2021年3月25日 | 虫
生物多様性とは?人はあらゆる生命のつながりのなかで生きている
地球上には人間をはじめ、昆虫や動物、鳥や魚、植物など個性豊かな生きものたちが、何らかの関わりをもって暮らしています。食事を例にとっても、人は肉や魚を食べて栄養にしていますが、鳥は昆虫を、牛は牧草を、魚はプランクトンを食べて栄養としています。多様な生きものがこうして生息することのできる背景には、緑豊かな森や、栄養を含んだきれいな海や川などの存在があるといえるでしょう。
生きものたちの豊かな個性と、相互のつながりのことを指して「生物多様性」といいます。なぜ、近年この言葉が注目されるようになったのでしょうか。その理由を、自然界で起こっている昨今のさまざまな変異と、それを守ろうとする取り組みの視点から解説いたします。
生物多様性とは
地球上にはさまざまな生きものが暮らしていますが、これらのすべては自分ひとり、ただ一種だけで生きていくことはできません。「生物多様性」とは、生きものたちの豊かな個性と、相互のつながりのことをいいます。
はるか約40億年という歴史のなか、生きものはさまざまな環境に適応しながら姿や能力を進化させてきました。地球上に約3000万種いるといわれる個性豊かな生きものたちは、直接的・間接的に影響を与え合い、支え合って暮らしているのです。
生物多様性条約
生物の「多様性」は、地球上に暮らす生きものたちに豊かな恵みをもたらします。生物多様性を保全することは地球規模の課題であり、世界全体で取り組む必要があります。このことから、1992年6月にブラジルで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で、条約に加盟するための署名が開始され、翌年12月「生物多様性条約」が発効されました。
この条約は、個別の野生生物や特定地域の生態系に限らず、地球規模の広がりで生物多様性を考えその保全を目指す唯一の国際条約として、先進国の資金により開発途上国の取り組みを支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みが設けられています。また、「多様性」を3つのレベル(生態系・種・遺伝子)でとらえ、次の3点を目的に掲げています。
- 生物の多様性の保全
- 生物の多様性の持続可能な利用
- 遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分
なぜ今、生物多様性が重要視されるのか
生物多様性(Biodiversity)は、biological(生物的な)とdiversity(多様性)を組み合わせた言葉です。この言葉が生まれた背景には、地球環境の未来に対する危機感がありました。
20世紀後半、人類の発展にともない世界各地で開発事業が盛んになると同時に、発展途上国の豊かな自然が破壊される事態が深刻になってきました。これに警鐘を鳴らしたのが、世界の政治家や科学者たちです。環境保全を考えるたくさんの人たちによって、生物多様性の保全が支持されてきました。
そして21世紀のいま、気候変動による「地球温暖化」や、自然環境の悪化を助長する「海洋プラスチックゴミ」ほか多くの問題を抱えた地球では、生物の多様性が失われつつあります。こうした状況に待ったをかけるべく、生物多様性が重要視されているのです。
多様性3つのレベル
生物多様性には、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」という3つのレベルがあり、そのすべてが保全されないと豊かなものにならないと考えられています。
1. 生態系の多様性
国内に生息する生きものでも地域によって姿が少し違っていたり、別な場所には生息していなかったりと、環境は生きものの暮らしに大きく関わっています。森林、里地里山、河川、沿岸、湿原、干潟、サンゴ礁、山間部から海洋域、熱帯域から極寒地まで、地域によって環境が多様であることが、生きものの豊かさを育んできたといえます。
2. 種の多様性
動植物から細菌などの微生物にいたるまで、地球上にはいろいろな生きものが存在しています。わかっているだけで約175万種、未知のものを含めると3000万種もの多様な生きものがいるといわれます。
3. 遺伝子の多様性
動物の顔や植物の枝ぶりは人間に比べて見分けがつきにくいものですが、じっくり観察してみると違いがあることに気づきます。同じ種の動植物でもさまざまな違いが生じるのは、それぞれの環境に適応するために生じた遺伝子の違いによるものです。このように遺伝子が多様であることは、種全体の環境適応力が高まることにつながります。
生物多様性による恩恵『生態系サービス』
地球上に生息する生きものは、自分たちの生態系からさまざまな恩恵を受けながら暮らしています。こうした自然から受ける恵みのことを「生態系サービス」といいます。
たとえば、生きるために欠かせない酸素は植物による光合成でつくられ、豊かな森は水を貯えて水源を確保します。ミミズや微生物が落ち葉を分解することで、栄養豊かな土壌も形成されます。
こうした恩恵は「基盤サービス」といい、すべての命の元となるものとして、「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」を支える基盤となります。
供給サービス(生活の糧)
普段食べている米や野菜、肉、魚などの食材や、建材用の木材、衣類に使用される綿や麻など日常生活に必要な資源も、生物多様性による恩恵として供給されています。
調整サービス(生活の安全)
大気質や気候の調整、自然災害の制御、水の浄化作用など、自然は見えないところでさまざまな環境調整もおこなっています。たとえば、たくさんの木々がしっかりと根を張った斜面では、土砂崩れなどの災害も起こりにくいといわれます。また、サンゴ礁は海の生きものに産卵場所を提供するだけでなく、海水のCO2濃度を調整する役割も果たします。
文化的サービス(豊かな文化)
自然は、都会生活でなかなか体験することのできない魅力にあふれています。大自然のなかをトレッキングしたり、ホタルを観賞するツアーを楽しんだり、豊かな観光資源としてさまざまなサービスを提供します。
生物生態系の4つの危機
地球上にはおよそ3000万種の生きものがいるといわれますが、おもに人間活動の影響で、年間4万種が絶滅しているといわれています。ここでは、生物の生態系に起こっている4つの危機について解説いたします。
第1の危機:自然環境の破壊・種の減少
森林伐採や沿岸部の埋め立てなど、手つかずの自然に人間の手が入ることで環境破壊が進み、その変化によって生きものたちが絶滅の危機に瀕しています。乱獲や鑑賞・商業目的での希少種の捕獲なども、種を減少させる人間の行動のひとつです。
第2の危機:里地里山の質の低下
近年、クマやイノシシなどが人里に現れ農作物を荒らす被害が各地で起こっています。里地里山の質が低下したことが、その原因のひとつと考えられています。集落に近い森林である里地里山は、もともと人間が利用することで自然を維持してきました。
たとえば、生活に必要な薪を採ることで木々が間引かれ、陽があたり栄養が届けられていたのです。昨今の過疎化進展および人間活動の減少により里地里山の質が低下、人間と長く共存してきた生きものや生態系が失われつつあるといわれます。
第3の危機:外来種や化学物質による生態系の乱れ
ブラックバスなどの外来魚によって在来魚が減っている問題と同様に、昆虫や植物なども外来種が入ることで、生態系が乱れるといった危機が起こっています。ペットとして持ち込んだ生きものを飼えなくなり、野山や池に放すといった人間の身勝手な行動も、こうした被害を加速させています。また、農薬などを含む化学物質が生態系に与える影響も、的確に評価・把握しなければならないといえるでしょう。
第4の危機:地球温暖化(気候変動)
地球温暖化でたびたび耳にする「温室効果ガス」とは、大気中にある二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンなどを指します。これらのガスは、太陽によって暖められた熱を吸収し、地表から熱が逃げすぎるのを防ぐ役割をもち、本来生きものが住みやすい環境をつくっています。
ただし、このガスが増えて地表にたまり過ぎると地球全体の温度が上昇、これが地球温暖化の仕組みといわれます。18世紀の産業革命以降、石炭や石油などをエネルギーにすることで、大気中の二酸化炭素が急激に増えたことがおもな原因と考えられています。温暖化による地温・海水温の上昇で生息場所を奪われた動植物は、絶滅の危機に瀕することになるかもしれません。
私たちにできる取り組みは
生物多様性を守るために、まずは生物多様性についてよく知ること、関心を向けることが重要です。どこにどのような生物がいるのか、どれくらいの数が生きているのかなどを知ったり、地元でとれた旬のものをおいしく味わったりという何気ない日々の行動も、大切な第一歩となるでしょう。
また、日常生活で消費しているモノが、どこからどのようにして手元に届いたのか関心をもつことも、こうした取り組みへの道しるべとなります。紙の資源となる森およびそこに住む人たちの暮らしや労働を守る「FSCマーク」、持続可能な漁業で獲られた水産物に与えられる「海のエコラベル(MSC認証マーク)」、責任ある養殖により生産された水産物に与えられる「ASC認証マーク」など、環境に配慮した製品や水産物を選択することも、ひとつの取り組みといえるでしょう。
まとめ
生物多様性を維持する取り組みは、地球に暮らす一人ひとりが取り組んでいかなければならない大切な課題といえるでしょう。まずは、身近なことに関心を向けてみてはいかがでしょうか。
普段当たり前のように口にしている水や米、肉や魚、野菜や果物なども、豊かな大地に育まれて食卓に届いています。食事を摂るところで完結させず、料理に使用した食材がどこでどのようにつくられたかを知る(関心をもつ)ことも、取り組みの第一歩となることでしょう。ゴミを増やさないため、エコバッグ持参で買い物をするのがすでに普及したように、一人ひとりの関心・意欲・心がけが、いま求められているのです。