2021年12月2日 | 虫
カワゲラは無害?生態や駆除についての考え方を紹介
川の近くにある家では、玄関脇や庭などでカワゲラという昆虫を見かけることがあります。今回は、カワゲラの生態と幼虫時代、カワゲラとガの見分け方などをご説明し、カワゲラは無害なのかどうか、駆除の必要はあるのかなどについても解説いたします。
また、やむを得ない場合にカワゲラを駆除する方法もご紹介いたしますので、どうぞ参考にしてください。
カワゲラとは
いったいカワゲラとは、どのような昆虫なのでしょうか。一つずつ見ていきましょう。
カワゲラという虫
カワゲラは、カワゲラ目の昆虫の総称です。
カワゲラの画像をご覧になりたい方はこちらから ⇒ カワゲラ|Wikipedia
カワゲラの仲間
カワゲラは種類が多く、世界に約2000種が生息しています。
日本にいるカワゲラ
日本では145種の生息が確認されており、キタカワゲラ亜目の下部分類として以下の9グループがあります。
- トワダカワゲラ科
- ミジカオカワゲラ科
- オナシカワゲラ科
- クロカワゲラ科
- ハラジロオナシカワゲラ科
- ヒロムネカワゲラ科
- アミメカワゲラ科
- カワゲラ科
- ミドリカワゲラ科
主なカワゲラの種類
カワゲラには下記のような種があり、日本全国に広く分布しています。
- トワダカワゲラ(トワダカワゲラ科):本州中部地方以北、北海道に分布
- ヤマトカワゲラ(カワゲラ科):本州から九州にかけて分布
- ノギカワゲラ(ヒロムネカワゲラ科):本州から四国・九州にかけて分布
- オオヤマカワゲラ(カワゲラ科):本州から四国・九州にかけて分布
- オナシカワゲラ(オナシカワゲラ科):全国に分布
カワゲラの生態
カワゲラは、どのような一生を送る昆虫なのでしょうか。
不完全変態の昆虫
昆虫には、大きく分けて下記のような成長パターンがあります。
- 「完全変態」の種:幼虫―さなぎ-成虫という過程を経て成長
- 「不変態」(無変態)の種:ほとんど変化がないまま成長
- 「不完全変態」の種:完全変態と不変態のあいだ
カワゲラは、3つめに挙げた不完全変態の昆虫で、さなぎの時期がありません。
陸地で生きる成虫
カワゲラの成虫は陸生で、春から初夏に水辺近くの木や草などに止まっているのを見かけることがあります。種にもよりますが、体は褐色または淡い黄色で、大きさは8~30㎜ほどです。セッケイカワゲラやトワダカワゲラなど、はねをもたない種もありますが、通常は前翅と後翅の二対のはねで飛びます。成虫はエサをとらないのが一般的ですが、岩の上などに育つコケ類を食べる種もあります。
幼虫は水生
カワゲラの幼虫は水に住み、清流の石の間や、水に落ちた葉の下などに生息しています。体は丸いビーズをつないだような形で、頭・胸・腹を容易に区別することができます。大型の種は肉食を好む雑食、小型の種は草食です。幼虫の時期は種によって異なりますが、およそ1~3年を経て成虫になります。「オニチョロ」とよばれるカワゲラの幼虫は、渓流に住むイワナやヤマメなどの魚の釣り餌としてもよく使われます。
【参考】初めての「清流のピストン釣り」入門(Honda 釣り倶楽部)
カワゲラとガの見分け方
夜間、灯火に飛来すること、はねが目をひく外見をしていることなどから、カワゲラはガと間違われることも多いようです(カワゲラには、はねのない種もあります)。しかしカワゲラとガには、下記のとおりいくつかの点で違いがあります。
カワゲラの特徴
- 河川の近くに生息する
- 成虫は体の大きさにはねを折りたたんで止まる
- 成虫は背中にまだら模様がある
- 幼虫は頭・胸・腹の区別が容易な形状をしている
- 不完全変態(さなぎの時期がない)である
ガの特徴
- 成虫は、はねを広げたまま止まる
- 成虫のはねは、細かい毛と鱗粉に覆われている
- 幼虫はイモムシやケムシの形状をしている
- 完全変態(さなぎの時期がある)である
地域伝統の昆虫食
カワゲラの幼虫は、昆虫食とも関係があります。昨今の昆虫食ブームは、2013年に国際連合食糧農業機構(FAO)が食用昆虫に関する報告書を公表したことがひとつのきっかけになっています。
FAOは、増大する世界人口と食糧安全保障との関連で、2003年ごろから「昆虫食プログラム」を実施してきました。一方、日本にはこうしたブームよりもずっと前から、伝統的にたんぱく源として昆虫を食べる文化をもつ地域があります。たとえば長野県の伊那谷地方では、「ざざ虫」を食べる習慣があります。この「ざざ虫」はカワゲラやトビケラ、カゲロウなどの幼虫で、佃煮などにして食べています。
【参考】「昆虫食『ザザムシ』は長野・伊那谷でしか食せない、川のイクラのような超珍味」(幻冬舎plus)
環境指標動物としてのカワゲラ
カワゲラは、川などの水質を示す指標動物のひとつです。
水質判定に利用される水生生物
水中に生きる生物は、水の汚れに敏感に反応します。そこで、どのような水生生物が住んでいるかによって、簡易的に水質を調べる方法があります。
河川の水質には、以下の4つの階級があります。
- 水質階級1:きれいな水
- 水質階級2:少し汚い水
- 水質階級3:汚い水
- 水質階級4:大変汚い水
きれいな川に住むカワゲラ
カワゲラが住むのは川の上流で、先述の4階級では「水質階級Ⅰ」(きれいな水)に当たります。つまり周辺でカワゲラを見かけたなら、その河川は汚れの少ないきれいな水質だといえるでしょう。
【参考】水生生物辞典(国土交通省北海道開発局旭川開発建設部)
天竜川に戻ってきたカワゲラ
天竜川は、長野県の諏訪湖を源に、伊那盆地を通り、静岡県浜松市の東で遠州灘に注ぐ河川です。記録によれば、今から約100年前には諏訪湖岸にオオヤマカワゲラが生息していました。80年前の資料にも、「木曽川・天龍川等に於ては夥(おびただ)しい数に達し、伊那地方では蜉蝣目のチラカゲロフ、毛翅目のヒゲナガカハトビケラの幼虫等と共に食用に供することがある。」(※引用文中の旧字は新字に改めた)と水生昆虫の豊かさが記されています。
【引用】上野益三・宮地伝三郎『上高地および梓川水系の水生生物』
高度経済成長期に入ると、天竜川の水質の悪化によってカワゲラは姿を消し、1990年代後半になっても非常に少ない状態でした。しかしその後、天竜川の水質が改善するにつれてカワゲラが戻ってきました。2018年の調査でカミムラカワゲラが多数生息していることが確認され、ヤマトヒメカワゲラやスズキクラカケカワゲラも生息していることが明らかになりました。
このようにカワゲラは、同じ地域でも水質の変化に敏感に反応する昆虫であることがわかります。
【参考】水質浄化で増えてきた生き物<カワゲラ>【近頃の天竜川 ふえた?へった? 生き物たち②】(天竜川総合学習館かわらんべ)
カワゲラには害があるのか
ところで、カワゲラは何か害をなす虫なのでしょうか。
水に近い場所で大発生
幼虫が水生であることから、カワゲラの成虫も川などの近くにいます。時折、大量に発生することがあり、近隣の人家に迷い込むこともあります。
光に誘われて飛来
カワゲラは夜間、明るい光に寄る習性があります。川など水辺に近いところに家がある場合、とくに夏場などに、玄関灯や室内からもれる明かりにカワゲラが誘引されることがあるかもしれません。
家の外壁を汚損することも
カワゲラには、人を刺したりかんだりするような害はありません。ただ、あまりにも多く集まってきた場合、家の外壁や停めてある自動車を汚損したり、死骸が残ったりすることがあります。
家周りのカワゲラ対策
生息場所である河川の環境を変えられない以上、できることは限られますが、カワゲラが家の近くに集まらないような工夫をすることは可能です。
外に明かりがもれないようにする
カワゲラが光に誘引されないように、夜間は雨戸や窓のカーテンを閉めるなど、屋内の明かりが外にもれないよう工夫するとよいでしょう。
屋外灯をつけないようにする
カワゲラが多い夏場には、玄関灯や庭園灯など外にある照明をつけないようにすることで、寄りつきを減らす効果が期待できます。
窓やドアに網戸をつける
屋内への入り込みを防ぐには、窓や扉に目の細かい網戸をつける方法があります。カワゲラは水辺に生息するので、とくに川に面した窓・扉を重点的に対策するとよいでしょう。
どうしても駆除したいときは
カワゲラは、人を刺したり噛んだりという害をなす昆虫ではありません。しかし、家の周りにたくさん集まっている場合、入り込まないか心配になるものです。見た目が不快だという方も、少なくはないかもしれません。
スプレー剤が便利
やむを得ず駆除を考える場合は、フマキラー「カダン お庭の虫キラーダブルジェット」が便利です。庭で見かける200種以上の害虫に効果を発揮するスプレーで、カワゲラの仲間では、オオヤマカワゲラとヤマトフタツメカワゲラの成虫に適用できます。
クモやアリ、ムカデのような「はう虫」から、ガやカメムシのような「飛ぶ虫」にまで効果があり、不快な害虫にめがけて噴射するだけで素早く退治できます。また、虫が好んで住みつきやすそうな場所にあらかじめスプレーしておけば、約1ヵ月間虫の寄りつきを予防する効果が期待できます。虫が苦手でなるべく見たくない、死骸を片付けるのがいやという場合に便利です。
家の周りに寄りつかせない工夫を
カワゲラはきれいな川のそばに生息する昆虫で、人を刺したり、噛んだりするような害虫ではありません。川に面した側の窓に網戸をつけ、カーテンを活用して室内の灯がもれないようにするなど、人家に寄りつかないような工夫をすることをおすすめします。
また、周囲に増えてきて困るという場合には、忌避効果のあるスプレーをまいておくと家の外壁や車の汚損を防ぐことができます。