2019年7月5日 | 虫
ナメクジとカタツムリの違いは?それぞれの特性を徹底解説
ナメクジとカタツムリ、その違いは殻をつけているかいないかで、「カタツムリから殻を外せばナメクジになる」や「カタツムリも塩をかけたら溶ける」など、子どもの頃に誰でも一度は思ったのではないでしょうか。
実際にカタツムリに塩をかけた人がいたかどうかはともかく、実はどちらも同じ「巻貝」の仲間です。
生物学的分類で見ると、軟体動物門、腹足鋼(ふくそくこう)、有肺目(ゆうはいもく)に属する陸生貝類が「カタツムリ」と言われ、その中の一部で貝殻が退化してなくなったのが「ナメクジ」となります。
つまりカタツムリのグループの中にナメクジが含まれているということで、“同じ生き物”と思った子どもの頃の記憶も、あながち的外れではなかったようです。ここでは、ナメクジとカタツムリのそれぞれの特徴などについて紹介していきます。
ナメクジの特徴
分類
- 陸で生活する巻貝の仲間
生物学上の分類でみると、ナメクジ(蛞蝓)は「腹足鋼(ふくそくこう)」という軟体動物門に属します。読んで字のごとく腹面が幅広い足となって“はい歩く”生き物としてアワビやサザエなどが腹足鋼に分類されます。
この腹足鋼のなかでも陸で生活するナメクジはカタツムリとともに「有肺目(ゆうはいもく)」に分かれ、さらにナメクジは「ナメクジ科」、カタツムリは「カタツムリ科」に分かれます。
形態
- 殻を退化させるという進化
殻を持った貝から進化し、殻を脱ぎ捨てる道を選んだナメクジは、殻を退化させるという進化によって狭い隙間に入り込む術を身に付けています。しかし、殻がないため、敵に狙われたときは無防備ですし、乾燥にも弱いという弊害もあります。
ナメクジの頭部には、大小2対の触覚があり、大触覚(後触覚)の先端には目がついています。
生態
- じめじめしたところを好む夜行性
じめじめしたところを好むナメクジは夜行性のため、日中は落ち葉の中や植木鉢の下、プランターの陰や草花の陰などいずれも湿気のある場所で過ごします。
プランターへの水やりの際、葉っぱの裏にナメクジを発見しドキッとした人も少なくないのではないでしょうか。雨の日や雨上がりの翌日などは日中でもその姿を見かけることもありますが、天気のいい日に見かけることはほとんどありません。
エサや天敵は
夜になるとエサである葉っぱや花、野菜などを食べに活動しはじめます。ナメクジが通ったあとは粘液でピカピカに光って残るため、その道をたどれば見つけることができます。
ナメクジの口の中には、歯舌(しぜつ)と呼ばれる、軟骨性でヤスリ状に並んだおろし金のような歯があります。この歯舌を使って食べ物を削り取って摂取します。
ナメクジの天敵は、オサムシ、マイマイカブリ、コウガイビルなど。オサムシやマイマイカブリはおもに雑木林などに生息する昆虫のため、日常あまり見かけることはありません。コウガイビルは頭が笄(コウガイ:半月型をした昔の女性の髪飾り)の形に似ていることからその名がついた生き物(ヒルの仲間ではありません)。雨の日などにその姿を見た人もいるのではないでしょうか。
冬から春にかけて繁殖
梅雨のイメージが強いナメクジですが、一年を通して身近な場所でひっそりと生息しています。特にナメクジはカエルやヘビ同様自分で体温調節できない変温動物。寒いと代謝が上がらず活動が鈍ってしまうのです。
冬から春にかけて繁殖期を迎えるナメクジは、キラキラした小さな卵を土の中に産みつけます。ナメクジは雄や雌の性別がない雌雄同体(しゆうどうたい:一匹の中に雄雌両方の生殖器官を備えている)のため、交尾の際、お互いの精子を注入し合いどちらも産卵することが可能です。交尾をしなくても産卵できますが、卵の数が少なくなったり、孵化できない確率が高くなるようです。
寿命はおよそ1年
日本でも家屋などでよく見かける「チャコウラナメクジ」の生態を例に見ると、1年で成長し、冬から春にかけて産卵します。1回で卵を産む数は20〜60個。年間10回前後産卵するので、年間約200〜300個の卵を産み、産卵を終えるとその生涯を閉じます。
卵は春ごろから羽化がはじまって、梅雨の時期にはたくさんのナメクジが地上にやってきます。
日本でよく見るナメクジ
ひとくちにナメクジと言っても種類は豊富で、世界的に見ると約1000種が生息していると言います。日本国内には20〜30種が生息。ここでは比較的目にしやすい4種を紹介します。
ナメクジ
体長は這っている時で10cm程度の在来種。全体的に灰色で、体の両脇に黒い線が入っています。
チャコウラナメクジ
体長約7cm程度。背中に2~3本線の模様が入っているヨーロッパ原産の帰化種。日本の
家屋周辺でよく見かける種類で、農業害虫とされています。
ノハラナメクジ
体長は2~5cm程度と小柄の外来種。全体的に茶色~こげ茶で模様はありません。日本の
家屋周辺でよく見かける種類です。
ヤマナメクジ
体長は10~15cm程度(15cmを越えるものも珍しくない)。山間部に生息する巨大ナメクジ。茶色~灰色で、側面に線のような模様があります。
カタツムリの特徴
続いてカタツムリの特徴を見ていきましょう。
分類
- 陸に住む巻貝=陸貝
生物学上の分類によると、カタツムリ(蝸牛)も、ナメクジ同様「腹足鋼(ふくそくこう)」という軟体動物門の中で「有肺類(ゆうはいもく)」に属し、「カタツムリ科」に分かれます。ちなみに「カタツムリ」とは陸に生息する巻貝の総称。生物学的な分類上でカタツムリという明確な定義はなく、正式には「陸貝(陸に住む巻貝)」に分類されます。
形態
- 殻は体の器官のひとつ
背中に背負った殻と体は別物ではなく、殻は体の器官のひとつであり中には内臓もあります。頭部には、大小2対の触覚があり、大触覚(後触覚)の先端には目がついています。
触覚のある頭部下面には口があり、口内の上には顎板(がくばん)が、底部にはおろし金状の歯舌(しぜつ)があり、この歯舌でエサを削り取って食べます。
生態
- 夜行性で雌雄同体
カタツムリは、北から南までほぼ全国的に生息しています。活発に活動する時期は雨が多い6~8月。雨や朝露に濡れた草花の上などでその姿を見ることができますが、夜行性のため日中はほとんどじっとしています。
寒さや乾燥に弱いため、それ以外の時期はあまり活動的ではありません。個体によっては、夏には夏眠、冬には冬眠するものもいるようです。
また、カタツムリもナメクジ同様、雄や雌の性別がない雌雄同体。6~8月の繁殖期には、個体同士でそれぞれの精子を渡し合い、受精、産卵します。
日本でよく見る「オナジマイマイ」の場合、春〜秋にかけて産卵。1回20〜30個の卵を産み、年間10回前後産卵するため、合計200〜300個の卵を産みます。
コンクリートも食べる雑食性
カタツムリもナメクジ同様に雑食性で、草花や野菜はもちろん、キノコや苔、驚くことにコンクリートなどもエサにしてしまいます。というのも、カタツムリの殻は、「炭酸カルシウム」でできているため、殻の栄養のためカルシウムを取らなければならず、塀などのコンクリートを舐めに集まってきます。
天敵は名前の由来にもなったあの虫
カタツムリの天敵は、ナメクジ同様、オサムシ、マイマイカブリ、コウガイビルなど。なかでも、マイマイカブリは名前の由来にもなったほどで、カタツムリの殻の入り口から頭を突っ込み、鋭い牙を突き刺して消火液を出しながら肉を溶かして捕食します。この殻を破った様子からその名がついたと言います。
カタツムリの種類
カタツムリの種類は日本国内だけで、約700~800種類いると言われています。日本の人家周辺でよく見かけるカタツムリと言われているのは、「オナジマイマイ科」「ウスワカマイマイ科」の種類が代表的。ここでは、日本に生息するカタツムリを見てみましょう。
オナジマイマイ
オナジマイマイ科。北海道南部以南の各地に分布し、人家付近や庭園、田畑などに生息。貝殻は半透明の黄褐色か褐色で、褐色の色帯が一本入るものと入らないものがあります。
ヒダリマキマイマイ
オナジマイマイ科。本州の中部地方、関東地方、東北地方などに分布し、森林や草原などに生息。軟体の背面は、黄褐色の斑点が点在しています。
ウスカワマイマイ
オナジマイマイ科。北海道南部~九州にかけて分布。日本産のカタツムリでは、オナジマイマイに匹敵するほどの分布の広さがあり、人家近くの庭園や農耕地などでよく見ることができます。半透明の殻を持ち、軟体はクリーム色をしています。
ミスジマイマイ
オナジマイマイ科。関東地方南部、中部地方東部などに分布し、山地の広葉樹の疎林など地上から樹上にまで生息。殻にははっきりと3本の色帯が目立つことからこの名がつきました。
ニッポンマイマイ
ナンバマイマイ科。本州に広範囲に分布し、林などの草むらに生息。殻に模様のあるもの、ないものなどいろいろいます。
「でんでん虫」や「マイマイ」の由来は
童謡にもあるようにカタツムリには「でんでん虫」という呼び名がありますね。これは、「出出虫(ででむし)」が変化した語であると言われ、その昔、子どもたちが「殻から出てこい」「出よ出よ」とはやし立てたことが由来と言われています。また、マイマイの語源は渦巻き状の殻「巻き巻き」から来ているそうです。
エスカルゴのカタツムリ
フランス料理のエスカルゴは、専用のぶどう畑などで、寄生虫がつかないよう衛生的に育てられたリンゴマイマイ科のカタツムリを使用するのが一般的とされています。子どもの頃、カタツムリを食べると聞いて驚いた人も、カタツムリが巻貝の仲間と知ったいま、あの美味しさにさらに納得がいったのではないでしょうか。
ナメクジとカタツムリは違う生き物
ここまで紹介してきた中でも、ナメクジとカタツムリには共通点がとても多いことに気づきます。ナメクジとカタツムリの違いはずばり「殻があるかないか」です。たったこれだけですが、この違いによって両者は別の生き物として存在しています。
- ナメクジには殻がなく、カタツムリには殻がある
- ナメクジは殻がないぶん、カタツムリより狭い隙間に入れる
- カタツムリは殻があることで、ナメクジより寒さ・暑さに強い
- カタツムリは殻があるため、カルシウムを必要とする
ナメクジとカタツムリに関するよくある質問
見た目が似ていることから、誰でも一度は思った疑問についてみていきましょう。
どちらも塩をかけたら溶ける?
ナメクジに塩をかけたら溶けると言いますが、実際に溶けているわけではありません。ナメクジの体はおよそ9割が水でできています。そのため塩をかけると浸透圧が変わり外に水分が出てしまうことで起こる現象です。カタツムリに塩をかけても同じように縮みます。
カタツムリの殻をとったらどうなる?
カタツムリの殻は体の一部です。炭酸カルシウムでできていて、人間に例えると骨のようなもの。中には内臓が入っているので無理に殻をはがすと、カタツムリは死んでしまいます。カタツムリの殻をはがしてもナメクジにはなりませんし、ナメクジが成長してもカタツムリにはなりません。
体についているネバネバの正体は?
ナメクジやカタツムリは乾燥を防ぐために体から水分を出しています。水だけではすぐに流れ落ちてしまうため、ネバネバの粘液を出して水を体にまとわりつかせています。また、体をネバネバさせることで移動時の滑りをよくする効果もあると言います。
それぞれ寿命はどれくらい?
ナメクジの寿命はおよそ1~3年、カタツムリの寿命はおよそ3~5年と言われています。
どちらも食べられる?
フランス料理のエスカルゴに代表されるように、カタツムリを調理して食べることは知られています。ナメクジを食べる人たちもいるようですが、どちらも寄生虫を多く持つ生き物のため、エスカルゴのように食用のもの以外はお勧めできません。
ナメクジやカタツムリを生のまま食べて命を落とした人もいます。ナメクジやカタツムリを触ったときは、石鹸などでよく手を洗いましょう。
今年の梅雨はちょっと違った視点で観察
ナメクジとカタツムリについて紹介しましたが、長年抱えていた疑問を少しは解消できたでしょうか。ナメクジとカタツムリは殻があるかないかの違いだけ。そう考えると、これからナメクジを見る目も変わってきそうですね。
今年の梅雨の時期は、これまでとはちょっと変わった視点で観察してみると面白いかもしれませんね。