農作物や生活を守るための害獣対策・予防方法!よくある被害も解説

農作物や生活を守るための害獣対策・予防方法!よくある被害も解説

近年、野生動物による被害が増加傾向にあります。その中でも、特にクマの被害は深刻で、ここ数年何人もの人が襲われて命を落としています。

この記事では、害獣被害の現状と動物の種類ごとの被害の特徴、さらに被害の対策について詳しく解説します。

害獣被害の現状

令和5年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は164億円で、前年度より8億円増加しました。平成30年度までは減少傾向でしたが、ここ数年は微増減を繰り返しています。

被害の最も大きい動物はシカで約70億円、続いてイノシシによる被害が約36億円です。近年では、クマによる被害が増加しており、大きな問題となっています。農作物の被害だけでなく、クマが住宅地に出没して人を襲うケースが増えています。

【参考】農作物被害状況|農林水産省

害獣被害が増える原因

害獣被害が増える原因

害獣による被害が増加している原因を紹介します。

里山・緩衝地帯の減少

かつては集落と野生林の間には里山があり、人間と野生生物の緩衝地帯として機能していました。しかし、最近はさまざまな要因によって里山が減少し、野生生物と人間が住むエリアが近くなってきています

その結果、さまざまな野生動物が田畑や住宅地に出没するようになったと考えられます。さらに、耕作放棄地の増加も、野生生物が人間の生活圏に進出する一因です。実際に、かつては果樹を栽培していた場所で実を付けた放置された果物を狙って、野生生物が民家のすぐ近くまで出没するケースが報告されています。

害獣を管理する人手の減少

害獣を管理できる人間が減少しているのも、大きな問題です。通常、野生生物の駆除には、猟友会のメンバーが協力します。しかし、ハンターの高齢化や減少によって、思うように害獣駆除が進まないのが現状です。

また、かつては植林が行われていたスギ林やヒノキ林が、安価な輸入材の導入により採算が悪化して、放置されるケースが増えています。その結果、植林地の荒廃が進み、野生生物の進出を容易にしています。

長期的には、日本社会の過疎化・都市部への人口集中が進行し、中山間地域の人口が減少していることも大きな問題です。人がいなくなることで、野生生物の生息域が大きく広がっています。

人になれた個体の出現

人間と野生生物の距離が縮まったことに加えて、徐々に人間を恐れない個体が増えてきました。観光客による餌付けなどで、人になれた個体が出現しています。人を恐れなくなり、人間の生活圏に侵入して人間の食べ物をあさるようになっています。

野犬の減少

はっきりとしたエビデンスはありませんが、野犬が減少したことも原因の1つだとする説もあるようです。野犬の駆除が進み、現在ではほとんど野犬を見かけなくなりました。

野犬は人間の居住エリアの周辺部に群れで生活するケースが多く、縄張りに侵入してくる野生生物を追い払う役目を果たしていました。野犬が減少することは、狂犬病対策などの観点からは歓迎すべきことですが、思わぬ副作用が生じていた可能性があります。

主な害獣と被害の状況

主な害獣と被害の状況

農作物や人間に被害を与える主な害獣を紹介します。

クマ

近年、クマによる被害が相次ぎ、大きな社会問題となっています。2025年度は10月27日時点ですでに死者12人、2025年9月末時点の人身被害は108件と、過去最悪の2023年度と同じペースで被害が報告されています。

【参考】クマに関する各種情報・取組|環境省

北海道にはヒグマ、本州と四国にはツキノワグマが生息し、どちらの種類も被害が増大しています。九州には、クマは生息していません。1957年までは野生のツキノワグマが確認されましたが、現在では絶滅したと考えられています。

サル

日本に生息するサルは、ニホンザルだけです。ニホンザルは、本州・四国・九州、および一部の周辺島(屋久島、淡路島、小豆島など)に分布しています。ニホンザルによる農業被害の規模は、シカやイノシシに次いで3番目に大きいとされています。都道府県別で被害が大きいのは、山口、三重、長野などが顕著です。果樹生産量の多い県は、被害金額が大きくなる傾向にあります。

ニホンザルは知能が高く学習能力を持つため、対策をとってもすぐに効果がなくなるので非常に厄介です。また、群れで行動し、果樹などの農作物を少しかじっただけで次の作物に手を付けるといった行動パターンが見られるため、1回あたりの被害が大きくなる傾向にあります。

シカ

日本在来のシカはニホンジカですが、各地に亜種が分布しています。シカは最も被害額が大きい害獣ですが、被害が顕著になったのは約30年前から。食欲が旺盛で、さまざまな植物に被害を与えます。他の害獣とは異なり、下草や樹皮なども食べてしまいます。

東京・奥多摩町では、植えた苗木が何度もシカの食害にあって、森林部分が完全に喪失。地盤が弱くなった結果、集中豪雨によって土砂災害が起こりました。

日本に生息する在来のシカは、ニホンジカであり、北海道のエゾシカ、本州のホンシュジカ、四国・九州のキュウシュウジカなど、各地に亜種も分布しています。

【参考】鹿について|一般社団法人全日本鹿協会

ニホンジカによる被害は、農業規模だけでも年間約160億円で日本の害獣による被害では最大規模です。このような被害が顕著になったのは、1980年代以降、つまり40年ほど前からと考えられています。

【参考】ニホンジカの近年の動向|環境省

イノシシ

イノシシは、北海道と東北の一部を除く日本各地に生息しています。雑食性で、昆虫やミミズ、植物の芽や葉、果実など何でも食べます。季節によっても食べるものは異なり、春はタケノコ、夏期はカエル、秋はクリなども重要なエサです。

本来、イノシシは昼行性の動物ですが、人との接触を避けるために夜間に活動をすることが多く、夜行性と思われがちです。しかし、人里に慣れると日中にも人家の近くまで出没するようになります。

食物を探すために鼻で地面を掘る習性があるため、畑などに侵入すると、作物が食害されるだけでなく土が掘り起こされる被害も発生します。

アライグマ

アライグマはタヌキに少し似ていますが、しっぽに黒い縞模様があるのがタヌキと見分ける特徴です。元々は日本に生息していませんでしたが、ペットとして飼われていた個体が野生化し、現在では日本各地に定着しています。

環境省により特定外来生物に指定されているため、輸入・販売・飼育はできません。被害は年々増加し、農業被害だけでなく、家屋に住み着いて、建物の破損や糞尿による衛生被害を与えるケースも珍しくありません。また、性格が狂暴でニワトリなどの家畜を襲うケースもあります。

ハクビシン

ハクビシンもタヌキによく似ていますが、額から鼻にかけて白い筋があるのが大きな特徴です。外来生物ですが、現在では日本各地に分布しています。特に宮城・福島や四国での生息数が多いようです。

雑食性で、果実や野菜などの植物や鳥類、卵、小型の哺乳類や昆虫、魚類などさまざまなものをエサとします。さらに、屋根裏などに侵入する被害も確認されています。同じ場所にフンをする「ため糞」という習性があるため、悪臭や建物の腐食などの被害も大きな問題です。

イタチ

イタチ(ニホンイタチ)は日本在来の哺乳類で、全国各地に分布しています。性格は狂暴で、生息場所は平野部や河川の周辺などです。基本的には夜行性で、日中は巣穴の中に隠れています

雑食性で、ネズミや昆虫、ザリガニ、カエルなどが主なエサです。農作物の中では、野菜や果物を好み、ニワトリ・ウサギなどの家畜類を襲うケースもあります。

その他の野生生物

モグラやコウモリなどの小型の哺乳類にも注意が必要です。モグラは畑の土を掘り返すため、野菜などの生育を阻害する可能性があります。コウモリは人家の屋根裏などに群れで住み着いて、騒音被害や糞尿被害をもたらします。

害獣対策の注意点

害獣の被害を防ぐためには、法令や感染症のリスクなどをしっかりと理解する必要があります。

野生生物に関わる法律

害を及ぼすからといって、むやみに野生生物を駆除することはできません。「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(通称:鳥獣保護管理法)」と「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」を順守する必要があります。

鳥獣保護管理法により、一部の例外をのぞいて原則的に野生の鳥獣を無断で捕獲・駆除することは禁止されています。捕獲・駆除する際には許可が必要です。

例外となっている動物(許可が必要ない動物)は非常に限られていて、身近な動物ではイエネズミ類(ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミ)だけです。違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

【参考】
野生鳥獣の保護及び管理|環境省
日本の外来種対策 | 外来生物法 | 環境省

動物由来感染症

動物由来感染症は、野生生物などから人間に感染する病気です。害獣などを捕獲した際に、むやみに素手で触らないようにしましょう。咬まれたり引っかかれたりした時に感染することも考慮しなければなりません。

また、動物自身だけでなく、フンから感染する可能性もあります。たとえば、タヌキやハクビシンを通じて、重症急性呼吸器症候群(SARS)に感染する可能性があります。アライグマは、狂犬病を媒介する危険性があるため注意が必要です。

すべての個体がこれらの感染症を媒介しているわけではありませんが、SARSも狂犬病も非常に致死率の高い感染症です。最大限の注意を払いましょう。

害獣対策・予防法

近年は農村部だけでなく、市街地でも野生生物の被害が増えています。市街地に現れる主な害獣は、今まではハクビシン、アライグマ、キツネ、タヌキ、アナグマなどでした。しかし、2023年頃からクマの被害が相次いでいます。農作物を守る対策と日常生活・自分の命を守る対策の両方が重要です。

柵(電気柵)・ネットを設置する|農作物を守る

柵(電気柵)・ネットを設置する|農作物を守る

農作物を守るためにネットや柵(電気柵)を設置する場合は、被害動物に合わせて高さなどを考慮しなければなりません。イノシシは1メートル程度、シカは1.5メートルほどの高さであれば飛び越えることができます。害獣が飛び越えられないように十分な高さにする必要があります。

柵の周辺の茂みを除去して、動物が隠れる場所をなくすことも重要です。さらに、イノシシやアライグマは穴を掘る性質があるため、地面と柵・ネットの隙間もしっかりとふさがなければなりません。

捕獲器・ワナを設置する|農作物を守る

捕獲器・ワナを設置する|農作物を守る

ワナを使用する場合は、狩猟免許や捕獲の許可が必要です。捕獲後もむやみに処分できません。法律や市町村の定めに基づいた方法で処分しなければなりません。害獣の捕獲を検討するのであれば、後述する害獣駆除業者に依頼することをおすすめします。

食べ物を放置しない|日常生活を守る

野生生物が出没する可能性のあるエリアでは、エサとなるものや食品ゴミを放置しないことが重要です。農地に作物を放置するのも厳禁です。放置された作物で味をしめた動物が、さらに農地を荒らすようになってしまいます。収穫後など、生育の悪かった作物は、そのまま放置せずに必ず回収して処分してください。

侵入箇所を防ぐ|日常生活を守る

ハクビシンなどの小型の害獣は、家に住み着く可能性があります。ハクビシンやイタチ、タヌキは5センチメートル程度の隙間があれば通り抜けられます。内部に入れるような隙間がないかどうか、建物の周囲をチェックしましょう。

害獣駆除業者に依頼する

害獣の捕獲には、専用のワナや捕獲器が必要です。咬まれる危険性や感染症のリスクも考慮すると、害獣を駆除する場合は、専門の業者に依頼するのが安全で確実です。

駆除業者を選ぶ際には、豊富な実績があるかどうかをチェックしましょう。せっかく業者に依頼しても、捕獲できなかったり再び害獣がやってきたりすることがないように、信頼できる業者を選ぶ必要があります。

社会全体での害獣対策

農作物被害は個別に対策するのではなく、集落単位・地域単位で行わなければ意味がありません。自分の農地での被害がなくなったとしても隣接する区画が被害を受けると、いつまでもそのエリアにとどまり、再び自分の農地にやって来る可能性があります。

地方自治体でもさまざまな形で害獣被害の対策をサポートしており、捕獲用のワナの貸し出しや、駆除費用に対する補助金交付などを行っている自治体もあります。お住まいの自治体に問い合わせてみましょう。害獣が人里に近寄れないように、地域全体で耕作放棄地を適切に管理し、緩衝地帯を設けることも効果的な対策です。

野生生物に遭遇したときの対応

もし、野生生物に遭遇してもあわてないことが重要です。動物に背中を見せないように、静かにゆっくりとその場から離れてください。背中を見せたり、あわてて逃げたりすると自分よりも弱いと判断して襲われる危険性が高くなります。

サルの場合は、目を合わせないようにしましょう。目を合わせると、サルは威嚇されていると勘違いして、目を離した瞬間に襲ってきます。

クマ対策に最も効果があるのは、クマ撃退用のスプレーです。ただし、安価な製品や容量が少ないものは、クマを確実に撃退するためには十分でないとされています。最近は安価な製品が出回っているため、注意しましょう。

最近では対人用の催涙スプレーをクマ用のスプレーとして販売しているケースもあるようです。アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が認可した製品がおすすめです。

まとめ

野生生物による農業被害・人的被害は、年々増える傾向にあります。動物と人間の生活域を隔てる緩衝地帯が減りつつあることが、その主な原因です。

農作物や生活を守るためには、害獣を駆除することもやむをえません。しかし、正しい方法で行わないと動物に襲われてケガをしたり、感染症にかかったりするリスクがあります。

法令違反とならないように注意も必要です。できれば、専門の害獣駆除業者に依頼することをおすすめします。

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