蚊による感染症の「予防」と「ワクチン・抗生物質」

蚊による感染症の「予防」と「ワクチン・抗生物質」

蚊による感染症の予防として、蚊を避けることとワクチン接種について解説し、最後にワクチン・抗生物質について解説します。

蚊が媒介する感染症は複数の種類があり、重篤化すると命の危機に関わるものもあります。日本でも蚊が活発になるシーズンには、適切な蚊対策を施さなければなりません。

感染症予防という点ではワクチン接種を検討している方もいるでしょう。しかし、蚊媒介感染症に効果があるワクチンや抗生物質は存在するのでしょうか?今回は蚊による感染症の種類や予防、ワクチン、抗生物質などの情報を解説します。

蚊媒介感染症は「刺されないための対策」が重要

蚊媒介感染症は「刺されないための対策」が重要

蚊媒介感染症は、人の健康を害す病原体を持った蚊に刺されることによって起きる感染症です。現在、日本で発生したり、海外から持ち込まれたりする可能性がある蚊媒介感染症には以下のようなものがあります。

  • デング熱
  • チクングニア熱
  • ジカウイルス感染症
  • 日本脳炎
  • ウエストナイル熱
  • 黄熱
  • マラリア

このうちデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱はウイルス疾患に、マラリアは原虫疾患に分類されます。

これら蚊媒介感染症は、主に熱帯、亜熱帯地域で流行しており、日本脳炎以外の感染症は海外からの持ち込みと考えられています。ただし、2014年には日本国内でも約70年ぶりのデング熱感染例が報告されました。

基本的にマラリア以外の蚊媒介感染症は、感染すると対症療法が中心となります。対症療法とは、そのときの症状を緩和するための治療のことを指します。

つまり特別な治療薬や特効薬がないため、蚊媒介感染症は感染してからの治療に力を入れるのではなく、「感染しないための予防」が大切です。

感染しないための予防と聞くと、難しく感じるかもしれませんが、これは「日常生活の中で蚊に刺されないための対策を施す」という意味です。蚊に刺されることがなくなる、もしくは刺される回数を減らすことができれば、感染症にかかるリスクも低くなります。

蚊媒介感染症の予防法

ここからは蚊媒介感染症の具体的な予防法を解説します。感染症の予防法は大きく分けて2種類です。

【予防法①】 蚊を避ける・避けさせる

【予防法①】蚊を避ける・避けさせる

蚊に刺されるということは、蚊が人の肌に近寄りやすい環境になっているということです。これを「蚊が近寄りにくい」「近寄っても刺されにくい」といった方向に持ち込むことで、蚊に刺される頻度を大きく減らすことができます。ここでは蚊を避ける、避けさせるための対策法を7つご紹介します。

長袖・長ズボンなど肌の露出度が低い衣類を着用する

肌の露出が大きすぎると、蚊の吸血対象範囲も広くなるため、刺される可能性が高くなります。そのため、蚊対策を意識する場合は、肌の露出度が少なめの長袖、長ズボンなどを着用するのがおすすめです。

特に屋外でのガーデニングや草刈り作業、キャンプやバーベキューなどのアウトドアを楽しむシーンでは蚊も多いため、肌の露出度が低い服装を強く推奨します。首周辺も刺されやすい部位ですので、襟が付いているものを着用するとよいでしょう。

また、衣類の色についても白などの明るめのものを利用すると効果的といわれています。その他、夏場などはサンダルを履くことも多くなりますが、蚊が多い場所に行くときなどは指先まで覆ってくれる靴を履くようにしましょう。

虫よけ剤を使用する

夏場の屋外などで重宝されることが多い虫よけ剤も、蚊対策には十分な効果を発揮します。虫よけ剤にはディート、イカリジン(ピカリジン)、ユーカリ油といった蚊が苦手とする成分が配合されており、皮膚や衣類に使用することで、蚊を避けさせることができます。

夏場などの汗をかくシーズンは、虫よけ剤の成分が流れ落ちてしまう可能性が高いため、こまめな塗り直しを忘れないようにしてください。

製品にもよりますが、2時間~3時間ごとに塗り直すと安心です。使用時は必ずメーカーが推奨する使用法を守るようにしましょう。

殺虫剤を使用する

近くに寄ってきた蚊を退治(駆除)するには、殺虫剤の使用がおすすめです。殺虫剤には室内タイプ、屋外の庭木や茂みでも効果を発揮するタイプなど複数の種類があります。

製品によって使用できる場所、効果の持続時間なども異なるため、利用目的に合った殺虫剤を選ぶようにしましょう。

防除用医薬部外品と記載されており、適用害虫に「蚊」と記されているものであれば問題はありません。

ハッカ油を利用する

ハーブの一種であるハッカを水蒸気蒸留して精製したハッカ油も、蚊対策に効果があるとされています。ハッカ油が蚊対策に有効なのは、蚊がハッカを苦手としているためと考えられています。

ハッカ油は近所の薬局で購入できますが、原液をそのまま使用すると壁、肌、衣類などにダメージを残す可能性がありますので、薄めてスプレーにして使うのがよいでしょう。ハッカ油スプレーを作るときに準備するものは以下の3つです。

  • ハッカ油
  • 無水エタノール
  • 精製水

100mlのハッカ油スプレーを作る場合は、無水エタノール10ml、精製水90ml、ハッカ油20滴~30滴が基本調合割合となります。作り方の手順は無水エタノールにハッカ油を垂らし、よく混ぜます。最後に精製水を投入し、再度よく混ぜれば完成です。

ハッカ油の濃度についてですが、先ほども説明したように濃すぎると吹き掛けた箇所にダメージが残ることもあります。そのため、肌が弱い方などは、最初に少なめの量で試すようにしてください。

完成したハッカ油スプレーは足、手、首周りなどにつけていきます。ハッカ油独特の香りを苦手とする虫は多いですので、キャンプや登山の虫よけグッズとしても重宝します。

ただし、ハッカ油スプレーは効果の持続時間が短いため、こまめな使用を忘れないようにしてください。

蚊を発生させないこと

蚊対策と聞くと草などが生い茂っている場所に目がいきがちですが、蚊の発生源は水たまりです。蚊の成虫はちょっとした水たまりに卵を産み付け、サナギまでの1週間~2週間は水の中で生活します。

つまり蚊の発生を防ぐには、不要な水たまりを減らせばよいというわけです。自宅で水たまりが発生する場所には、以下のようなものがあります。

  • バケツ
  • 空きカンや空きビン
  • 子ども用のおもちゃ
  • 植木鉢の受け皿
  • 花などに水をやるためのジョウロ
  • シートなどの窪み
  • 古タイヤ
  • 側溝や雨どいの詰まり

この中で水たまりをなくすことができるものは、速やかに対処するようにしましょう。たとえばですが、バケツやジョウロはひっくり返しておく、放置された空きカンや空きビンは処分するなどがあります。

水たまりをなくすことができない場合は、定期的に古水を処分し、清掃をしておくとよいでしょう。また、ボウフラ(幼虫)退治用の殺虫剤を使用するといった方法もおすすめです。

玄関・窓・網戸などをしっかりと閉める

蚊は私たち人間の想像をはるかに超える侵入力を持っています。そのため、玄関、窓、網戸などはしっかりと閉めることを忘れないようにしましょう。「我が家は絶対に大丈夫!」という家庭も今一度、窓や網戸を確認しておくことをおすすめします。

実は窓や網戸はしっかりと閉めたつもりでも、隙間ができていることが多いです。特に片側の窓を開けて網戸にしているときは、よくチェックしましょう。

【予防法②】 ワクチンを接種する

【予防法②】ワクチンを接種する

感染症の予防で最も安心できるのは、やはりワクチンの接種ではないでしょうか。ワクチン接種は、体内にウイルスや細菌に対する免疫を作り出し、病気にかかりにくくするという効果があります。

毎年、多くの感染者を出すインフルエンザもワクチンを接種することで、ある程度の発病を阻止することが可能です。つまり蚊媒介感染症もワクチンを接種することで、発病のリスクをある程度抑えられるということです。

しかし、ここで気になるのが「蚊媒介感染症に対するワクチンは存在するのか?」ということです。以下に、7つの感染症に対するワクチンの有無をまとめましたのでご覧ください。

病名 ワクチンの有無
ウエストナイル熱 ×
黄熱
ジカウイルス感染症 ×
チクングニア熱 ×
デング熱 ×(国内で利用可能なワクチンはなし)
日本脳炎
マラリア ×

現在、蚊媒介感染症に有効なワクチンは黄熱ワクチン、日本脳炎ワクチンの2種類のみです。デング熱に関しては、複数の国の規制当局から認可されていますが、日本国内で利用可能なワクチンは存在しません。

上記の表を見てもわかるように、蚊媒介感染症に対するワクチン開発や整備は、現時点で決して十分とはいえないでしょう。

そのため、蚊が媒介する感染症については、蚊を近寄らせない環境を整えるなど、1人ひとりが自身を守るための対策をしっかりと施す必要があります。

蚊媒介感染症のワクチンと抗生物質

蚊媒介感染症のワクチンと抗生物質

日本では幼少期から定期的に予防接種を行うため、ワクチンという言葉は何となく聞いたことがあると思います。

また、感染症にかかると処方されることが多い抗生物質についても、ときどきメディアで見たり、聞いたりすることがあります。しかし、多くの方はワクチンと抗生物質について詳しくはありません。

ワクチン、抗生物質の仕組みや役割などを少しでも知っておくと、蚊媒介感染症の予防対策にも役立てられる可能性があります。ここでは蚊媒介感染症のワクチンと抗生物質に関する情報を解説します。

蚊媒介感染症のワクチンについて

現在、世界には伝染病を予防するワクチンが多くあります。しかし、前述のように蚊媒介感染症に有効なワクチンについては、現状2種類のみしか存在しません。

この2種類のワクチンについてですが、黄熱ワクチンは「生ワクチン」、日本脳炎ワクチンは「不活化ワクチン」に分類されます。生ワクチンとは、生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を、症状が出ない程度までに弱毒化したワクチンのことを指します。

生ワクチンを接種すると、その病気に自然にかかったような免疫を作ることが可能です。病原性を弱くしたウイルスが体の中で徐々に増えていくことになるため、接種後1週間~3週間は自然に感染したのと同じような軽度な症状が出る人もいます。もちろん黄熱ワクチンの接種でも以下のような重い副反応が出ることがあります。

  • 重いアレルギー反応 (5万人中約1人に発生)
  • 神経の障害 (12万人中約1人に発生)
  • 内臓の障害 (25万人中約1人に発生)

黄熱ワクチンによって副反応が出る確率は非常に低いですが、万が一重い副反応が出た場合は速やかに最寄りの医療機関を受診するようにしてください。黄熱ワクチンの詳細に関しては、厚生労働省検疫所の公式サイトで確認することができます。

【参考】厚生労働省検疫所 - FORTH「黄熱」

そしてもうひとつのワクチン、日本脳炎ワクチンは先ほどもご紹介したように不活化ワクチンに分類されます。不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌の病原性をなくし、免疫を作るのに必要な成分のみを使用したものです。

一般的に不活化ワクチンは、生ワクチンと比べて免疫力がつきにくいといわれているため、何回かに分けての接種が推奨されています。厚生労働省によると、日本脳炎ワクチンを接種することで、日本脳炎発症リスクを75%~95%減らせるとのことです。

日本脳炎は発症すると、死亡率が20%~40%、生存者の45%~75%に神経障害などの後遺症が残るとされています。

また、子どものころの予防接種でできた免疫は大人になって弱くなってくることも報告されています。各医療機関でも免疫力強化のために、大人になってからのワクチン接種を推奨することがあります。

蚊媒介感染症の発症リスクを少しでも抑えたいという方は、予防接種を検討してみるのもよいでしょう。日本脳炎に関する詳しい情報は、厚生労働省のサイトでチェックすることができます。

【参考】厚生労働省「日本脳炎」

蚊媒介感染症の抗生物質について

抗生物質とは、細菌などの微生物の発育、繁殖を抑える物質のことです。感染症予防においても処方されることが多い抗生物質ですが、残念ながら蚊媒介感染症に対しての効果は期待できません。

というのも抗生物質による効果が期待できるのは細菌性髄膜炎、細菌性肺炎といった細菌感染症のみだからです。抗生物質は一言で説明すると「細菌を抑制する薬」です。

蚊が媒介する感染症の多くはウイルス感染症であるため、抗生物質による効果が期待できないのです。

現在、抗生物質による効果が期待できるのは寄生虫症のマラリアのみとされています。ちなみにマラリアの予防薬として使用される抗生物質はドキシサイクリンと呼ばれるものです。

【参考】JICA ‐ 国際協力機構「マラリアのABC」

 

ウイルス性の蚊媒介感染症を予防するには、抗生物質ではなく、抗ウイルス薬を使用する必要がありますが、こちらも現時点では残念ながら開発が進んでいない状況です。

そのため、普段から蚊に刺されないようにする、蚊を避けさせるといった対策が、蚊媒介感染症を防ぐ上では重要なポイントとなります。

蚊媒介感染症の対策はワクチン・抗生物質のみに頼らないことが重要!

今回は蚊が媒介する感染症の種類やワクチン、抗生物質に関する情報をご紹介しました。蚊媒介感染症は現時点では、有効なワクチンなどが少ない状態です。そのため、蚊による感染症を防ぐ上で大切なのは「自分の身は自分で守る!」という強い気持ちです。

蚊が近寄りにくい環境を整えることで、蚊に刺される回数を減らすことは十分に可能です。蚊の活発期に備えて、今一度自宅周辺の環境をチェックしてみましょう。その中で蚊が好みそうな環境を見つけた場合は、速やかに適切な対処を施すことをおすすめします。

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