雛人形を飾る意味とは?歴史や飾り方、収納時の注意点を解説

雛人形を飾る意味とは?歴史や飾り方、収納時の注意点を解説

3月3日の雛祭りは、古くから「桃の節句」として親しまれている行事のひとつです。雛祭りは、雛人形を飾って女の子の成長を祝う日というイメージがあるかもしれませんが、そもそもなぜ雛祭りに雛人形を飾るのでしょうか。

この記事では、雛祭りと雛人形の概要や歴史、雛人形を飾る意味のほか、飾り方や収納時の注意点などについてご紹介いたします。

雛人形の基礎知識

雛人形の基礎知識

はじめに、雛祭りの基礎知識をご覧ください。

雛祭りの概要

『雛祭り』は、3月3日に雛人形や桃の花などを飾って女の子の成長と幸せを願う日です。「桃の節句」の呼び名は、3月に桃の花が咲くことに由来します。3月3日は、中国の暦(こよみ)で決められた季節の変わり目である「節(せつ)」を基にした年間の五節句のうちのひとつで、「上巳(じょうし)の節句」とも呼ばれます。

「巳(み)」とは、日や方角などを示す「十二支(じゅうにし)」のひとつです。雛祭りは、3月の最初の「巳の日」に水辺で体を清めて穢(けが)れを祓(はら)う古代の中国の風習が関連しています。なお、かつて「節句」は「節供」と記したため、文献によって漢字表記が異なることがあります。

雛祭りの食べ物

雛祭りには、主に次のような食べ物をいただきます。

ひなあられ

『ひなあられ』には3色と4色があり、それぞれに意味があります。

  • 3色のひなあられ

3色のひなあられには緑・赤・白が使われており、緑は新芽が広がる大地や芽吹きを連想させることから、健康や生命力・エネルギーを表し、赤は血や命を連想させることから、生命のエネルギーを表し、白は雪で覆われた大地を表しています。

この3つを合わせ、「自然のエネルギーによって女の子が健康に育ちますように」という意味が込められています。

  • 4色のひなあられ

4色のひなあられには「桃」「緑」「黄」「白」が使われており、それぞれ四季の色が表され、「一年を通して女の子が健康に過ごせますように」という意味が込められています。関東は「甘いポン菓子」、関西は「塩のおかき」が一般的です。

ひなあられが雛祭りに食べられるようになったのは、江戸時代に流行した「雛の国見せ」に由来するとされています。江戸時代、女の子の間で、部屋に飾ってある雛人形を使った「ひな遊び」が大変人気で、家の中で遊ぶだけでなく、春の野山を見せるために外に連れ出すこともありました。その際、人形と一緒に菱餅を砕いたひなあられを持って出かけていたことから、雛祭りにひなあられを食べるという習わしが定着したとされています。

菱餅

『菱餅』は、上述した中国の風習で食べた餅が日本に伝わったものです。当初は菱の実を使った白い餅と蓬(よもぎ)を使った緑の餅の2色でしたが、明治時代にクチナシの実を使った赤い餅が加わりました。主に、白は子孫繁栄(しそんはんえい)や長寿、緑は厄除け(やくよけ)、赤は魔除けの意味があります。

菱餅が下から白・緑・赤の順で重なっているときは、雪の下から新芽が伸びて、桃の花が咲く様子を表現しています。菱の形は心臓を表すといわれますが、由来は定かではありません。

ハマグリのお吸い物

2枚のハマグリの貝殻を合わせたときに、対(つい)のもの以外はピッタリと合わないことから、ひとりの伴侶(はんりょ)と一生を添い遂げるという意味が込められています。盛りつけの際は、開いた貝殻の両側にハマグリの身を置いて仲がよい夫婦を表現します。

白酒(しろざけ)

『白酒』は、みりんや餅米、米麹(こめこうじ)などを用いてつくったお酒です。桃の木を大切にした中国の思想を基にして、白い酒に桃の花を浮かべた「桃花酒(とうかしゅ)」を飲んで不老長寿を願ったとされます。子ども用には、アルコールを含まない「甘酒(あまざけ)」を用意しましょう。

雛人形の概要

雛人形は、男雛(おびな)と女雛(めびな)から成る「内裏(だいり)雛」を中心に、お世話をする「三人官女(さんにんかんじょ)」、「随身(ずいじん)」と呼ばれる護衛(ごえい)の「左大臣(さだいじん)」と「右大臣(うだいじん)」、能楽(のうがく)を奏でる「五人囃子(ごにんばやし)」、雑用を担う「仕丁(しちょう・じちょう)」で構成されます。

現代では内裏雛だけを飾るタイプや、集合住宅などでも飾れるコンパクトなタイプ、雛人形を模したキャラクターなどが販売されています。小さな雛人形を天井などからつるす「つるし雛」は、高価な雛人形を購入できない際に、布の端切れで作った人形を皆で持ち寄り飾ったことが起源とされ、現在も静岡県や山形県、福岡県などで受け継がれています。

雛祭りと雛人形の歴史

『雛祭り』と『雛人形』の歴史は、上述した中国の風習に倣(なら)って、平安時代に穢れや災い(わざわい)を人形(ひとがた)に移して川や海に流したことが起源とされます。この行事は現在も「流し雛」として鳥取県や奈良県、山口県、東京都の墨田川、埼玉県の岩槻(いわつき)などで受け継がれています。

そもそも「雛」の字は、ほかの語の上について「小さい」「愛らしい」といった意味を持ちます。平安時代には、紙や布で作った小さな人形を用いた「ひいな遊び」が貴族の女の子の間で流行しました。その後、室町時代に雛人形を飾って祭る形式になり、江戸時代に宮中行事として導入してから庶民に広まったとされます。

雛人形を飾る意味

続いて、雛人形を飾る意味についてご紹介いたします。

親の願いを込めて

雛人形を飾る意味は、主に次の3つが挙げられます。1つめは、「女の子が健康に育つように」という意味です。かつて医療や衛生環境が不十分だった時代は子どもの死亡率が高く、健康な成長が困難だった状況に由来します。

2つめは、「女の子に災難が降りかからないように」という意味です。上述した中国の風習に倣い、雛人形が身代わりになって穢れや災いからを女の子を守るという考え方です。3つめは「女の子が良縁に恵まれるように」という意味です。女の子を1人前の女性に育てて、よい結婚をさせることが義務とされていた時代の願いといえます。

結婚・譲渡など

かつて女の子が成長して結婚した場合は、「嫁入り道具」のひとつとして雛人形を持参していました。しかし、現在は必ずしも結婚する際に雛人形を持参するとは限りません。新居で新しい雛人形を購入して、以前のものは実家で管理するといったケースも増えています。

また、女の子の穢れや災いを雛人形に移すという風習から、基本的にはひとりの女の子に1セットの雛人形を用意します。そのため、雛人形を自分の娘に譲ることや、姉妹で1セットを飾ることはふさわしくないとする説もありますが、それぞれの家庭や地域のしきたりに従ってお祝いするとよいでしょう。

雛人形の飾り方と時期

雛人形の飾り方と時期

それでは、一般的な雛人形の飾り方と飾る時期をご紹介いたします。

雛人形の飾り方

『雛人形』の飾り方に厳密な決まりはありませんが、段飾りとしては7段、5段、3段が主流です。段飾りの雛人形は「緋毛氈(ひもうせん)」と呼ばれるフェルト製の赤い布を敷き、上から順に飾ります。雛人形の基本的な飾り方は次のとおりです。

最上段

最上段は、新郎新婦である男雛と女雛を飾ります。この2体は天皇陛下(てんのうへいか)と皇后陛下(こうごうへいか)を表し、関東では向かって左側に男雛を、右側に女雛を置きますが、関西では逆に置く地域もあります。男雛と女雛は、手前に「繧繝(うんげん)」と呼ばれる模様の布がついた「親王台(しんのうだい)」の上に置きます。

さらに、男雛と女雛の背後には「金屏風(きんびょうぶ)」を、中央には「お神酒(みき)」を置いた「三方(さんぼう)」と呼ばれる台を飾ります。かつて結婚式は夜間におこなわれたため、最上段の両端には灯(あか)りをともす「ぼんぼり」を置きます。

2段目

2段目には、女雛をお世話する三人官女を飾ります。三人官女が持つ小道具は、左からお酒を入れる「提子(ひさげ)」、盃(さかずき)を置く三方、お酒を注ぐ「長柄(ながえ)」です。中央の女性は既婚者なので、眉毛を剃(そ)って「お歯黒(おはぐろ)」をほどこしています。

3段目

3段目には、能楽を演奏する五人囃子を飾ります。5人のうちの1人は歌を担当する「謡(うたい)」で、ほかの4人が楽器を演奏します。左から、音の大きさの順に太鼓(たいこ)、大鼓(おおつづみ)、小鼓(こつづみ)、横笛(よこぶえ)、謡と並べます。

4段目

4段目には、男雛と女雛を護衛する随身を飾ります。随身は格上である左大臣が老人、右大臣は若者で、2人とも刀や弓、矢を持っています。ただし、左右の大臣は男雛と女雛から見た位置であるため、飾る際は向かって左に右大臣、右に左大臣を置きます。

随身の間には、菱餅を乗せた菱台と、平椀(おひら)や高坏(たかつき)などの食器類を置いた「懸盤膳(かけばんぜん)」を飾ります。

5段目

5段目には、雑用を担う庶民の仕丁を飾ります。「泣く」「笑う」「怒る」という3つの表情を持つ仕丁は、「三人上戸(さんにんじょうご)」とも呼ばれます。仕丁の小道具は、左から頭にかぶる「台笠(だいがさ)」、靴(くつ)を置く「沓台(くつだい)」、手に持って差す「立傘(たてがさ)」です。

関西では、箒(ほうき)、塵取り(ちりとり)、熊手(くまで)を持ちますが、いずれの小道具も担当する人形は決まっていません。加えて、仕丁の両側に「左近の桜(さこんのさくら)」と「右近の橘(うこんのたちばな)」を飾ります。これらも男雛と女雛から見た位置であるため、飾る際は向かって左に橘、右に桜を置きます。

6段目

6段目は、嫁入り道具を飾ります。主なものは、衣類を収納する「箪笥(たんす)」、衣類や寝具を収納する「長持(ながもち)」、鏡台と裁縫箱がセットになった「鏡針揃(きょうはりぞろい)」、「火鉢(ひばち)」などです。

7段目

7段目は、婚礼の行列で皇后陛下が乗る「御輿入れ(おこしいれ)道具」を飾ります。かごの部分に皇后陛下が乗る「御駕籠(おかご)」や、「屋形(やかた)」の部分に皇后陛下が乗って牛が引く「牛車(ぎっしゃ)」、「重箱(じゅうばこ)」を並べます。6段目と7段目の並べ方に厳密な決まりはなく、双方を混ぜて置く場合もあります。

5段飾り・3段飾りの場合

一般的に、5段飾りは最上段に内裏雛、2段目に三人官女、3三段目に五人囃子、4段目に随身、5段目に嫁入り道具などを飾ります。3段飾りは、最上段に内裏雛、2段目に三人官女、3段目に嫁入り道具などを飾ります。

飾る時期

雛人形は、節分の翌日から2月中旬に出して飾ることが一般的です。雛祭りの前日である3月2日に慌てて出す行為は、葬式の飾りと同じく「一夜飾り(いちやかざり)」になるため避ける風習があります。雛人形の片づけに関する厳密な決まりはないので、以下にご紹介する収納方法を参考にしてなるべく早く作業しましょう。

なお、よく聞かれる「雛人形の片づけが遅れると婚期が遅れる」という内容は俗説です。雛人形を片づけないことは怠惰であり、再び穢れや災いが戻って来るという考え方や、娘を早く嫁がせることが「早い片づけ」に通じる点などから広まったとされます。

雛人形の収納方法

雛人形の収納方法

次に、雛人形の収納方法についてご紹介いたします。雛祭りのお祝いが終わったら、天気がよい日を選んでなるべく早く片づけましょう。雛人形を段から降ろして窓際などに置き、外の風を入れて湿気を飛ばします。小さなハタキや筆などを使用して、雛人形や小物類のホコリをていねいに払ってください。

雛人形を薄い紙などで包み、箱に収納したらすき間に丸めた紙を詰めます。それぞれの雛人形の上に名称を書いたメモを置き、写真を撮っておくと次回の出し入れの際に便利です。小物類も紙で包むか、ファスナーつきのビニール袋などに入れて収納しましょう。

雛人形の処分方法

最後に、雛人形の処分についてご紹介いたします。引っ越しや結婚などで雛人形を処分する際は、神社や寺、店舗などで開催される供養祭や感謝祭などへ持参しましょう。家庭や地域でしきたりがある場合は、そちらに従ってください。

雛人形は女の子の穢れや災いの身代わりになってくれたお守りといえるので、ゴミの収集やリサイクルに出す行為は避けましょう。

雛人形を飾る意味は親の祈念

雛人形を飾る意味は親の祈念

今回は、雛人形の概要や歴史、雛人形を飾る意味のほか、飾り方や収納、処分の注意点などについてご紹介いたしました。雛祭りは、中国の風習を基にして国内の文化とともに発展し、各地で受け継がれてきた伝統的な行事です。

雛人形を飾る意味は、女の子の健康と厄除け、幸せな結婚という親の切実な願いによるものです。家庭や地域の風習を大切に受け継ぎながら、楽しい雛祭りをお過ごしください。

「For your LIFE」で紹介する記事は、フマキラー株式会社または執筆業務委託先が信頼に足ると判断した情報源に基づき作成しておりますが、完全性、正確性、または適時性等を保証するものではありません。

こちらの記事もオススメです!