2018年10月25日 | 虫
秋の夜長は虫の「声」を楽しもう
人の体温を超えるような猛暑だった夏もようやく終わり、秋の気配がやってくると、ちょっと郊外や公園、原っぱ等に行けば様々な虫の声が聞こえてきます。心が洗われる爽やかな気分になりますね。実際虫の声にはリラックス効果があるという研究もあるようです。
筆者もかつて、クツワムシの大合唱の小道を「むしのこえ」という歌を歌いながら下校したことをはっきりと覚えています。おそらくみなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
1)あれまつむしがないている
チンチロチンチロチンチロリン
あれすずむしもなきだした
リンリンリンリンリインリン
あきのよながをなきとおす
ああおもしろいむしのこえ2)キリキリキリキリこおろぎや
ガチャガチャガチャガチャくつわむし
あとからうまおいおいついて
チョンチョンチョンチョンスイッチョン
あきのよながをなきとおす
ああおもしろいむしのこえ
[引用元]むしのこえ-Wikipediaより
なんと1910年の尋常小学校唱歌として登場して以来小学校等でも歌われ続け、2007年には「日本の歌100選」に選ばれた歌です。まさに日本の心の歌ですね。やはり日本人と、秋と、虫の声には古来から深い関係があるのですね。
この歌には5種類の代表的な虫が、その鳴き声とともに歌われています。虫の声を言葉で表すのは大変難しく、人によって聞こえ方は様々ですが、この歌を歌っていると、そう聞こえてくるから不思議です。
最初に出てくるのは「マツムシ」
コオロギ科の昆虫です。昔はスズムシのことをマツムシ、マツムシのことをスズムシ、と読んでいたり混同されることも多かったようです。スズムシよりは大きく、身体は淡褐色です。
この歌の歌詞と同様に、美しい声で確かに「チンチロチンチロリン」と鳴きます。非常に高い金属的な音が特徴です。
続いて「スズムシ」
スズムシもマツムシと同じコオロギ科の昆虫です。
平安貴族がカゴに入れて楽しんでいたという、古くから日本人になじみの深い虫です。江戸時代からは人工飼育がなされ、虫売りが販売するというビジネスが生まれました。まさに夏から秋の風物詩となった虫と言えるでしょう。
この歌の歌詞同様に鳴き声は「リンリンリンリンリインリン」です。まさに細かく早く鈴を振動させたようなとても美しい声です。
歌の2番は「コオロギ」から。
バッタの仲間で、キリギリス属に分類されます。バッタにもあるように、緑色と褐色の個体がいます。
鳴き声は歌では韻を踏んで「キリキリキリキリ」となっていますが、「ギリーッス、ギリーッス」と聞こえるのは私だけでしょうか。
その鳴き声から「ギッチョン」と呼ばれることもあります。キリギリスも虫かごに入れて飼育されることが多い人間となじみの深い虫ですね。
そして「クツワムシ」。
やはりキリギリスの仲間です。歌では「ガチャガチャガチャガチャ」とありますが、まさにその通り。集団で鳴くことが多く、ちょっとうるさい合唱団のようです。伊豆半島以西の本州各地から九州にかけてよく見られます。
最後に登場するのが「ウマオイ」
これまたキリギリスの仲間です。鳴き声が馬子が馬を追う時に発する声のように聞こえるところからその名がついたとの説が有力です。
歌では「チョンチョンチョンチョンスイッチョン」。おもに林に住むハヤシノウマオイと畑に住むハタケノウマオイに分類され、ハヤシノウマオイは「スイーーッチョン」と伸びるのに対し、ハタケノウマオイは「シッチョン」と短く鳴きます。
この歌では、二つのウマオイの鳴き声を合わせたようになっているところが面白いですね。
虫はなぜ鳴くのか
まず、オスがメスを呼ぶためです。いわば婚活・求愛ですね。
つまりオスの虫しか鳴きません。そして鳴くといっても、口から声を出すわけではなく、背中の羽をすり合わせて鳴きます。そのため鳴くための羽を持っているのはオスだけです。
いつから鳴くのか
やはり気温が一番のキーワードでしょう。夜の気温が30度を下回り始めると鳴き始め、15度に下がる頃まで鳴くことが多いようです。ちょうど夏の終わりから秋の初めに虫が鳴き始めると言う実感と一致しています。
そして、虫は夜、暗くなってから鳴くことが多いとされています。しかし、秋も深まり冷えてくるとスズムシなどは昼でも鳴くことがあります。
虫の「声」は日本人にしか聞こえないのか?
東京医科歯科大学の角田忠信名誉教授の研究によれば、日本人とポリネシア人の脳の働きは、他の民族と比べて大きな違いがある、と主張されています。
これを要約すると、人間には右脳と左脳があり、右脳は感性や感覚を扱い、「音楽脳」と言われるのに対して、左脳は、言語や論理を扱い、「言語脳」と言われています。
そして、虫の鳴き声を始め、風の音、川の流れなど森羅万象・自然の音について、日本人とポリネシア人は「言語脳」(左脳)で認識しているのに対し、多くの民族は「音楽脳」(右脳)で認識しています。
だから、日本人は虫の声を「言語」として認識するのに対し、外国人には「雑音」にしか聞こえない、と言う説です。
このため日本人には、虫の「音」ではなく「声」と言う認識があり、チンチロリンとかスイッチョンとか、自然に言葉に表すことができるのでしょう。
そして、これは民族的な問題ではなく言語の問題であるともおっしゃっています。(賛否両論あるようですが)
つまり、日本人でも他国語で育てば右脳で認識し、外国人でも日本語で育てば左脳で認識する、と言うことです。
古くから自然を崇め、森羅万象の声を聴き、動植物の魂と触れあってきた日本人ならではの感性が虫の「声」を季節とともに享受してきたと言えるかもしれません。
この秋の夜長もしっとりと虫の声を楽しみたいですね。