2017年2月5日 | 虫
蚊の生物体としての特性とその一生
蚊は昆虫の中でも小さい生き物です。しかし、卵、幼虫、蛹、成虫と完全変態する昆虫です。成虫の蚊以外目立たない存在ですが、私たち人間の生活圏でしっかり完全変態をして生命をつないでいます。
蚊の一生
蚊は時期や季節によって違いますが、卵から成虫になるまで10日から15日、主に水の中で過ごします。成虫になると空中に飛び立ちます。それから15日から1ヶ月の命です。
メスは交尾をすると卵巣が発達します。そして卵を生むための養分として動物の血液を求めて飛び回ります。メスの産卵は一生のうち4回から5回といわれています。メスは吸血のたびに産卵をします。
このように蚊は45日から60日余りの寿命を1年の間に数世代繰り返し生命をつないでいます。
卵 卵舟
血液を吸って卵巣を発達させたメスは4から5日後に産卵します。卵は水たまりなど、水の流れの少ない水面に産み付けられます。
産み付けられる卵の数は200から300個。水面できれいに縦に生み並べられます。ちょうど船のように並べられるため、「卵舟」といわれます。卵舟は水面を漂いながら2日から5日で幼虫(ボウフラ)になります。
卵はわずかな水でも産み付けられます。雨が降らないで乾燥してしまっても、卵は死にません。乾いた水たまりでも再び雨が降った時に卵はボウフラになることができます。卵は乾燥に強く、生命力があります。
幼虫 ボウフラ
ボウフラは水面に浮いて尻尾を上にして漂っています。尻尾は呼吸器になっていて、それを水面に出して呼吸しています。ボウフラにはとても臆病なところがあって、周囲でわずかな物音や影が映っても、水底に身を隠してしまいます。だから水面は穏やかなところが好きです。
ボウフラは水中の微生物や生物の死骸、排泄物を食べて成長します。水の流れが速いと食物をうまく摂取できないし、身体が小さいので流されてしまうのです。よどんだ水中で、水の浄化をしながら成長するのです。そして7日から10日の間に4回の脱皮をします。ボウフラは自分の脱皮した皮も自分で食べてしまいます。
蛹 オニボウフラ
オニボウフラは蛹といってもほかの昆虫のようにじっと浮かないで過ごすということはありません。水面に漂っていますが、やはり物音や影が現れると水中に潜っていきます。ボウフラの時のように尻尾を水面に出すことはなく頭部が水面に接するようになります。
胴から伸びた2本の角のようなものを出して呼吸しています。その2本の呼吸器が「鬼」の角のようなので「オニボウフラ」といわれています。そして蛹になってから3日ほどして成虫になります。
オニボウフラはエビのように身体を丸めて水面に浮かせています。その状態でオニボウフラは水に触れた胴体の部分が割れて、空気中に成虫の胴体が現れます。そのままゆっくり脱皮して成虫の姿が水面に現れるようになります。オニボウフラは蚊が空中に飛び出しやすいように水面に接しているのです。
水面で脱皮した成虫は身体が乾くのを待って、空中に飛び立っていきます。
成虫 蚊
蚊は普段、蜜や樹液を吸って生活しています。これはオスもメスも同じです。飛ぶ力も高くないので、普段は大樹や建物の陰にへばりついて過ごしています。風が弱くなったり湿気が下がると飛び立ち、樹液や蜜などのえさを求めて飛び立ちます。
羽音などで相手を見つけると交尾をします。オスはそのまま蜜や樹液を吸いますが、交尾を済ませたメスは卵巣が発達してきます。そして卵を産むために栄養豊富な血液を求めて飛び回ります。メスの蚊は一生のうちで3回から5回血液を吸い、産卵します。
蚊の越冬
蚊は熱帯地方原産の生き物で暖かい地方が好きな昆虫です。寒さには弱く15度くらいで活動限界を迎えます。つまり気温が15度を超えないと活発に活動することができないのです。夏場に薄着の人間に近寄って血を吸うという印象が強いのはそのせいなのです。
それでは蚊は気温の低い冬場はどうしているのでしょう。それは種類によって異なります。
低い気温が苦手な蚊は秋から冬、気温が下がっていくにつれ、成長サイクルがゆっくりになります。そして多くの蚊は産卵した後死んでしまいます。多くの蚊は卵の状態で冬を越すのです。
また、寒さに強い蚊は成虫のまま活動を低下させ、冬眠状態になっていきます。秋の終わりころ成虫になる蚊は交尾も吸血行為もしないでそのまま洞窟や建物の陰、人家の押し入れやげた箱など比較的暖かで風の吹かない場所にひっそりへばりついて動かなくなります。暖かな気候になるまで餌もとらずにじっとしています。日本の蚊ではアカイエカなどはそんな越冬をします。
蚊の分類と生態
蚊は動物界では節足動物門(クモやムカデ、カニ、エビなどの仲間)、昆虫網(昆虫の仲間)、双翅目(羽が一対あるハエなど)、長縫亜目(触覚が胸より長い仲間)、カ科に属する昆虫です。世界で35属、3520種類以上が確認されています。
また衛生害虫の代表的存在です。衛生害虫とは蚊のように吸血するもの、有毒性を持つものです。さらにハエやゴキブリなどのように病原体を媒介するもの、不快感を与えるもの、間接的な影響として食害を与えるものなどがあります。
蚊は衛生害虫としては吸血性を持ち、しかも病原菌媒介者ですので、衛生害虫の代表といっていい存在です。特に感染症の媒介虫としては野生動物としては最も多く人間に死をもたらす生き物といわれています。
マラリアや黄熱病といった代表的な感染症以外でも、多くの感染症の媒介をします。WHOの統計によると蚊に由来する感染症での死亡者は年間72.5万人にも上っています。小さくてとるに足らないと思われがちですが、トラやライオン、サメなどよりけた違いに多くの人間の命を奪っている生き物なのです。ちなみに人間の命を奪う動物の2位は人間です(年間約450万人殺しています)。
日本には2亜科、4族、17属(34亜属)、の生息が確認されています。蚊は一般的に暖かい気候が好きな昆虫です。細長い列島の日本には地域的な特徴の蚊も多いです。しかし、アカイエカ、オオクロヤブカ、ハマダライエカ、ヤマトクシヒゲカなどの数種類は日本全国に存在します。
蚊は卵、幼虫から蛹まで水中で過ごします。そのため水場を好みます。沼や湖、湿地、水田などの流れの穏やかな地域を好みます。森林や雑木林の水たまりや排水溝、竹の切り株や樹洞、植物の葉腋のようなわずかな水たまりでも生育成長できます。このため、水桶や空き缶、古タイヤのくぼみなどでも成長するので、人間の生活圏でも多く確認されるのです。
蚊の生物としての特徴
人間の命を奪う生き物として警戒される蚊ですが、それはほかの動物にとっても同じことです。しかし、他の動物には蚊以上に生命の危険を感じさせる生き物がたくさんいます。人間にとって蚊は衛生害虫にすぎません。しかし他の動物にとって蚊はなくてはならない動物でもあるのです。
ボウフラの生態系での役割
蚊の幼虫ボウフラは穏やかな水面を好みます。ボウフラは体も小さく、泳ぐ能力が低いので、あまり流れが急だと流されてしまうのです。生命力は強く、卵は乾燥にも耐えて、生き延びます。卵からかえると、水中のプランクトンや生き物の死骸やフンを食べて育ちます。このため、ボウフラの住む水はいつも浄化された状態になります。
ボウフラには天敵がたくさんいます。ヤゴやミズカマキリなどの水生昆虫、メダカや金魚、フナなどの小型魚類です。ほとんどの水生生物がボウフラを獲物としているのです。ボウフラは水辺の重要な蛋白源でもあるのです。水辺の生き物たちはボウフラのおかげで栄養たっぷりに成長していけるのです。
水辺のボウフラが臆病ですぐに水中へ沈んでいくのは、そんなことが影響しているのです。
蚊の生態系での役割
ボウフラは多くの生き物に捕食対象とされながらも懸命に生きています。そんな厳しい生存環境の中で見事成長して蚊になっても、多くの捕食者に付け狙われています。まず、昆虫ではヤゴから成長したトンボ、カマキリなどの肉食昆虫たちです。カエルやヤモリ、爬虫類も餌にしています。中でも、ツバメをはじめとする鳥類です。蚊のおかげで成長できる鳥たちは多いです。このように蚊は昆虫食の小動物たちの絶好の獲物になっているのです。
蚊の生物界での位置
人間にとって蚊は血を吸い激しいかゆみをもたらす嫌な昆虫です。おまけに感染症の病原体をもたらす衛生害虫で、動物の中では最も人を死に至らしめる天敵です。
しかし、自然界の中では蚊は幼虫でも成虫になっても多くの小動物たちにとっては貴重な栄養源になっているのです。海水中の食物連鎖だとプランクトンを食べて数を増やし、他の小動物や魚のえさになる。オキアミなどと同じ位置に存在することになります。特に暖かく動物たちの活動が盛んになる時期に数が増えるので小動物の成長期を支えるごちそうなのです。自然界では食物連鎖を支える重要な存在なのです。
人間と蚊の関係
蚊は動物たちの食物連鎖の最も低い位置に存在して、多くの小動物に捕食される危険にさらされながら動物たちの血液を吸うことで子孫を残しているのです。動物たちの血液を吸うことで感染症を媒介したり、それぞれの生存競争の中にいるわけです。もっとも過酷な自然界で生きる動物たちにとって感染症以外にも生命の危険はたくさんあります。
その意味では人間と蚊は特別な関係にあるといえるのかもしれません。同じ血を吸う動物でもヒルなどはかゆみを伴いません。蚊の吸血に伴うかゆみは蚊の唾液成分によるアレルギーです。蚊に刺された時だけ人間は特別にかゆみを感じるのです。同じく蚊の羽音を人間は特別嫌な音に感じるようになっています。
近寄ってきたら敏感になり、刺されたら強いかゆみを感じるように人間は蚊に対して警戒するようにできているのではないかとも考えられています。蚊は人類が生まれるはるか以前、恐竜の栄えた時代から現在の形で地球上に存在しました。動物たちの血液を吸いながら子孫を残してきたのです。
あとから生まれた人類は蚊のそんな生態に危険性を強く感じていたのではないかと考える意見もあります。それは主に感染症の伝播に対する警戒だったのかもしれません。蚊の羽根の周波数をとても耳障りなものに感じさせ、蚊に刺された後にアレルギー反応させることで少しでも蚊に刺されることをリスクにする。警戒させることで感染症にかからないようにする。それも人間の本能なのかもしれません。