2022年3月24日 | 虫
オンブバッタは害虫? その生態と植物に与える害とは
初夏から秋によく見かけるオンブバッタ。大きなバッタの上に小さなバッタが乗るという特徴的な姿で親しまれていますが、キクやホウセンカなどの植物の葉を食べ、害をもたらすことがあります。どのようにすれば、庭の草花を守ることができるでしょうか。
今回は、オンブバッタの生態や植物への害、および食害を防いだり必要に応じて駆除したりする方法をご説明いたします。また、オンブバッタなど害虫の駆除に役立つスプレー剤の効果を、わかりやすくまとめてご紹介いたします。
オンブバッタという名前の由来
オンブバッタは、漢字では「負蝗虫」と書きます。大きなバッタの上に小さなバッタが乗っている様子を、おんぶしていると見立てたのでしょう。
実は親子ではなくオスとメス
なぜ2匹のバッタが重なっているのでしょうか。オンブバッタのオスがメスの背中に乗っているのは、次の交尾をさせないためで「交尾後ガード」と呼ばれる行動です。オスは楽をして移動するために乗っているのではなく、次の交尾が起こることを物理的に阻止するために、メスの背中に居座るという行動をします。ただし、これはオンブバッタだけにみられるわけではなく、バッタ類では珍しい行動ではありません。
オンブバッタの外見
オンブバッタはどのような姿をした昆虫なのでしょうか。ここでは、オンブバッタの幼虫と成虫の外見上の特徴をご紹介いたします。
幼虫からバッタの形
オンブバッタは不完全変態の昆虫(後述します)で、卵から孵化(ふか)したときにはもう小さなバッタの形をしています。幼虫は黄緑色の体で、とがった頭・顔をもち、大きな目をしています。
メスの方がオスより大きい
成虫も、植物の葉に止まっても目立たない緑色で、全体が小舟のような形をしています。体長はオスが20〜25㎜程度、メスは42㎜程度で、メスの方が大きいという特徴があります。
英語名は「長い頭」
英語ではSmaller longheaded Locustと呼ばれます。
【参考】Atractomorpha lata (Motschulsky, 1866) | Agriculture and Food
オンブバッタの生態
オンブバッタにはどのような特徴があるのか、昆虫としての生態をご紹介いたしましょう。
バッタの仲間
オンブバッタは直翅目(ちょくしもく)の昆虫で、オンブバッタ科です。日本に生息が確認されているバッタ目の昆虫は100種あまりで、そのうちバッタ科は24種です。日本で見かけるバッタ一般や、近年世界中で話題になっているバッタの大群による被害については、「【世界中で大量発生!?】バッタの生態や特徴、自然環境への影響とは」の記事でご説明しています。
生息する地域
日本各地に分布し、中国や朝鮮半島にも生息しています。
住みつく場所
丈の高い草地を好み、雑草の間でよく姿を見かけます。
活動する時期
成虫は、主に初夏から秋にかけて活動します。卵から幼虫を経て成虫になるまでのライフサイクルは、次項で詳しくご説明いたします。
オンブバッタの行動の特徴
オンブバッタは、あまり飛ばない種です。しかし、植物に取りつく場所があれば高いところまで登ることができ、5mや10mの高さまで移動することがあります。
オンブバッタの生活環
オンブバッタは、どのような一生を送る昆虫なのでしょうか。ここでは、卵から成虫になるまでのライフサイクルをご説明いたします。
不完全変態の昆虫
卵から幼虫へと育ったオンブバッタは、その後蛹(さなぎ)を経ずに成虫となります。このように、昆虫が「さなぎの時代を経ず、幼虫から直接成虫になる」(デジタル大辞泉)ことを、不完全変態といいます。
オンブバッタの卵
オンブバッタのメスは、地中に卵を産みます。卵は、卵嚢(らんのう)という長さ3㎝ほどの袋に入っており、カマキリの卵に似た形状です。卵嚢には、卵の水分を保つなど、孵化までの間卵を保護する働きがあり、寒い冬を卵の状態で越した後、翌年6月ごろに孵化します。
幼虫期
幼虫は、生まれると地上に顔を出し、何度かの脱皮を繰り返しながら成長します。幼虫は8月上旬~9月上旬に羽化します。
【参考】
オンブバッタ孵化「おおきくなあれ」vol.20 – No.24 (2019年3月15日)(大日本図書)
成虫期
8月上旬~9月上旬に羽化した成虫は、11月ごろまで活動します。その間に交尾をして地中に産卵します。成虫は花や野菜を食害することがあるため、家庭菜園や農地では害虫と呼ばれることがあります。オンブバッタによる食害については、次項で説明いたします。
オンブバッタの体色の不思議
オンブバッタには、体色が緑のもの・茶のものの二種類があります。バッタ類の体色は、緑の多い夏に育つと緑色に、植物が少なく石が多い場所で育つと茶色になるようで、それぞれが育った環境に適応していると考えられています。
しかしオンブバッタについては、何度目の脱皮の際に色が変わるのか、脱皮を終えた成虫の段階でも色が変わることがあるのか、まだはっきりわかっていない点があります。また、灰色のオンブバッタについても報告があり、生態についてはこれから明らかになることもありそうです。
オンブバッタによる食害
特徴的な外見と名前で親しまれているオンブバッタですが、植物の葉を食べ、野菜などに害をもたらすことがあります。
オンブバッタがつきやすい植物
他のバッタ類に比べると、双子葉植物を好む傾向が強く、特にキク科の植物を採食することがわかっています。家庭で栽培する植物では、以下のような花や野菜につきやすいといわれているので、予防に注意する必要があるでしょう。
花
- キク(キク科)
- ケイトウ(ヒユ科)
- スイレン(スイレン科)
- ホウセンカ(ツリフネソウ科)
など
野菜
- シソ(シソ科)
- シュンギク(キク科)
- ナス(ナス科)
- ハクサイ(アブラナ科)
など
対策は被害が少ないうちに
オンブバッタの成虫は、植物の葉や茎を食べます。もし花壇や家庭菜園の近くでオンブバッタの姿を見かけたら、早めに対策を取った方がよいでしょう。次項でオンブバッタの害を防ぐ方法と、やむを得ない場合に駆除する方法をご紹介いたします。
オンブバッタの防除
オンブバッタによる害を防ぐには、いくつかの方法があります。
防虫網で植物に覆いをかける
防虫網で植物に覆いをかけ、中に入り込めないようにする方法もあります。先述のとおり、オンブバッタは特にキク科の植物を好んで採食する傾向があります。このため、露地キクの栽培地である香川県では、オンブバッタの幼虫・成虫双方の侵入を防ぐ目的で、ステンレス製の金網が利用されています。
ただし、あまり飛ぶのが得意ではないオンブバッタでも、高さ125cmのネットを容易に乗り越えることもあるため、植物を覆うためにはそれなりの大きさの網を張る工夫が必要のようです。
【参考】
「オンブバッタが通過できない網目サイズとネットを用いた防除に関する一考察」『香川県農業試験場研究報告』58号、2006年3月(PDF)
薬剤によるオンブバッタの駆除
オンブバッタをはじめ、庭など家のまわりで見かける害虫の駆除には、フマキラー「カダン お庭の虫キラーダブルジェット」が便利です。
飛沫が植物にかかっても枯れにくいので、庭の草木や花壇の近くでも使うことができます。適用範囲も幅広く、200種以上の害虫に効果を発揮します。バッタ類では、オンブバッタ、ホシササキリにも使えます。
適用害虫:クモ、アリ、ガ、ムカデ、ダンゴムシ、カメムシ、ケムシ、ユスリカ、タカラダニ、バッタ、ゲジ、ゴミムシ、コオロギ、ヤスデなど
効き目の早い殺虫成分が配合されているので、虫にめがけてスプレーを噴射するだけで素早く退治できて便利です。さらに、虫の好まない成分により、約1ヵ月間寄り付きを予防する効果もあります。虫をよく見かける場所や、虫が集まりそうな場所にあらかじめスプレーしておきましょう。
予防が役に立つケース
虫の姿を見かけてから駆除する方法のほかに、以下のような場合は予防策を取ることもおすすめです。
- 虫が苦手で、姿を見たくない
- 殺虫剤を使いたくない
- 虫の死骸を片付けることにストレスを感じる
忌避効果がある自然薬剤やスプレーによる対策で、虫と出会う機会そのものを減らすことができます。もちろん、虫による害を減らす効果も期待できるでしょう。
害虫対策は、虫の性質や害する植物に合わせて
今回は、親が子を背負っているように見える姿や、どことなくユーモラスな顔つきで親しまれているオンブバッタが、花壇や家庭菜園の花や野菜をかじったり、株を食害したりすることをご説明いたしました。これらの害を防ぐために、植物に覆いをかける方法や、オンブバッタが好まない成分で予防する方法もご紹介いたしました。
しかし、葉の食害に気づいた場合には、被害がそれ以上広がらないうちに駆除を考える必要があります。そのためには、害をもたらしている虫をできるだけ特定し、その虫の性質や好む植物などを知り、それに合わせた対策を取るのが効果的といえるでしょう。
【参考】
「オンブバッタ」日本大百科全書(ニッポニカ) 小学館