2021年9月15日 | 虫
【ハネカクシの駆除方法】発生源・やけど虫と呼ばれる理由を解説
夏の山や草むらに出かけた後、肌が赤くはれて痛んだり、やけどをしたときのような水ぶくれができたりしたことはありませんか。もしかするとそれは、ハネカクシのせいかもしれません。
今回は、ハネカクシという変わった名前の昆虫のなかから、「やけど虫」と呼ばれるアオバアリガタハネカクシを取り上げ、その生態や駆除方法、触れてしまった場合の応急処置について詳しくご説明いたします。
ハネカクシの特徴
ハネカクシはアリによく似た、細長い形の甲虫(堅い外皮に包まれた体と、厚くて堅い前ばねが特徴の昆虫)です。なかでも注意が必要なアオバアリガタハネカクシは、体長7ミリほど、黒い頭に前胸と中胸がオレンジ、後胸と腹部背面が黒という、黒とオレンジのツートンカラーの虫です。
名前の由来
ハネカクシの前ばねは小さく、後ろばねはその下に細かくたたまれています。まるではねを隠しているように見えることから、「ハネカクシ」の名がついたといわれています。ハネカクシには、左右のはねのたたみ方が対称でないという珍しい特徴があり、昆虫学者のみならず、航空宇宙工学や機械工学の研究者にも注目されています。
【参考】昆虫界の“最難”折りたたみ:ハネカクシの翅の隠し方を解明(東京大学生産技術研究所)
ハネカクシの分類
甲虫目のハネカクシは、分類上はカブトムシに近い虫です。仲間の種類は非常に多く、世界で約3万種といわれ、現在日本で確認されているハネカクシの仲間は1920種あります。
日本にいる主な種類
日本にいる主なハネカクシには、次のような種類があります。
- セスジチビハネカクシ
- ヒラタハネカクシ
- セスジハネカクシ
- ヨツメハネカクシ
- ツツハネカクシ
- オオキバハネカクシ
- メダカオオキバハネカクシ
- メダカハネカクシ
- アリガタハネカクシ
- コガシラハネカクシ
- オオハネカクシ
- キノコハネカクシ
- チビハネカクシ
- ヒゲブトハネカクシ
【参考】ハネカクシのおもな種類〔標本画〕、日本大百科全書(ニッポニカ)、(小学館)
ハネカクシの生態~アオバアリガタハネカクシを一例として
先述のとおり、ハネカクシの仲間は非常に種類が多く、生息地も広域です。肉食性の種もあれば、草食性の種もいるという具合で生態も多様なので、ここでは後に触れるアオバアリガタハネカクシについて具体的にご説明いたします。
生息地~どの地域に住んでいるか
アオバアリガタハネカクシは、北海道から本州、四国、九州・沖縄まで、日本全国に分布しています。
生息場所~どんな場所を好んで住むか
湿った場所を好み、よく見かけるのは水田の周辺や湖沼、池などです。落ち葉の中や石の下などに生息していることもあります。
ライフサイクル~どんな一生を送るのか
卵―幼虫―さなぎ―成虫という生涯を送ります。
産卵
アオバアリガタハネカクシのメスの成虫は、一年ほどの寿命のうちに18~100個ほどの卵を産みます。
孵化
卵は3~19日で孵化(ふか)して幼虫になります。
幼虫
幼虫は脱皮しながら成長します。一齢幼虫(孵化した後の幼虫)は平均10日ほどで脱皮し、二齢幼虫(一度脱皮した幼虫)は平均16日程度で、地中でさなぎになります。
さなぎ
さなぎは3~12日ほどで羽化します。
【参考】アオバアリガタハネカクシ(環境コントロールセンター)
活動する時期
アオバアリガタハネカクシの成虫は、春から秋にかけてよく見かけます。6月から9月にかけてもっとも活発になり、後に解説するやけどのあとのような皮膚炎の被害も、夏に集中して起こります。
エサ~何を食べるか
アオバアリガタハネカクシは雑食性ですが、他の昆虫を好んで食べることがあります。地中の虫を捕食することから、農業においては益虫の側面があるといえます。
光に寄る習性
アオバアリガタハネカクシなどハネカクシの仲間は、走行性といって光に集まる習性があります。街灯や玄関灯に集まっているのをよく見かけますが、窓からもれてくる灯りに誘われて、屋内に入り込むことがあります。
アオバアリガタハネカクシの害
アオバアリガタハネカクシは、別名「やけど虫」と呼ばれます。体液に触れると、数時間後に線状皮膚炎(俗にいう「みみずばれ」)を起こし、やけどのような強い痛みをもたらすからです。
線状皮膚炎を起こす原因は毒素
体液に触れると線状皮膚炎(みみずばれ)を起こすのは、ペデリンという毒素が含まれているからです。アオバアリガタハネカクシにとっては、鳥などに捕食されないように身を守るための毒ですが、「1匹分のペデリンでハツカネズミ1匹が死ぬほど毒性が強い」ともいわれ、注意が必要です。
卵・幼虫・さなぎにも注意
毒素をもっているのはアオバアリガタハネカクシの成虫だけでなく、卵・幼虫・さなぎも同様です。たとえ死骸であっても、不用意に素手で触れないようにしましょう。
手で払わないこと
「手で捕まえようとした」「気づかずに触れてしまった」という以外に、肌に止まったハネカクシを手で払ったり叩こうとしたりして、体液に触れてしまう事例がよくあります。毒素は体液に含まれるので、近づいてきても直接手で払ったり叩いたりせず、追い払う場合はハンカチや帽子などを使いましょう。
なお、アオバアリガタハネカクシ以外のハネカクシには、これほど強い毒はないようです。
アオバアリガタハネカクシに触ってしまったら
もしアオバアリガタハネカクシに触ってしまったら、せっけんを使って流水でよく洗い流しましょう。その後、早いうちに医師の診察を受けたほうが安全です。体液が付着しているとそこから広がる危険性があるので、触れた場所を手でこすったり、その手で別な場所に触れたりするのは避けてください。
目をこすらないこと
アオバアリガタハネカクシに触れた場合、目をこすったりしないようにしてください。もし体液に含まれるペデリンが目に入った場合、結膜炎・角膜潰瘍を起こす危険性もあるからです。
【参考】「失明の可能性も」謎の炎症起こす“やけど虫”の正体は(西日本新聞)
医師の診察を受けること
アオバアリガタハネカクシに触ってしまったら、触れた部位によって皮膚科か眼科を受診しましょう。
肌に水ぶくれが出た場合は皮膚科へ
きちんと治療を受けないと、あとが残ることもあるので、皮膚科を受診して医師の助言を受けましょう。ステロイド剤の塗布が有効といわれており、治るまでに通常1週間から3週間かかります。
目に入った場合は眼科へ
アオバアリガタハネカクシに接触した手で目を触ってしまった場合は、すぐに水で洗い流したうえで眼科を受診しましょう。
ハネカクシの予防と対策
それでは、ハネカクシによる人的被害を防ぐための対策についてご説明いたします。
家まわりのハネカクシ対策
ハネカクシには、光に集まる習性があることをご説明いたしました。屋内への侵入を防ぐためにも、とくに夜はドアや窓を閉めることが大切です。また、遮光性のカーテンで室内の灯りが外にもれないように工夫することもおすすめです。
夏は活動の最盛期でもありますので、ハネカクシが室内に入り込まないよう、窓を開ける際は網戸にしましょう。体の小さな虫ですから、目の細かい網戸にしておくのも対策のひとつです。網戸には、忌避剤をスプレーしておくとさらに安心です。
玄関灯にはガなどの虫も寄り付きやすいため、LED照明に替えたり、網戸と同様に忌避剤をスプレーしたり、虫が近付きにくくなる対策をしましょう。家の周りに落ち葉や石がある場合、ハネカクシの住みかにならないよう取り除いておくのもよいでしょう。
夏に屋外で過ごすときの対策
ハネカクシが活動的な6~9月にかけて外出する際、とくに川や湖沼の近くに出かけるときは、帽子をかぶったり長袖を着たりするなど、肌を露出しないほうが虫の害を減らすことができます。
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植物にかかっても枯れにくいので、庭木や花壇の周りでも安心して使用でき、クモ・アリ・ムカデ・ダンゴムシなどが好みそうな場所にあらかじめスプレーしておけば、およそ1ヵ月虫の住みつきを予防することも可能。ただし、雨がかかったときには効果が弱まるので、追加でスプレーをしてください。
夏は、外出時の予防と住まいの対策を
うっかり触れると線状皮膚炎(みみずばれ)や結膜炎を起こす、ハネカクシ科のアオバアリガタハネカクシ。成虫がもっとも活動する夏場、ハイキングやキャンプで野山に出かける際は、帽子をかぶったり長袖を着たりするなど、肌を露出しないようにして虫の害を減らしましょう。
また、住まいの対策も大切です。夜は窓を閉め、夏場なら網戸にすることで、アオバアリガタハネカクシが屋内に入り込まないよう工夫することができます。網戸に忌避剤をスプレーするのも効果的でしょう。
予防や対策は万全にして、虫に悩まされることのない楽しい夏を過ごしましょう。
【参考】「ハネカクシ」日本大百科全書(ニッポニカ)、(小学館)