アシダカグモは益虫? 駆除すべきかどうか、生態を解説

アシダカグモは益虫? 駆除すべきかどうか、生態を解説

大きなものは、おとなの掌ほどの大きさもあるアシダカグモ。家の中や周りで見かけて、驚いたことはありませんか。あまり見慣れておらず、ひょっとすると毒グモかもしれないと不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、アシダカグモには毒はなく、ゴキブリなど屋内の害虫を食べてくれる「益虫」といわれています。

今回は、アシダカグモが益虫とよばれる理由をご紹介し、駆除するべきなのか、そのままにしておいてよいのかについてご説明いたします。記事の最後では、それでもアシダカグモを見たくない、駆除したいという場合の対策もご紹介いたします。

生物としてのアシダカグモ

アシダカグモはどのような虫なのでしょうか。ここではまず、生物学上の分類や分布などをご説明いたします。

アシダカグモの分類

アシダカグモは節足動物で、クモ目アシダカグモ科の虫です。クモには、同じ場所に網状の巣を張ってじっとエサがかかるのを待つ種と、動き回ってエサを探す種があります。アシダカグモは後者の「徘徊性のクモ」で、網を張って巣を作ることはありません。徘徊するクモとしては日本最大で、近縁にコアシダカグモがあります。

アシダカグモの分布

アシダカグモは、熱帯、温帯地域に広く分布しています。東南アジア地域原産ですが、船の積み荷に便乗して世界中の熱帯・亜熱帯・温帯地域に広まりました。日本では関東以南の温かい土地に生息する外来種ですが、近年の気候の変化によって、より北方の地域でも見かけることが増えています。

「アシダカグモ」という名前の由来

「アシダカグモ」という名前の由来

少し風変わりな名前は、漢字では「足高蜘蛛」(アシダカグモ)と書きます。左右の足を伸ばすと10cmほどにもなり、足が長いことからこの名前が付いたといわれています。英名は「ハンツマン・スパイダー」(狩猟グモ)で、輸入されるバナナの荷によく紛れて移入したことから「バナナ・スパイダー」と呼ばれることもあります。

【参考】Featured Creatures:pantropical huntsman spider, University of Florida

アシダカグモの生態

アシダカグモを他と識別する手がかりになりそうな特徴や、生息場所などをまとめます。

外見上の特徴

アシダカグモは大型のクモで、オスは体長10〜25mm程度、メスは体長20〜30mm程度あります。「体長」とは体の長さのことですが、先述のとおり左右の足を伸ばすと10cmほどの大きさです。全体的に灰色がかった褐色で、体には白、灰色の毛が生えています。

生息場所

民家、神社仏閣、納屋など建物の内外に生息します。

アシダカグモがエサにするもの

アシダカグモは肉食性です。家の中にいるゴキブリやハエ、ガ、カ、ハサミムシなどを捕食します。

活動時間

日中は物陰に潜んでいて、夜になると隠れた場所から這い出てきます。脚を広げて待機し、接近する昆虫などを捕らえます。

アシダカグモの一生

アシダカグモの一生

アシダカグモは初夏に産卵します。卵は、卵嚢(らんのう)とよばれる袋に入っており、白い円盤状の卵嚢ひとつあたり、およそ300個の卵が収まっています。孵化(ふか)した後、脱皮を繰り返しながら成長し、10回目の脱皮で生殖能力を得て卵を産みます。2年かけて成体になります。

アシダカグモの産卵時期は5月~8月です。平均的な寿命は3年ほどですが、個体によっては7年以上生きることもあるそうです。

アシダカグモは害虫か?益虫か?

アシダカグモは害虫なのでしょうか、それとも益虫なのでしょうか。説明の前に、「害虫」「益虫」とはそれぞれどのような虫を指すのか、簡単に確認しましょう。

害虫とはどういう存在か

「害虫」は〝害になる虫〟のことですが、どのような場合に「害になる」と考えるのでしょうか?

「人間にとって有害とみられる小動物,特に昆虫類をいい,その種類は侵害される対象により,農業害虫,林業害虫,衛生害虫,貯穀・食品害虫,衣料害虫,毛皮・皮革害虫,構造物害虫,水産・水路害虫、また見た目の気味悪さや大量発生などで嫌がられる不快害虫などに分けられる。」

【参考】害虫「百科事典マイペディア」(平凡社)

益虫とはどういう存在か

一方、「害虫」の対になることばは「益虫」ですが、どのような虫を指すのでしょうか?

「人間にとって直接または間接に役だつ昆虫の呼称で、害虫に対する語。利用方法により有用昆虫と有益昆虫に分けることができる。」

【参考】益虫「日本大百科全書(ニッポニカ)」(小学館)

害虫か、益虫か

害虫か、益虫か

ここまで、「害虫」と「益虫」の定義を確認しましたが、いずれも「人間にとって」ということばが入っていることがわかります。つまり、「害虫」「益虫」は絶対的なものではなく、その虫のどういう性質をみるか、人間の生活にどのような影響を与えるかによって判断が分かれる、相対的な呼称といえます。

アシダカグモは害虫ではない

アシダカグモは、基本的に人間には害をなしません。また、ばい菌を持ち込む衛生害虫でもありません。まれに、いきなり手で捕まえようとしたり払いのけようとしたりした際、身の危険を感じて人を噛むことはあります。しかし毒性はなく、人間にとって危険な存在でもありません。

アシダカグモの益虫としての側面

アシダカグモは、家の中に出てくるゴキブリやハエ、ガなどをエサにします。衛生害虫のゴキブリはばい菌を持ち込みますし、ハエは不潔な場所から飛来して寄生虫の卵やウイルスを媒介します。ガは、農作物や果樹・庭木などに害をなすことがあります。こうした害虫を捕食する点で、アシダカグモは人間にとって益虫といえます。

アシダカグモ対策

害虫を捕食するアシダカグモは益虫であり、基本的には家の中で見かけたとしても駆除する必要はないでしょう。

どうしてもいやな場合

「虫がきらいで見るのも不快だ」「子どもが怖がる」など、人によってはさまざまな理由で、どうしても屋内にいてほしくない場合もあります。そんなときいくつか簡単にできる対策がありますので、以下にご紹介いたします。

アシダカグモのエサをなくす

アシダカグモのエサをなくす

アシダカグモが、ゴキブリやハエ、ガなどを捕食することは先述のとおりです。したがって、エサとなる害虫が住みにくい家にすることが重要で、こうしたエサをなくすことで、アシダカグモが寄り付きにくくなることが期待できます。

千葉市保健所では、「家の中をクモが住みにくい環境にする」ために、以下の方法を紹介しています。

  • 「食べ物は密封できる容器に保存する」
  • 「生ごみは密封できるごみ箱に捨てる」
  • 「粘着シートや毒餌などによるゴキブリ退治」
  • 「こまめな家の掃除」

【参考】クモの生態と防除方法(千葉市)

ゴキブリが好むような食べ物は封を開けたまま放置しないこと、部屋を掃除して清潔に保つことなどが重要ということでしょう。

秋冬などの涼しい時期にゴキブリを駆除する方法は、【秋冬のゴキブリ対策】越冬させずに駆除する方法を生態とともに解説の記事で詳しくご紹介しています。

殺虫スプレーを使用

どうしても必要な場合には、殺虫スプレーを吹きかけて駆除することもできます。ただし、アシダカグモの卵には殺虫剤が効かないこともありますので注意しましょう。

人の暮らしとアシダカグモ

ここまで、アシダカグモの生態や性質などをご紹介いたしました。また、「益虫」や「害虫」の区別は絶対的なものではなく、人間の生活にどういう影響を与えるかによって変わる、主観的なものであることも確認しました。

アシダカグモは益虫

その上で、ゴキブリ・ハエ・ガなど人間にとって不快な、あるいは有害な昆虫を捕食する性質から、アシダカグモには益虫の側面があることを解説いたしました。

人間やペットに害を与えることはない

体の大きさや、壁や床に張り付いている姿が人の目を引くアシダカグモ。毒があるのではないか、噛んだり刺したりするのではないかと思われがちですが、人間に害をなすことはありません。人が捕まえようとしたり、ペットが近づいたりした場合に噛むこともありますが、きわめてまれで、危険な生物でもありません。

駆除する必要はない

アシダカグモはとくに駆除する必要はなく、むしろ屋内にいると害虫が減ることが期待できる虫といえるでしょう。もちろん、もともと虫が苦手だったりクモが好きでなかったりする場合は、先述のとおり殺虫剤で駆除することもできます。

エサとなる虫が侵入しにくくなる工夫を

エサとなる虫(ゴキブリやハエ、ガなど)を屋内に入り込ませないようにすれば、アシダカグモが住みにくくなるのも事実です。「こまめに部屋を掃除して清潔を保つ」「食べ物を開封したままにしたり生ごみを放置したりしない」など、エサとなる虫が寄り付かないように工夫しましょう。結果的に、アシダカグモを見かける機会も減ることが期待できます。

まとめ

今回は、アシダカグモの生態と特徴、屋内に寄り付きにくくする工夫について解説いたしました。アシダカグモは人間に害がなく、むしろ全般的には益する面がある虫です。

どうしても見たくないという場合を除いては、とくに駆除する必要はないといえるでしょう。上手に棲み分けることができれば、害虫を捕食する性質に着目して共生することも可能なのかもしれません。

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