2019年2月27日 | お役立ち情報
お花見のお噺(はなし)
今年もお花見シーズンの到来です。桜前線は日本列島を南から北に向かって北上し、日本全国で春を楽しむお花見の季節がやってきました。観光地として全国的に有名な場所から地元の人しか知らない地域の穴場まで桜の名所は随所にあり、至る所でお花見を楽しむことができます。
特に日本人は昔からお花見が大好きなようで、歌舞伎や能、落語などの伝統芸能の中にもお花見を題材した物語が数多くあります。
今回は、落語の世界からお花見を題材にしたお噺(はなし)をご紹介します。
奈良時代のお花見は梅だった
まずはお花見の由来についてご紹介します。
今ではお花見と言えばもちろん桜ですが、その昔、奈良時代には、花といえば梅や萩などを意味し、奈良時代の花の鑑賞と言えば梅が一般的だったようです。
奈良時代に作成された万葉集によると、梅を詠んだ歌のほうが桜よりも多く、梅の方が桜よりも人気があったと言われています。
では、桜が花見の代名詞となったのはいつ頃からと言えば、平安時代と言われています。平安時代に貴族たちが、桜の花を見ながら歌を詠むのを楽しんだことがお花見の始まりと言われています。
その後、貴族の間で楽しまれていたお花見は、鎌倉時代には武士の間にも広がっていきました。そして江戸時代になると、一般庶民にも広がり、身分に関係なく桜の木の下でお酒を飲んだりお弁当を食べたりして春を楽しむ、いまのお花見のスタイルになったと言われています。
宴会の始まりは豊臣秀吉から
平安時代に貴族の中で始まったお花見は、鎌倉時代を経て安土桃山時代になると、そのスタイルが変わっていきます。
平安時代には桜を愛でながら歌を詠むといった、静かに桜を楽しむことがお花見だったものが、安土桃山時代になり、豊臣秀吉が大勢の人を集めて桜の下で飲んだり食べたりの大宴会を催したのが、宴会スタイルのお花見の始まりと言われています。
江戸の名所は、上野、浅草、飛鳥山公園
江戸時代になると桜の品種改良が進み、身近な場所でもお花見が楽しめるようになりました。江戸では三代将軍徳川家光が上野や隅田川沿いに桜を植え、八代将軍徳川吉宗は飛鳥山を桜の名所にしました。
この頃から東京では、上野、浅草、飛鳥山公園が現在に至る桜の名所になっていきました。
落語に出てくるお花見
お花見を題材にした落語の噺はいくつかありますが、その中でも庶民に人気があった場所が上野です。上野を舞台にしたお噺を2つご紹介します。
長屋の花見(ながやのはなみ)
貧乏長屋の大家が長屋の住人全員に召集をかけます。店賃(たなちん)の催促かと思いきや、大家が酒肴(しゅこう)を用意するから花見に行こうということです。しかし、店賃をほとんど払わない住人ばかりの貧乏長屋の大家が、酒肴を用意できるわけもなく、実は、酒は番茶を煮出した“お茶け”。重箱の中身も、玉子焼に似せた“沢庵”、蒲鉾の代わりが“大根”の香の物という具合です。
それでも一同上野に出かけることになりました。上野のお山は満開の桜。周りは本物の酒肴で盛り上がっている中、大家が蒲鉾に似せた大根や卵に似せた沢庵をすすめます。そして遂には、大家は酔ったふりをしろと言い、酒の銘柄を聞かれた長屋の住人は、灘ではなく宇治と応えます。そんなやり取りの後、この先長屋にいいことがあると長屋の住人が言います。大家がそのわけを聞くと、「酒柱が立ちました」と応え、これがさげ(落ち)となるお噺です。
花見酒(はなみざけ)
酒好きの幼なじみの兄弟分は、そろそろ向島の桜が満開だというので花見に繰り出そうとしますが、お金がなくて酒が買えません。そこで酒屋から酒樽とつり銭用の五銭を借りて、それを花見の客に売って儲けようと企てます。ところが、弟分は朝から何も食べてなくて酒の匂いに我慢できません。
兄貴分はそれなら酒屋で借りた五銭で買って飲めばいいと言います。弟分は兄貴分に五銭を渡し、湯呑み一杯の酒を全部飲んでしまいます。それを見ていた兄貴分も飲みたくなってしまい、今弟分からもらった五銭で一杯飲みます。お互いに受けとった五銭を渡して交互に一杯づつ飲み続け、向島に着く頃には酒樽を飲み干してしまい、ついには二人は酔っ払ってしまいます。さて、酒樽を降ろし店開きをしますが、もちろん酒は残っていません。酔っ払っている二人は全部売り切れたと思って売上を勘定しますが、手元には最初に借りた五銭しかありません。
兄貴分はおかしいと言い出しますが、お互い五銭づつ払って飲んだわけですから勘定は合っています。ここで兄貴分が、「安い酒も飲めたことだし売切れにもなったし、それなら無駄が無くって良かった」というのが、さげ(落ち)となるお噺です。
この他にも
この他にも、「花見の仇討(はなみのあだうち)」、「頭山(あたまやま)」などのお噺があります。また歌舞伎では、「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」、「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」、「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」などの人気演目があります。
お花見は満開の桜を見るのが一番ですが、時には寄席にでも行って、落語を聞きながらお花見気分を味わうのも粋(いき)な楽しみ方かも知れません。