬種商販売業者

(都道府県試験)

指定医薬品以外の医薬品
配置販売業 配置販売業者

(試験なし)

一定の基準に従った品目
特例販売業 薬事法上定めなし 限定的な品目

【引用】厚生労働省「薬事法の一部を改正する法律の概要

配置販売業とは店舗を持たず、各家庭に医薬品を置いておき、使用された薬の分だけ請求する仕組みです。特例販売業とは過疎地や離島など、薬局が十分に普及していない地域で特殊な品目を扱う必要がある場合に、都道府県知事が店舗ごとに品目を指定して許可を与える販売業です。

新制度では、一般販売業と薬種商販売業が統合されて「店舗販売業」となりました。薬種商販売業者も廃止され、「登録販売者」が新設されています。

業態の種類(改正後) 専門家(資質) 販売可能な一般用医薬品
薬局 薬剤師 すべての医薬品
店舗販売業 薬剤師または登録販売者 ・薬剤師はすべての医薬品

・登録販売者は第一類医薬品を除く医薬品

配置販売業

【引用】厚生労働省「薬事法の一部を改正する法律の概要

医薬品は副作用などのリスクが高い順に第一類・第二類・第三類の3つに分類されます。第一類は薬剤師が常駐する薬局や店舗販売業のみ取り扱えます。第二類・第三類医薬品は、登録販売者でも販売可能です。

薬種商と薬剤師の違い

薬種商と薬剤師の違い

薬剤師になるには、厚生労働省が例年3月初旬に実施する薬剤師国家資格に合格する必要があります。

受験資格は6年制薬学課程を修めて卒業した者です。2006年度から2017年度までに入学した4年制薬学教育課程の卒業生が大学院課程を修了した場合、厚生労働大臣が認めれば受験資格が得られます。薬剤師国家資格に合格すれば、薬剤師を名乗れます。薬剤師の資格は原則として一生有効です。

一方、薬種商になるには許可を申請する必要があり、都道府県が実施する薬種商試験に合格するか、試験を受けなくても許可を与えられるための要件を満たす必要があります。

薬種商と薬剤師では、販売できる医薬品の範囲も異なります。薬剤師はすべての医薬品を販売できますが、薬種商は指定医薬品以外の医薬品です。薬剤師は薬局でも薬店の一般販売業でも専門家として配置されますが、薬種商は薬店の薬種商販売業のみです。

薬局は調剤が可能ですが、薬店は調剤不可で店舗販売のみという違いがあります。

薬種商の歴史

薬種商の歴史

法律で薬種商の名称が見られるようになったのは、明治に入ってからです。明治7年に政府は医制を発布しました。医制に薬種商の名称はなかったものの、地方庁は薬種商営業規則を定めるところが増えていました。

明治22年、薬律と呼ばれる「薬品営業並薬品取扱規則」が交付されます。薬局・薬剤師・薬種商の業務範囲が明確に規定されました。

薬剤師や薬種商は「第1条 薬剤師トハ薬局を開設シ医師ノ処方箋ニ拠リ薬剤ヲ調合スル者ヲ云フ  薬剤師ハ薬品ノ製造及販売ヲ為スコトヲ得」「第20条 薬種商トハ薬品ノ販売ヲ為す者ヲ云フ」「第21条 薬種商ハ地方庁ノ免許鑑札ヲ受クヘシ」と規定されています。

しかし、時代の経過とともに薬剤師会側から薬律の改正を求める声が出てきました。医薬分業の実施および指定医薬品制度を設けてその販売・授与は薬剤師に限定するというものです。法改正で指定医薬品制度を設けるよう促すことになった発端は、薬局方に適合しない薬品を売り渡す薬種商がいたからです。

しかし、指定医薬品制度を設けると薬種商の大部分は営業を失うことになるため、薬種商から反対の声が上がりました。最終的には妥協点を入れて、明治41年1月1日に改正薬律が施行されました。

5年前から就業している薬種商は一代に限り指定医薬品の販売が認められたのです。5年に満たない薬種商も3年はその販売が認められました。薬律の改正をめぐる薬剤師と薬種商の攻防は明治33年に始まり、明治40年3月に薬律改正案が成立するまで満7年を費やすことになりました。

大正14年に薬剤師法が成立しましたが、薬種商については修正されることもなく昭和を迎えます。昭和18年2月27日に薬事法案が可決され、3月12日に交付されます。

薬種商の名前は消え、薬局以外の医薬品販売業を「第1号業者=全品目を扱う者(薬剤師)」「第2号業者=指定医薬品以外を取り扱う者(薬種商)」「第3号業者=限定品目を取り扱う者(旧売薬請売営業)」と区分したのです。

薬種商にとっては不名誉な名称で呼ばれることになりましたが、昭和36年に薬事法が改正され、再び薬種商の名前が復活しました。しかし、名称が元に戻っただけで実態は指定医薬品以外の販売業であることに変わりないうえに、指定医薬品の範囲は拡大しています。

旧法下で既得権を認められた薬種商と指定医薬品の範囲が拡大した新法下の薬種商には、壁ができてしまいました。

薬種商販売業認定試験は難関とされていて、都府道府県薬種商協会の主催で講習会が開かれてきましたが、昭和50年8月に薬種商専門学校の設立が認められ、翌年4月に大阪で開校します。昭和57年には薬種商試験の受験資格が決まりました。

平成18年、薬事法の一部が改正する法律案が成立し、平成21年6月に施行されます。一般販売業と薬種商販売業は統一され、店舗販売業という名称になりました。店頭で一般用医薬品の販売を行い、販売する医薬品の種類によって専門家(薬剤師または登録販売者)を配置しなくてはなりません。

旧薬種商販売業は昭和36年の薬事法改正で一代限り薬種商販売業とみなされましたが、この法改正で法律上消滅しました。これまで医薬品を販売できるのは薬剤師と薬種商でしたが、法改正によって薬種商は廃止され、新たに登録販売者資格が新設されました。

登録販売者は第一類医薬品を除く一般用医薬品の販売を担う専門家で、都道府県が実施する試験に合格し、登録を受ける制度です。過去に薬種商販売業の許可を受けていた方は、登録販売者試験に合格した者とみなされ、従事する薬局や店舗がある都道府県で登録を受けられます。

【参考】社団法人 全日本薬種商協会「全薬協50年のあゆみ

まとめ

明治になって誕生した薬種商は、平成21年に施行された改正薬事法によって廃止されました。薬種商に代わって新たに登録販売者資格が新設されました。登録販売者試験は、以前は受験資格に学歴や実務経験が定められていましたが、2015年4月に撤廃され、誰でも受験できるようになっています。

受験資格がないので独学でも合格を目指せますが、登録販売者として働くには直近5年の間に2年分の実務経験が必要です。登録販売者は需要が高まっているといわれているため、資格を取得して就職に役立てたい方は検討してみてはいかがでしょうか。

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