2021年1月20日 | お役立ち情報
針供養の意味や供養の方法を解説。今年の針供養はいつ?
最近、家庭で針仕事をする人は減ってきました。それでも、取れかけたボタンを縫い付けるなどの裁縫仕事は、日常生活を送るうえで欠かせないものです。
針は消耗品ですから、使っているうちに曲がったり折れたりすることもあります。そのようにして使えなくなった針を供養する「針供養」という行事をご存じでしょうか。裁縫をする方や服飾業に従事する方、和裁や洋裁の勉強をしている方なら聞いたことがあるかもしれませんが、詳しい意味を知らない方も少なくないことでしょう。
今回は、針供養の意味や供養の行われる日、供養の方法などについて解説いたします。また、針供養で有名な全国の寺社もご紹介いたします。自宅に使えなくなった針が眠っている方は、この機会に針供養をしてはいかがでしょうか。
針供養とは
針供養とは、裁縫道具の針を供養する行事であり、日本中の寺社でおこなわれています。1年のうちに使えなくなった針を供養するとともに、裁縫の上達を願う行事です。まずは、針供養の詳しい意味や由来についてご確認ください。
針供養の意味
消耗品である針は、折れ・曲がり・錆などで使えなくなります。針供養は、使えなくなった縫い針に感謝の気持ちをこめて寺社に納め供養し、裁縫の上達を願う行事です。服飾関係の仕事に就いている方や、和・洋裁を学んでいる方にとっては大切な行事です。通常、神社やお寺でおこなわれますが、和装の専門学校などでは神社から宮司を招き、針供養をおこなって裁縫技術上達を祈念するところもあります。
針供養の由来
諸説あるため定かではありませんが、中国の風習が由来という説があります。平安時代、清和天皇により針供養のお堂が建立されていることから、貴族社会ではすでに針供養がおこなわれていたと考えられます。その後江戸時代には、針をねぎらい裁縫技術の上達を願う祭りとして広がったようです。
古来、針仕事は女性の大事な役目であり、針もまた大切な道具でした。そのため、折れたり曲がったりして使えなくなった針に感謝の気持ちをこめて、柔らかい豆腐やこんにゃくに刺し、川に流したり土の中に埋めたりして供養がおこなわれました。
針歳暮の風習をもつ地域
富山県や石川県では、「針歳暮」という風習が残っています。地域によって内容に差はありますが、嫁いだ年の12月8日、お嫁さんの実家から嫁ぎ先に「針歳暮」と呼ばれる大きな大福を贈るのがその風習です。ここには、「娘をよろしくお願いします」という親心がこめられているといわれます。
針供養の方法
現在の針供養は、寺社に納めて供養してもらう方法が一般的ですが、自宅で針供養をすることも可能です。針供養の方法について解説いたします。
神社やお寺に納める
使えなくなった針を、神社やお寺に納めて供養してもらいます。寺社によってやり方が異なり、本殿前に置かれた豆腐やこんにゃくに針を刺して自由に参拝できる寺社もあれば、受付後に本殿で祈祷を受ける寺社もあります。また、事前に申し込みの必要な場合や、供養する針を郵送でも受け付ける寺社もあります。前もって、ホームページなどでご確認ください。
自宅で針供養をする方法
自宅で針供養をすることも可能です。豆腐かこんにゃくを用意し、古くなった針を刺して神棚か仏壇に上げて供養します。供養後は、針を刺したまま自宅の庭に埋め、最後に清めの塩を振っておきます。
針供養に豆腐やこんにゃくを使う理由
針供養には、豆腐やこんにゃくを使う方法が一般的です。なぜ豆腐とこんにゃくなのか、不思議に思った方もいるのではないでしょうか。豆腐とこんにゃくは、どちらも柔らかい食品です。今まで硬い布地を縫い続けてくれた針に、「最後は柔らかいところで休んでください」と労をねぎらう意味がこめられています。
針供養の日
針供養は、2月8日か12月8日におこなわれます。基本的には東日本が2月8日、西日本が12月8日であるケースが多いようですが、西日本でも2月8日におこなう寺社もあります。なかには両日ともおこなう寺社もありますが、一般的にはどちらか一方のみのようです。
2月8日と12月8日は事八日
針供養がおこなわれる2月8日と12月8日は、古くから「事八日(ことようか)」と呼ばれてきました。「事八日」は、事をはじめたり納めたりする日です。この日には、お世話になった道具に感謝する風習があり、その中でも代表的な行事が針供養なのです。両日は、物忌み日としてつつしみをもって過ごし、針仕事はお休みしたことから、針供養の風習が生まれたとされています。
地域によって針供養の日が異なる理由
事八日の2日は「事始め」「事納め」と呼ばれます。「事」とは祭りを意味する言葉で、事始めと事納めはコトノカミという神をまつるお祭りです。
コトノカミを「年神様」と「田の神様」のどちらととらえるかによって、事始めと事納めの日取りは異なります。年神様をまつる場合は、正月行事をはじめるのが12月8日(事始め)、後片付けを済ませるのが2月8日(事納め)です。また、田の神様をまつる場合は、田植えの準備をはじめるのが2月8日(事始め)、その年の農作業が終わるのが12月8日(事納め)です。
このように、地域によって事始めと事納めのとらえ方が異なるため、針供養の日もまた異なるのです。
針供養がおこなわれる全国の寺社
針供養は、淡島神(あわしまのかみ)をまつる淡嶋神社や淡島堂を中心に、全国的に催されている風習です。ここでは、針供養がおこなわれる代表的な寺社をご紹介いたします。開始される時間帯はそれぞれ異なりますので、参拝する方は事前に寺社のホームページなどでご確認ください。
淡嶋神社(和歌山県和歌山市)
和歌山市加太にある淡嶋神社は、全国の淡島神社・粟島神社の総本社です。御祭神の少彦名命が裁縫の術を世に広めたことが起源といわれます。2月8日の針供養では、納められた針を本殿にてお祓いし、針塚に納めて塩をかけ、土に返して労をねぎらいます。
浅草寺 淡島堂(東京都台東区)
浅草寺の境内には江戸時代に淡島堂が建立され、淡島明神の功徳を説き歩いた淡島願人の影響により、針供養が盛んになったといわれます。2月8日には多くの女性が集まり、大きな豆腐に針を刺して供養します。
正受院(東京都新宿区)
東京の正受院では、昭和32年に東京和服裁縫協同組合が針塚を建立して以来、毎年2月8日に針供養がおこなわれます。正受院の針供養は、とても華やかで見どころが多く、たくさんの方が参拝に訪れます。まずは本堂と針塚に甘酒献上、それから集まった針を土の中に埋めて供養する納針の儀、奪衣婆尊を小さくした像をお厨子にまつり、華やかな装束を着た女性が担いでお寺を一周する花見堂行列がおこなわれます。その後和裁を習う女性が針塚の前で百味香を供え、本堂での大法要という流れです。本殿前には大きな豆腐が置かれ、参拝者が針を刺して供養します。
荏柄天神社(神奈川県鎌倉市)
鎌倉市の荏柄(えがら)天神社では、使い終えた針の霊をねぎらうとともに裁縫技術の上達を願って、2月8日に針供養がおこなわれます。賽銭箱の前に、鎌倉のお豆腐屋さんに特注した柔らかい絹ごし豆腐が置かれ、参拝者は針を刺して供養します。供養に納める針の種類や本数に制限はありませんが、豆腐に刺すのは一人一本までです。
若宮八幡社(愛知県名古屋市中区)
名古屋の総鎮守・若宮八幡社では、2月8日に針供養がおこなわれ、1年間使った古い針を供養します。神御衣神社と針塚前で神事がおこなわれた後、参拝客が豆腐やこんにゃくに針を刺して、針への感謝と裁縫技術の上達を願います。針供養には、豆腐とこんにゃくの両方が使われます。神御衣神社は境内にある末社のひとつで、縁結びのご利益がある神社です。裁縫の上達が恋愛成就にも結び付くということで、神御衣神社で針供養がおこなわれているそうです。
太平寺(大阪府大阪市天王寺区)
十三まいりのお寺として知られる太平寺では、2月8日に針供養がおこなわれます。太平寺には、昭和62年に針塚 ・筆塚 ・茶筅(ちゃせん)塚が建立されました。針供養と合同で筆供養 ・茶筅供養もおこなわれ、道具に感謝し諸芸上達を願います。
法輪寺(京都府京都市西京区)
法輪寺の針供養は、平安時代の清和天皇が針堂を建立し、皇室の針を供養するように命じたことが始まりといわれ、2月8日と12月8日の両日おこなわれます。まず本堂で僧侶による読経などの仏事がおこなわれ、その後に日本舞踊・織姫の舞が奉納されます。それから五色の糸を巻いた長さ30cmの大針をこんにゃくに刺して供養します。
幡枝八幡宮 針神社(京都府京都市左京区)
幡枝八幡宮の末社・針神社は、日本で唯一針をまつる神社です。針神社では、12月8日に針供養祭りがおこなわれます。まず本殿で祝詞奏上などの神事がおこなわれ、それからこんにゃくに針を刺して供養し、玉串を奉納します。京都本みすや針組合からのあいさつのあと、参拝者にはお神酒や記念品の授与があるようです。
まとめ
針供養は、使えなくなった針に感謝の念をこめて供養し、裁縫の上達を願う行事です。最後は柔らかい豆腐やこんにゃくに刺して、頑張って働いた針の労苦をねぎらう風習には、物を大切にする温かい心や優しさが感じられます。
2021の針供養は2月8日、12月8日の予定です。時節柄、行事が実施されるかどうかを事前に確認のうえ、供養の時間帯を確かめてから参拝するようにしましょう。道具に感謝し、物を大切にする心をもち続けようと改めて実感できる日となることでしょう。
また、この日を自宅で迎える方も、先述の「自宅で針供養をする方法」を参考にしながら、道具への感謝と一層の技術向上を願う穏やかな一日をお過ごしください。