2021年11月26日 | 虫
冬の到来を告げるトドノネオオワタムシとは?
北海道の初雪前に姿をみせるというユキムシ(雪虫)は、冬に発生することの多い害虫「トドノネオオワタムシ」などの昆虫です。この記事では、本州で見られるユキムシではなく、北海道に分布しているユキムシ「トドノネオオワタムシ」についてご紹介いたします。また、時折大量発生する原因についても考え、防除の方法についてご説明いたします。
トドノネオオワタムシとは
まるで古代の神話に出てくるかのような長い名前のトドノネオオワタムシ。漢字では「椴之根大綿虫」と書きます。
アブラムシの仲間
トドノネオオワタムシは半翅目タマワタムシ科で、北海道に分布するアブラムシの一種です。
名前の由来
北海道の山地に生える、マツ科のトドマツの根に住む時期があることから、この名前があります。
トドノネオオワタムシの生態
それでは、トドノネオオワタムシはどのように生きている虫なのかご説明いたします。
生息地
北海道に生息しています。本州で見られるユキムシは「トドノネオオワタムシ」ではなく、「リンゴワタムシ」「ケヤキヒトスジワタムシ」などと思われます。
トドノネオオワタムシの一生
- 春:山地の谷や湿地に生えるモクセイ科のヤチダモの木に住みます。
- 初夏:ヤチダモを離れ、トドマツ(マツ科)の木の根に引っ越します。
- 夏:土の中で繁殖します。
- 晩秋:地中から地面に出て、再びヤチダモの木に戻ります。
- 初冬:ふわふわと白い綿状の分泌物を体につけ、群れて飛びます。
体についた白い綿はロウ
初冬のトドノネオオワタムシは、綿のように見える白いふわふわしたものを体につけています。これは綿状の蝋(ろう)で、トドノネオオワタムシが「粉雪」に見立てられる理由になっています。
「雪の前触れ」は本当か
北海道では、トドノネオオワタムシが飛ぶようになると雪が降るといわれています。民間気象情報会社のウェザーニューズは、「雪虫が大量発生してから約1週間~10日で初雪が降る」俗説が本当なのかを調査しています。
同社は、札幌・旭川・函館・苫小牧・網走・根室・釧路・帯広の8都市に住む携帯サイト利用者の協力を得て調査。調査年や都市によってばらつきがあり、トドノネオオワタムシを見かけてから初雪までは平均22日だった、という結果を発表しています。
【参考】雪虫の大量発生から初雪まで22日、俗説より1週間以上も遅め(ウェザーニューズ)
トドノネオオワタムシによる害
「冬の妖精」ともいわれるトドノネオオワタムシですが、害虫に分類されるのはなぜでしょうか。
2019年、2020年の大発生
トドノネオオワタムシは、最近では2019年、2020年に大発生しています。基本的には無害な存在ですが、あまりにも数が多く人間の生活環境に近いため、いろいろな問題が起こりました。
車や家の外壁が汚損される問題
大発生により、駐車中の車や家の外壁にトドノネオオワタムシの死骸がびっしり付いて汚れる被害がありました。虫の死骸は見た目にも気持ちのよくないものですが、トドノネオオワタムシに触れたり吸い込んだりすることで起きるアレルギー疾患もある(後述)ため、洗車や掃除の際に気をつける必要もあるでしょう。
農産物の被害
また、トドノネオオワタムシの死骸が野菜に入り込むと、腐ったりカビが生えたりする原因にもなります。農作物の商品価値を下げる要因にもなりかねないため、大発生はやはり好ましいことではありません。
マツ科・モクセイ科樹木の食害
トドノネオオワタムシは、以下のような木に付いて樹液を吸います。
- ヤチダモ(モクセイ科)
- アオダモ(モクセイ科)
- ハシドイ(モクセイ科)
- トドマツ(マツ科)
- トネリコ(モクセイ科)
造林のために植えられた苗木に寄生して、葉を縮らせるなどの害を与えることもあり、増えすぎると林業にも悪影響を及ぼします。
大量発生の原因は夏・秋の高温
トドノネオオワタムシが大量発生した2019年、2020年は、夏から秋にかけての気温が高い年でした。高温の環境下では昆虫の成長が早まり、繁殖も盛んになります。トドノネオオワタムシの場合は、卵が孵化して幼虫が生まれ、それが成虫になってまた産卵する、というサイクルが一年のうちに何度も繰り返されるため、数世代にわたる大発生につながったとみられています。
トドノネオオワタムシによる健康被害
トドノネオオワタムシが皮膚に触れたり、死骸などを鼻や口から吸い込んだりすることで起きるアレルギー疾患があります。上記のように大量発生した年には、アレルギーによる健康被害が心配されました。
今のところ、トドノネオオワタムシに対するアレルギーの有無を調べる試薬がないために、アレルギー検査はできません。しかし、トドノネオオワタムシの仲間であるアブラムシのエキスを用いた検査では、「アレルギーをもつ人の10人中3人で、強い皮膚アレルギーが起こった」という結果が報告されています。トドノネオオワタムシが増える時期には、体や粘膜に触れさせないような工夫が必要です。
【参考】「雪虫」 記録的残暑で今年も大量発生か アレルギー予防のためには「つぶさないことが重要」(FNNプライムオンライン)
トドノネオオワタムシの害を防ぐ方法
それでは、家の周りにトドノネオオワタムシを増やさない方法はあるのでしょうか。
モクセイ科の樹木を植えない
虫にはそれぞれ、好んで食べる木や植物があります。トドノネオオワタムシに限らず、虫が集まってくるのを避けたいのであれば、原因になる木や植物を家の周りに植えないというのも方法のひとつです。トドノネオオワタムシの場合は、トドマツの木を家の近くに植えないのも効果的な対策といえます。
窓や扉には網戸を使う
トドノネオオワタムシは、1㎝にも満たない小さな虫です。発生を防ぐことはできないまでも、家の窓や玄関のドアなど、外に開放する部分に目の細かい網戸を使うことで、家の中に入り込むのを防ぐことができます。
アレルギー予防に、肌や目・鼻・口を覆う
先述のとおり、トドノネオオワタムシが肌に触れたり、死骸などを吸い込んだりすると、アレルギーを起こす可能性があります。冬のはじめに群れて飛ぶトドノネオオワタムシのアレルギー予防には、花粉の時期に使うものが役立ちます。たとえば、次のような方法で体を覆うと効果的です。
- 帽子をかぶる
- ゴーグルをかける
- マスクをする
- スカーフなどで鼻や口を覆う
- 手袋を使う
毛足の長い帽子やマフラーにトドノネオオワタムシが付くと、ブラシをかけても取りにくいことがあります。トドノネオオワタムシを多く見かける初冬のころには、表面がつるつるとした帽子やジャケット、手袋を使うとよいでしょう。
うがい・洗顔など外出後の対策
アレルギーを引き起こす原因になるのは、体に付いたり吸い込んだりしたトドノネオオワタムシです。花粉症などのアレルギーをもつ方は、外出から帰ったとき玄関の外で帽子やジャケットを振り払うことで、衣類に付いた虫や死骸などを落とすことができます。また、屋外に出た後はうがい・洗顔・目を洗うなどすると、トドノネオオワタムシがアレルゲンとなる目や鼻、呼吸器の反応を減らすことが期待できます。
トドノネオオワタムシの対策
今回は、トドノネオオワタムシがアブラムシの一種であるということや、「雪虫」と呼ばれるとおり冬のはじめによく見かけることをご紹介いたしました。
トドノネオオワタムシそのものは無害な昆虫ですが、あまりにも大量に発生した場合は、車の車体や家の外壁を汚すだけでなく、農作物や樹木に害が出ます。また、トドノネオオワタムシを吸い込んでしまうことで引き起こすアレルギーも危惧されています。
積極的に駆除をする必要はありませんが、体質によっては、トドノネオオワタムシをよく見かける時期の外出には気をつけたほうがよさそうです。
【参考】
「トドノネオオワタムシ」(世界大百科事典第2版)
「ユキムシ」日本大百科全書(ニッポニカ)