ジカウイルス感染症(ジカ熱)予防のポイント!何が危険でどう防ぐのかを解説

ジカウイルス感染症(ジカ熱)予防のポイント!何が危険でどう防ぐのかを解説

2015年5月ブラジルなどの中南米諸国でジカ熱が流行し始めました。この事態にWHOを始め、多くの国際機関、各国の保健衛生機関は渡航制限や帰国の際の保健衛生の通達を出すなど対応に追われることになったのです。

その後、北アメリカ大陸、カリブ海諸国から太平洋を超えてシンガポールと感染域を広げました。2016年に入り、WHOはこの流行に対して、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言することになります。

これを受けた日本の厚生労働省も妊婦に対して中南米14カ国への渡航について慎重に検討するようにとの呼び掛けを行うことになりました。一部ではこの流行をパンデミック(世界流行)と捉える見方もあって、世界的な大問題と考えられるようになったのです。

では、ジカ熱とはどのような感染症なのでしょうか。

ジカ熱とはどのような感染症?

ジカ熱は1950年代後半アフリカ中部、東南アジアなどの低緯度地域で確認された感染症で、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカを、宿主とした、蚊媒介の感染症です。これらの蚊はデング熱や黄熱と同じで、温暖化を言われる昨今の気候状況から日本での存在が確認されることもあります。

潜伏期間は数日から1週間ほどです。主な症状は軽度の発熱、結膜充血、筋肉痛、関節炎、頭痛、斑点状丘疹などです。発症後、4日から1週間で症状は終息します。

麻疹(はしか)や似た傾向のある感染症と言われるデング熱に比べても症状は軽く、入院するような重症化の心配もありません。確かに、多くの感染症と同じく、ワクチンの製造もできていませんし、発症すると対処療法で対応するしかないのは確かです。

そうは言っても、致死に至ることもほとんどありません。何より発症率が20%~40%とほかの感染症と比べても高いわけではないのです。

発症率も高いわけでなく、症状も軽いそんなジカ熱が、なぜそれほどまでに恐れられることになったのでしょうか。

ジカ熱の症状

ジカ熱に感染したかどうかに対して国際的に過敏になっている理由としてあげられるのが、実はジカ熱の発症率なのです。

ジカ熱の発症率は20%~40%で、感染症としては高い方とは言えません。ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの媒介虫に刺されて、ジカウイルスに感染、体内で増殖したジカウイルスの毒素によって発症してしまっても、5人に1人から多くて2人程度の発症なのです。

症状も先に報告のとおり、数日間発熱、頭痛、筋肉痛に襲われて完治してしまいます。入院はおろか、数日寝込んでいれば見事に体力を回復していきます。また生命の危険を感じさせるほどの症状は見られないのです。

うっかりすると風邪をひいた、疲れがたまって体調を崩したといった程度の症状なのです。だから、病気だと感じたり、何より「ジカ熱を患った」という意識を持つ人すら少なく、何より60%~80%の人は、全く症状が出なかったのです。

しかし、ジカ熱を発症しなかった人々も、ジカ熱の感染者です。ジカウイルスはネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊を通じて、彼らの体内にも侵入しています。ジカ熱に感染した感染者は、抗体がウイルスを撃退するまで体内にジカウイルスをキャリアする(持つ)ことになります。

ジカ熱の胎児への影響

妊婦のジカ熱の感染

ジカ熱の感染症としての恐ろしさは発症後の症状だけではないのです。むしろ、症状が消えてから問題があるのです。

その最も関連性を疑われているのが母子感染です。ジカ熱のウイルスは妊婦の場合、母子感染を引き起こし、胎児に遺伝子異常を引き起こすことが数多く報告されているのです。母体がジカ熱のウイルスに感染すると、胎児の染色体や遺伝子に異常をきたす事例が数多く報告されています。

ジカ熱に感染してしまったことが原因とされる胎児の症状は小頭症です。小頭症は胎児の脳が母体の感染症罹患などにより、遺伝子異常などを引き起こし、頭部が十分に成長できなくなってしまう先天性の病気です。出産後の子供の成長にも大きな影響を与えます。 
もう一つが小眼症です。小眼球症は、胎児の眼球が十分に成長できず、生まれてくる先天性の眼球病です。眼球が小さいため視力が全くないか、あってもかなり弱いため、出生後に失明する可能性が高いのです。

この他にも成人がギランバレー症候群を引き起こす症例が報告されています。ギランバレー症候群は急性・多発性の根神経炎の一種で、筋肉を動かす運動神経に発生して身体に力が入らなくなる病気です。重症の場合、呼吸不全まで発症して死に至ります。

ギランバレー症候群は感染症を発症した患者やインフルエンザの予防接種のあとに引き起こされる症状です。ジカ熱ばかりが原因とは言えません。しかし、これらの病気の遠因になると考えられるため、感染の拡大には多くの国際機関や国家、公的機関が神経質になったのです。

特に妊婦のジカ熱の感染には特別な注意が必要なのです。さらに、ジカ熱と似た症状の感染症として、レプストスピラ症、マラリア、風疹、麻槇など似た症例の病気も多く、診断が難しいのです。妊婦の方々だけでなく胎児の健康状態への影響が気になる複雑な病気でもあるのです。

ジカ熱の本当に厄介なところ

ジカ熱感染者が感染症の媒介をする蚊に刺されるとその蚊はジカ熱の宿主となってほかの人々にジカウイルスを感染させることになります。ジカ熱は病気としての症状は強くありません。

感染症としては大きな恐ろしさを感じる病気ではないのです。しかし、ジカ熱は立派な感染症です。そのウイルスは母子感染してお腹の中にいる胎児に染色体等の異常を引き起こします。

つまり、ジカ熱は自分がいつジカ熱に感染したかわからないうちに感染し、感染者が妊婦だった場合、その胎児に大きな影響をもたらす可能性を秘めた感染症なのです。

出産を控えた女性は元気な我が子の出産を祈って毎日健康に留意しながら胎児の発育を見守ります。そんな中で、いつの間にか蚊に刺されて感染していたジカ熱のウイルスによって、知らないうちに母子感染していることもあるのです。

同じことは家族の人たちにも言えます。自分たちは発症すらしていなかったのに、生まれてくる赤ちゃんに先天的な異常が発生していた。よく調べてみたらジカ熱に感染していた。そんな恐ろしさを持った感染症がジカ熱なのです。

ジカウイルスの感染拡大

ジカ熱はもともとアフリカ中部や東南アジアなど低緯度熱帯地域を中心に、同じ感染症の蚊媒介でより重症化するデング熱と近親といわれていました。デング熱より感染域も狭く、比較的軽症なジカ熱が感染域を広げているのには様々な要因が上げられています。

最も大きな要素は航空機などの発達による交通事情です。そこに地球温暖化に伴う、媒介虫であるネッタイシマカやヒトスジシマカの生息域の拡大。そこに感染域の発展途上国の抱える衛生環境が加わりました。

そこに発症率が低く、いつの間にか感染してしまう傾向のジカ熱は感染域を広げてしまう要素をいくつも持っていたのです。そしてなにより、蚊以外でも接触感染やsex、輸血などでも感染が広がる感染のしやすさがあります。また、友人たちとの親しげな身体接触などでも感染の可能性はあります。

多くの国際的、公的保健機関がパンデミック(世界的流行)の抑止を目指して、様々な通達や渡航注意などの通達を行ったのにはそんな思惑があったのではないかと考えられています。

ジカ熱パンデミックと各国の対応

ジカ熱パンデミックと各国の対応

ジカ熱の流行は2015年ブラジルを始めとする中南米の地域で流行の拡大を見せ始めました。PAHO(パンアメリカン保健機構)は2015年5月中南米のジカ熱感染注意喚起を行いました。この後、ブラジルでは小頭症の新生児の報告が相次ぎ、感染域も南米各地へと広がりました。

ブラジルでは2015年9月から2016年1月までの間、新生児の中に4180人の小頭症の新生児が生まれ、そのうち68人が死亡しました。これらの状況を受け、2015年PAHOは2015年12月1日警告を発し、感染拡大への注意を促します。

2016年1月に入り、ニュース報道などによりこの事態が世界的に報道され、それぞれの公的保健衛生機関が中南米14カ国への妊婦の渡航の検討を促し始めました。やがて、2016年1月28日PAHOはWHO(世界保健機構)理事会での警告を呼びかけています。2月1日にWHOはジカ熱について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。そしてWHOは3月8日妊婦の流行地域への渡航禁止を勧告しました。

特にブラジルで行われる2016年2月のリオのカーニバル、8月のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの際の渡航について、注意喚起が行われました。これらの事態にブラジル政府も大半の州にウイルス検査施設を設置、対応に努めています。

日本の厚生労働省は2016年1月妊婦に対して中南米14カ国への渡航について慎重に検討するように呼びかけました。厚生労働省管轄の国立感染症研究所も「可能な限り妊婦の流行地への渡航は控えたほうがいい」とする考えを明らかにしています。これらの事態を受け厚生労働省はジカ熱に対して、感染症法上届け出の必要な第4種感染症に指定することにしました。

リオのカーニバル、オリンピックなどブラジルを中心とする中南米諸国への渡航の機会が増えるこの時期にこれだけの注意喚起が行われたことは事実上、ジカ熱がパンデミックとして扱われたといっていい十分な条件と言えるでしょう。

なお、2016年7月現在厚生労働省発表の流行感染国・地域は以下のとおりです。

厚生労働省発表の流行感染国・地域

中南米・カリブ海域

アンギラ、アルゼンチン、アルバ、バルバドス、ベリーズ、ボリビア、ボネール、ブラジル、コロンビア、プエルトリコ、コスタリカ、キューバ、キュラソー島、ドミニカ国、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギニア、グレナダ、グアドルーブ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジェラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、サン・バルテルミー島、セントルシア、セント・マーティン島、(仏領サン・マルタン及び蘭領シント・マールテン)、セントビンセント及びグレナーディン諸島、スリナム、トリニダート・トバゴ、米領バージン諸島、ベネズエラ

オセアニア太平洋諸国

米領サモア、フィジー、ミクロネシア連邦コスラエ州、マーシャル諸島、ニューカレドニア、パプアニューギニア、サモア、トンガ

アフリカ地域

カーボベルデ

アジア地域

タイ、フィリピン、ベトナム

ジカウイルスの予防のポイント

ジカウイルスはワクチンなどの治療薬が開発されていないので、感染を防ぐには蚊に刺されないことが第一です。日本にもジカ熱を媒介するヒトスジシマカは存在します。蚊のいそうなところに出かけないといけないときは、長袖、長ズボンなどできるだけ肌の露出は避け、白など薄い色の服を身につけてください。蚊は色の濃いものに近づく傾向があります。また、虫除けスプレー、蚊取り線香などを使って蚊を寄せ付けない工夫も必要です。
止むを得ず渡航することになった人は帰国後、以下のことに注意してください。

まず、帰国時に軽度の発熱などジカ熱を疑われる症状が出た時には空港や港湾の検疫官に速やかに相談してください。

流行地域から帰国した人は症状の有無にかかわらず、最低2週間は蚊に刺されないように注意してください。体内からジカウイルスが完全になくなるまでの期間です。さらに、流行地域から帰国した男性はジカ熱の症状の有無にかかわらず、最低8週間は性行為を控えるか、性行為の際は必ずコンドームを使用してください。これはジカウイルスが体内から完全に抜けきって、ウイルスによる胎児への影響が完全になくなるまでに必要な期間です。同じく流行地域から帰国した女性は最低8週間妊娠を控えてください。

そして帰国後、空港や港湾でジカ熱感染者を発見するための検査が行われているときはできるだけ協力してください。

まとめ

ジカ熱の流行はパンデミックといっていいほどの対応を迫られています。感染症の流行への対応は流行する感染症によって様々です。対象の感染症の特徴をよく知って、的確な対応を心がけることを忘れてはいけないのではないでしょうか。

昨今の医学の発展により私たちは感染症についての多くの知識を得るようになりました。だからこそより正確な情報を入手し、冷静に対応できるようにならなくてはいけません。それが長く感染症に悩まされてきた先達に、現代を生きる私たちが報いることでもあるのではないでしょうか。

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