① ゴキブリが媒介する感染症
針で刺したり、かみついたり、毒を有したりするわけではないゴキブリ。その見た目から、不快感・嫌悪感をもつ人も多いようです。しかし、「イヤなものはイヤ」と毛嫌いするあまり、ゴキブリの有害性から目を背けすぎていませんか。
感染症を媒介することもあるゴキブリは、実は見た目以上に恐ろしい存在です。適切な対策をとるためにもまずは真実を知り、正しくゴキブリを恐れましょう。
今回は、ゴキブリが媒介することで起こる感染症などについて解説いたします。
ゴキブリはどのようにして感染症を媒介するのか
ゴキブリはどのように感染症を媒介するのでしょうか。ゴキブリの習性などとあわせて説明いたします。
全身に雑菌をまとった状態で動き回る
ゴキブリは高温多湿のジメジメした場所や、暗くて狭い場所を好みます。そのため、キッチンや風呂場など水回りで見かけることが多く、普段は冷蔵庫の裏や家具の隙間などに潜んでいます。
ゴキブリは下水や排水口など不衛生な場所を通って家の中へ侵入し、キッチンの生ごみなど雑菌が繁殖しやすい場所をエサ場としています。そのため、体にさまざまな菌が付着しているのです。
ゴキブリは、全身に菌をまとった状態で家の中を動き回り、出しっぱなしの食べ物や食器類などに接触します。こうして菌が付着したものに人が触れたり直接口にしたりすることで、恐ろしい感染症にかかることがあります。
家じゅうに雑菌をバラまく
ゴキブリの糞や死骸などにも雑菌が潜んでいます。ゴキブリを退治するときに「スリッパなどで叩いてはいけない」といわれるのは、周辺に菌をまき散らしてしまうのを防ぐためなのです。
一方、全身を油膜で覆われているゴキブリは、体に雑菌がついても影響を受けることはありません。そういうわけで、雑菌をまとっているゴキブリ自身は病気にならないのです。
ゴキブリが媒介するおそれのある病原菌と感染症
ゴキブリが媒介するおそれのある病原菌と感染症について解説いたします。
サルモネラ菌
「サルモネラ」とは、ラテン語で一群の腸内細菌の総称です。もともと犬や猫、豚、鶏などが保有している細菌で、自然界に広く分布します。おもに鶏や豚などの消化管に生息し、汚染された卵や肉などから人に感染します。感染すると数時間から数日の潜伏期間を経て、激しい腹痛や下痢、発熱、嘔吐などを発症します。
サルモネラ菌は、ゴキブリの糞の中で何年も生き続ける強い生命力を有します。そのため、日本でもたびたび発症するサルモネラ食中毒の原因となるおそれがあります。万一、サルモネラ菌が付着したゴキブリを飼い猫が食べてしまった場合、そこから人に感染することもあるといわれています。
赤痢菌
人と猿などを宿主として、その腸内に感染する腸内細菌の一種です。人の場合、おもに汚染された食物や水を介して口から感染するため、食品や食器類を清潔に保つ必要があります。また、小さなお子さんの口におもちゃが触れたときなどにも感染するおそれがあります。感染すると、下痢や発熱、腹痛などを発症します。
赤痢菌もゴキブリの糞の中に生息し、とても感染力の強い菌です。
ピロリ菌
胃の粘膜に生息する螺旋状の細菌で、感染経路についてはまだ十分に解明されていません。やはりゴキブリの糞の中に生息し、口から感染するらしいことがようやくわかってきました。
幼児期に感染するケースが多く、小さなお子さんと同じ箸などを使うことで、親も感染するおそれがあります。ピロリ菌に感染すると、胃もたれや吐き気、食欲不振などの症状が起こります。胃の不快感が繰り返されるようだと、さらに胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気に移行するおそれもあります。
O-157
O-157は、病原性大腸菌のうち腸管出血性大腸菌のひとつです。牛などの腸内に生息し、強い感染力をもつ細菌のことです。やはりゴキブリの媒介によって発症するおそれがあります。感染すると、激しい腹痛や嘔吐、発熱などの症状が表れます。
その他ゴキブリが原因で起こる症状
さまざまな雑菌が付着したゴキブリは、家の中をところかまわず動き回ります。それだけで、感染症以外の症状が表れることがあります。
ハウスダスト・アレルギー
たくさんの雑菌をまとうゴキブリの体には、ハウスダストやカビなども付着しています。ゴキブリが歩いた場所にそれらが散らばることで、体調を崩してしまうケースもあります。喘息の症状を抱える人の何割かは、ゴキブリに対するアレルギー反応ともいわれています。
まとめ
ゴキブリを見かけて悲鳴を上げていた方も、叩いて退治していた方も、その存在の恐ろしさを改めて知ることができたのではないでしょうか。
家の中にゴキブリがいると、見た目に不快なだけでなく、感染症やアレルギーなどを引き起こすおそれがあることに、くれぐれもご注意ください。