蚊による感染症とワクチン・抗生物質

蚊による感染症とワクチン・抗生物質

私たち人類は自然界の多くの困難に打ち勝って今日の繁栄を手にしてきました。科学の力で技術革新を行い、地球上の大自然を利用して少しでも快適な生活を手に入れようと努力してきた歴史があります。

その中で、病気やケガに対しての医療の発達も目覚ましいものがあります。第2次大戦終結のころの平均寿命は男女ともに50代だったのに、昨今はともに80歳を超え女性に至っては90歳に到達しようとしています。そこには健康や医療に対しての考え方の充実もあるのかもしれません。

そんな充実したかにみえる現代医療ですが、感染症との闘いという意味ではまだ始まったばかりなのです。

感染症の原因の特定と対策の歴史

感染症の原因の特定と対策の歴史

感染症と人類の戦いはその歴史とともに始まったといっても過言ではありません。人類は感染症に悩まされながら、今日の繁栄にたどり着きました。しかし、突然高熱を発し、激しい嘔吐、頭痛などに襲われ、死に至る感染症のような病気に対して、長い間何もすることができずにただ恐怖を感じることだけしかできなかったのです。

もしも発症してしまったら、献身的に看護する以外、祈ることしかできなかったのです。それでも経験則からどうすれば感染しないか、どうすると命を落とさないか、などゆっくりと身に着けてきました。

対処療法からワクチン・抗生物質の発見

対処療法からワクチン・抗生物質の発見

こまめに手を洗ったり、衛生状態をよくする、健康に配慮して滋養のある食事をとるなど、健康面での配慮の中には病気にならないように心がける経験則もあります。そこには感染症への配慮も含まれています。

風邪をひいてしまったときでもどうすれば症状を緩和できるかいつの間にか身に着けています。病気への対応は私たち人類の知恵の一部になっています。感染症の予防が医学的に始まったと考えられるのはイギリス人エドワード・ジェンナーによるワクチンの発見です。それは1798年のことです。

1.ワクチンの発見

1700年代のイギリスでも天然痘はしばしば流行して人々を苦しめていました。天然痘は感染力が強い病気で致死率も高く、発症すると命は助かっても障害などの病痕を残します。とても怖がられた病気でした。

しかし、牛の乳しぼりをする人たちはなぜか天然痘にかからないことでも知られていました。このことに気が付いたイギリスの医者エドワード・ジェンナーは乳しぼりをする人たちが天然痘よりはるかに軽度な病気である牛痘に罹患しているから天然痘にかからないのではないかと考えたのです。ジェンナーはこれを長い間かけて研究したのです。そして、牛痘による天然痘の予防を成功させることになるのです。これが種痘法の始まりです。

2.ワクチンと病原菌の発見

これが天然痘ワクチンの誕生です。この時期天然痘患者の膿疱から摘出した液を健康な人間に接種すると天然痘にならないことが発見されました。これは当時の民間療法でした。また、天然痘は一度罹患したものには再び発症しないことは多くの人々は知っていました。

これらのことを分析すると人間の身体には一度かかった病には二度とかからないようになる独特の特性があるのではないかと考えるようになったのです。これが免疫の考え方です。免疫の考え方自体は古くギリシャの文献にもみられる現象でした。

この病気に対しての「二度なし」原理を分析し、免疫学を打ち立てたフランスのルイ・パスツールやドイツのコッホたちです。感染症のワクチンは病原体の感染症の毒素を奪った菌を接種することで体内に免疫を作り、2度と感染しないようにするやり方なのです。

彼らの功績は免疫学だけでなく感染症や病気の原因が細菌やウイルスであることを突き止めたことでもあります。それらの研究は急激に発展します。日本の北里柴三郎や志賀潔などの研究者も世界の最先端でしのぎを削っていた時期でもあります。

これらの病気についての研究が進んだのが1800年代後半から1900年にかけてです。それでも病気の予防と原因の追究についての研究の幕開けからまだ100年余りです。

3.抗生物質の発見

抗生物質の発見

種痘が発見され、100年ほどして初めて感染症の原因となる病原菌の発見、免疫の理論の構築は進みました。しかし、ここに至ってまだ、感染症を治すのは人間の自然治癒力でした。人間の体内に入った病原体に対してそれと戦うことができるのは人間の体内にある免疫と抗体に頼るしかなかったのです。

そのような病原体の成長を抑えるのが抗生物質です。抗生物質を発見したのはイギリスの細菌学者アレクサンダー・フレミングです。その発見は偶然の産物でした。

フレミングは第一次世界大戦にイギリス軍の野戦病院に軍医として従軍しました。殺傷力が高まった近代戦の負傷兵の治療には従来の消毒液や防腐剤では効果がすくないことを実感したフレミングはその後、「殺菌作用」のある物質についての研究を始めます。

殺菌作用のある物質の研究は当時としては画期的な発想です。その過程で、涙や鼻水、卵白などの中にある「リゾチーム」という殺菌作用のある酵素(命名はフレミング)の発見にたどり着きます。1922年のことでした。

リゾチームの発見だけでも十分な功績です。現在でも食品添加物や医薬品に使用されています。しかし、リゾチームには強い毒性のある細菌を殺すことはできませんでした。フレミングはリゾチームよりさらに強い殺菌作用を持つ物質の研究に取り組みます。特に当時人類の脅威となっていた「黄色ブドウ球菌」に対しての殺菌能力を持つ物質について研究を広げていきます。

毎日毎日黄色ブドウ球菌を培養しているうちに、一つの培養皿にアオカビが生えていることに気が付きます。扱いを誤ってカビがはえてしまった培養皿でした。

しかし、その様子を観察するとカビの周辺に黄色ブドウ球菌が消えている部分があったのです。このアオカビに殺菌作用があるのではというひらめきがあったのです。これは1928年のことです。これがのちのペニシリンの抽出につながる大発見でした。

ペニシリンはそれまでブドウ球菌はもちろん、連鎖球菌、肺炎球菌、淋菌症、梅毒など治療が不可能といわれていた多くの感染症に効果を発揮しました。ペニシリンの発見により病原菌を殺すというそれまでの医学の大きな発展へとつながったのです。

しかし、ペニシリンの抽出法にたどり着くのにもう少し時間がかかります。1942年になります。

ペニシリンの発見により生物界のあらゆるところから、抗生物質という殺菌作用のある物質の発見、抽出研究が始まりました。現代では天然由来の抗生物質は6000以上存在することが確認され、100種類ほどが実際に利用されています。

感染症の原因になる細菌を殺すという治療にたどり着いたのはほんの80年ほど前なのす。

4.蚊と感染症

蚊と感染症

蚊はヒトの血液を吸うことで感染症を媒介します。具体的にはメスが産卵のために血液を求めてヒトを刺したときにヒトの体内から感染症の病原体を取り入れ、産卵後次の産卵のために再びヒトの血液を吸おうとしたときに、蚊の唾液に含まれた病原体がヒトに入り込むことによって感染症を媒介します。

一生のうちに3から5回血を吸うといわれるメスの蚊です。いつも必ずヒトの血液を吸うというわけではありません。その中で2回目以降のヒトの吸血のときに感染症の媒介が行われるのです(一部にはほかの動物を経由する病気もあります)。確率としてはそれほど高いわけではないのです。また、蚊による媒介の行われる感染症は本来感染力の高いものではありません。しかし、蚊の媒介によって確実に感染者の数を増やしていくのも事実なのです。

蚊媒介の感染症は感染症法上四類感染症と分類されています。四類感染症とは蚊をはじめとする動物を媒介して広がる感染症のことです。以下の種類があります。

E型肝炎 ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む。)A型肝炎 エキノコックス症黄熱 オウム病 オムスク出血熱 回帰熱 キャサヌル森林病 Q熱 狂犬病 コクシジオイデス症 サル痘 ジカウイルス感染症 重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 腎症候性出血熱 西部ウマ脳炎 ダニ媒介脳炎 炭疸 チクングニア熱 つつが虫病 デング熱東部ウマ脳炎 鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)を除く)ニパウイルス感染症 日本紅斑熱 日本脳炎 ハンタウイルス肺症候群 Bウイルス病 鼻疽ブルセラ症 ベネズエラウマ脳炎 ヘンドラウイルス感染症 発しんチフス ボツリヌス症 マラリア 野兎病 ライム病 リッサウイルス感染症 リフトバレー熱 類鼻疽 レジオネラ症 レプトスピラ症 ロッキー山紅斑熱

これらの四類のうち特に蚊媒介の感染症で日本に持ち込まれる危険性の高い感染症として、最近注目されているのが、ウエストナイル熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、デング熱、日本脳炎、マラリアです。

ウエストナイル熱はアフリカ、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジア、米国などで発生し、現在まで日本での発症例はありませんが、1990年代半ば以降流行の兆しです。

ジカウイルス感染症は中南米・カリブ海地区、オセアニアの太平洋諸島、アフリカの一部やタイで感染が確認されています。これも日本での感染は確認されていません。症状は軽い風疹程度で重症化しません。しかし、罹患者が妊娠中の場合、胎児に、水頭症やギランバレー症候群が発生することが確認されています。

チクングニア熱はアフリカや東南アジア、南アジアで感染が広がっています。日本国内での感染は確認されていません。しかし、海外からの輸入症例が確認されています。

デング熱は東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国で発生しています。多くは重篤化しませんが、時折致死にまで至るケースが確認できる恐ろしい病気です。日本国内での感染例もあるため、知られた感染症です。

日本脳炎は日本、中国、東南アジア、南アジア地域で発生しています。発症率が低いため関心が低い感染症です。

マラリアは東南アジア、アフリカ、中南米で広く発生している感染症です。現代でも多くの死者を出す恐ろしい感染症です。

5.蚊と感染症ワクチン

感染症のワクチン開発は進んで、多くのワクチンが開発されています。インフルエンザやA型肝炎、B型肝炎、などのワクチンの開発は進んで、感染症の予防は確かに進んできました。四類の動物感染する感染症でも狂犬病のワクチン研究は進んでいます。しかし、蚊媒介の感染症というと、これらの感染症のうちで予防可能な感染症は黄熱、日本脳炎など限られた感染症だけです。

これらの感染症以外は予防が不可能です。そのため、感染症が蔓延している地域への渡航の際はできるだけ蚊に刺されないように気を付けることしか感染症に罹患するリスクを避ける方法はありません。

6.蚊の感染症の抗生物質

抗生物質の研究も進んでいます。現在では自然界でも100種類ほどの抗生物質が抽出されています。しかし、これが蚊感染の感染症への抗生物質の開発はというとさらに少なくなります。現在ではマラリアだけです。

蚊媒介の感染症はワクチンの開発も少なく、抗生物質の開発も進んでいないのです。むしろ蚊媒介の感染症は発見が相次いでいるためワクチンや抗生物質の開発に手が回っていないというのが現状なのです。

予防も大変で一度感染してしまったら、対処療法で回復を待つしかないのが蚊が媒介する感染症の大きな特徴です。海外旅行など渡航の際はできるだけ蚊に刺されないように注意するしかないのです。

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