② 蚊が媒介する感染症
蚊は私たちの最も身近に生息する害虫と言えるでしょう。春から徐々に発生して、プ~ンという耳障りな羽音とともに近づいて血を吸う。蚊に刺された部位がかゆくなるのは、吸血時に血が固まることを防ぐ「抗凝血作用物質」を含む唾液を人間に注入するためです。この唾液がアレルギー反応を起こして、かゆみの原因となるのです。かゆみは短時間で収まるのでたいした被害にはなりませんが、蚊は感染症の媒介となることを忘れてはいけません。
感染症の種類
日本国内で発症する可能性のある感染症は主に6種類とされています。国内の感染症として知られている「日本脳炎」、2014年に国内での発症が確認された「デング熱」をはじめ、東南アジアや中南米に多く見られる「ジカ熱」、「ウエストナイル熱」、「チクングニア熱」、「マラリア」です。
デング熱
日本でも2014年に69年ぶりとなる発症が確認された感染症。主な症状として発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹が挙げられます。子供の場合は、風邪や胃腸炎と似た症状になるので注意が必要です。40度以上の発熱、赤班や麻疹のような発疹が現れたり、鼻や口の粘膜から出血することもあります。
ワクチンは存在しませんが、安静にしていることで7日~10日のうちに症状は回復していきます。致死率も1%~5%ほどで、重症化することは稀です。
感染によりウイルス性脳炎や臓器の障害を引き起こしたり、横断性骨髄炎、ギラン・バレー症候群などの合併症を併発することもあります。乳幼児が重篤化することが多いため注意が必要です。
感染経路 | 主にヒトスジシマカ、ネッタイシマカをはじめとするヤブカ |
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潜伏期間 | 2日~15日ほど |
発生地域 | 東南アジア、中南米を中心に世界110ヶ国以上 |
ジカ熱
発熱などデング熱と似た症状ですが、それよりも軽く感染しても症状が現れる人は20%と言われています。中南米を中心に流行しており、日本でも感染が確認されています。
デング熱同様に有効なワクチンは開発されていませんが、安静にしていれば4日~7日で回復します。ジカ熱による直接の死亡者は少ないものの、母子感染の可能性があり、胎児の小頭症や小眼球症を引き起こすことがあります。デング熱だけでなく、レプトスピラ症、マラリア、風疹、麻槇など似た症例の病気が多く存在します。
感染経路 | ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ |
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潜伏期間 | 数日~7日ほど |
発生地域 | ナイジェリアをはじめとするアフリカ中部の国々、東南アジア、低緯度の地域、熱帯地域 |
ウエストナイル熱
デング熱に似て発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、食欲不振などの症状が現れます。安静にすることで7日ほどで回復します。これらの発症が現れるのは感染者の20%と言われていますが、1%未満の確率で重症の脳炎、髄膜炎を引き起こすことが確認されています。激しい頭痛、高熱、方向感覚の欠如、震え、麻痺、昏睡などを引き起こし、死に至ることもあります。
有効なワクチンはなく、感染したら安静にして回復を待ちます。2005年にアメリカで3,000人の発症者があり、119人の死者が確認されています。同年、カリフォルニアから帰国した日本人が国内初のウエストナイル熱の患者と診断されています。
感染経路 | イエカ、ヤブカ |
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潜伏期間 | 2日~6日ほど |
発生地域 | ナイジェリアをはじめとするアフリカ中部の国々、東南アジア、低緯度の地域、熱帯地域 |
チクングニア熱
40度以上の発熱と関節炎が主な症状で、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、悪心、嘔吐、出血などが見られます。発熱や関節痛は5日~7日ほど継続しますが、関節の痛みは長引くと完治まで2年ほど要する場合があります。
小児、新生児では嘔吐、下痢、脳髄膜炎などを発症することもあり、妊娠中は母子感染の確率が50%あります。命に関わるほどの重篤化は0.1%と低いものの、ワクチンは存在しません。関節痛には鎮痛剤を使い、軽い運動や理学療法での対処が効果的です。国内での感染はありませんが、2006年12月に海外からの輸入症例2例が報告されています。
感染経路 | ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ |
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潜伏期間 | 3日~7日ほど |
発生地域 | ナイジェリアをはじめとするアフリカ中部の国々、東南アジア、低緯度の地域、熱帯地域 |
日本脳炎
発症率は0.1%~1%と非常に低いですが、発症したときの致命率は30%にも上ります。高熱、けいれん、意識障害が主な症状で、発症すると半数以上が脳に障害を受け、麻痺などの後遺症が残ってしまいます。
海外では東南アジアを中心に西太平洋諸島、オーストラリア北部などで確認されています。世界では2011年の時点で年間患者数は68,000人、最大で20,400人の死亡が推計されています。国内では1960年代後半から予防接種を行い、患者数を減少させることに成功しましたが、厚生労働省は「日本脳炎ウイルスを持った蚊は毎年発生しており、国内でも感染の可能性がある」との見解を発表しています。
感染経路 | コガタアカイエカ |
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潜伏期間 | 6日~16日ほど |
発生地域 | 東南アジア、西太平洋諸島、オーストラリア北部など |
マラリア
高熱、頭痛、吐き気などが主な症状です。悪性の場合は脳マラリアによる意識障害や腎不全などを起こし、死亡することもあります。毎年2億人以上が罹患して、200万人余りが死亡する感染症です。その多くがアフリカ南部の小児ですが、アジアや中南米の熱帯地域でも流行が確認されています。
マラリア流行地へ渡航する際は、抗マラリア薬の予防内服が欠かせません。感染したときのための治療薬も存在します。かつては日本国内でも流行していましたが、衛生環境の改善により現在は流行していません。
感染経路 | ハマダラカ |
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潜伏期間 | 7日~3週間ほど |
発生地域 | アフリカ大陸南部、アジア、南太平洋諸国、中南米の熱帯地域など |
今や海外の感染症ではなくなったデング熱
デング熱は1940年代前半に東南アジアの戦地から日本国内に持ち込まれ、西日本で大規模な流行を起こしました。その後、長い期間にわたって国内での発症はありませんでしたが、2014年8月26日に約70年ぶりとなる症例が東京都内で確認されています。
患者である18歳の女性は、過去1カ月以内の国内・国外の旅行歴がなく、発症の直前に東京の代々木公園で頻繁に蚊に刺されていました。代々木公園で女性と一緒にいた知人2名もデング熱に感染しており、その後2カ月余りで全国に160名の患者が報告されました。
デング熱を媒介するヒトスジシマカは国内にも数多く生息しており、今後もデング熱が発生する可能性は十分に考えられます。
感染症の被害に遭わないためにできること
蚊が媒介する感染症の予防には、なによりも蚊に刺されないようにすることが大切です。
- 肌を露出しないよう長袖、長ズボンを着用する
- 素足でのサンダル履きを避ける
- 蚊が好む色の濃い衣服を避けて薄い色の洋服を選ぶ
- 虫よけスプレーを使用する
など、対策を怠らないようにしましょう。
海外に行く際は事前に渡航先の情報をしっかりと集めましょう。下記ホームページで各国の感染症情報を逐一公開しているので、チェックすることをお勧めします。
「日本脳炎」はワクチンによる予防接種、「マラリア」は医師の処方による予防内服が有効ですが、「デング熱」、「ジカ熱」、「ウエストナイル熱」、「チクングニア熱」にはワクチンも予防薬もないため十分な注意が必要です。
- ① 蚊の種類・生態を知る
- ② 蚊が媒介する感染症
- ③ 蚊の発生を防ぐ
- ④ 蚊を駆除したい
- ⑤ 蚊に刺されないための虫よけ対策