蚊を介して感染する感染症について

デング熱、ジカ熱、ウエストナイル熱、チクングニア熱、黄熱病、日本脳炎、マラリアなど、昔からあるものから、近年大流行してその名を広めたものまで、日本の行政機関が注意対象にしている蚊を媒介とする7つの感染症について紹介します。

デング熱

デング熱

デング熱はデングウイルスが原因の感染症です。18世紀には文献で確認され、20世紀初頭にはウイルスに起因することが分かりました。

第2次大戦以降感染域を広め、東南アジアや中南米を中心に世界110ヶ国以上で風土病とされています。毎年5000万人〜1億人が感染していると言われ、約50万人が入院。

そのうち70%がアジアで、特にインドは世界の感染者の34%を占めます。2014年の夏、日本でも国内での感染が確認され大きな話題になりました。

感染経路 主にヤブカ、とりわけネッタイシマカによって媒介
潜伏期間 2〜15日
発生地域 東南アジアや中南米を中心に世界110ヶ国以上

<症状>

突然の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹に襲われます。子供の場合、風邪や胃腸炎と似た症状になります。発熱は40度以上になることも頻繁で、赤班が現れたり、麻疹のような発疹が現れたり鼻や口の粘膜から出血に至ることもあります。

<予防・治療法>

ワクチンなどの開発は進んでいませんが、基本的に安静にして対処療法していれば、1週間〜10日のうちに症状は沈静化します。

重症化することはほとんどなく、致死率も1〜5%ほどです。きちんと治療できればこの数字はさらに下がると言われています。罹患により、ウイルス性脳炎、臓器の障害などなどを引き起こし、横断性骨髄炎、ギラン・バレー症候群など合併症の併発など、付随する病気についても十分な注意が必要です。

<その他>

ほかの感染症に比べ乳幼児が重度の疾患に至ることが多いため注意が必要です。

デングウイルスには4つの類型が確認されています。一つの類型には終生免疫を獲得できますが、ほかの累計に感染すると短期的な免疫しか獲得できず、異なる類型のデング熱に連続して感染することもあり、その場合は重度の合併症を発症してしまいますので、特に注意が必要です。

ジカ熱

ジカ熱

ジカ熱はジカウイルスによって引き起こされます。2015年、アメリカで流行した際には、疾病予防管理センターは産婦の危険情報の出た地域への渡航延期勧告が発表され、にわかに注目されることになりました。

この時、感染域は太平洋をまたいで南米、中米、カリブ海諸島、シンガポールへと広がりました。

感染経路 ネッタイシマカ、ヒトスジシマカによって媒介
潜伏期間 数日〜1週間ほど
発生地域 1950年代後半アフリカ中部のナイジェリア、アフリカ中部など、東南アジア、低緯度、熱帯地域

<症状>

結膜充血、筋肉痛、関節痛斑点状丘疹なども見られますが、発熱などを始め現れる症状はデング熱に比べて軽いことがほとんどです。

<予防・治療法>

現在有効な薬剤やワクチンの開発が進んでいないので、発症した場合、痛みや発熱、かゆみ等への対処療法で回復を待つことになります。症状も4〜7日間で終息します。入院が必要なほど重度化することは少なく、ジカ熱を原因とする死亡者もほとんどありません。

しかし、母子感染を引き起こす可能性が高く、胎児の小頭症や小眼球症を引き起こすことがあるため、妊婦の感染には特別注意が必要です。また、デング熱以外にもレプトスピラ症、マラリア、風疹、麻槇など、似た症例の病気が多く、診断が困難な点が指摘されています。

<その他>

2016年2月にWHOはジカ熱の流行について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。一部ではパンデミック(世界的流行)との見方もあります。この事態に日本政府もジカ熱を感染症法の第4種感染症に指定し、対応を迫られることになりました。

厚生労働省はジカ熱の流行域に旅行を控えることを推奨し、渡航した人たちに対しても、最低でも2週間、症状の有無によらず、虫除け剤などで蚊に刺されることを防ぐよう呼びかけるとともに、さらに性行為でも感染の危険があるため、パートナーに対して最低4週間妊娠させないよう呼びかけました。

ウエストナイル熱

ウエストナイル熱

ウエストナイル熱はウエストナイルウイルスによって引き起こされる流行性の脳炎です。1937年アフリカのウガンダ、その名の通り西ナイル地方で最初に分離されました。現在ではアフリカ以外に、オセアニア、北アメリカ、中東、中央アジア、ヨーロッパと感染領域を広げ、近年北米で大量の感染者を出しています。

感染経路 鳥の血液を吸ってウイルスに感染したイエカやヤブカによって媒介
潜伏期間 2〜6日
発生地域 1950年代後半アフリカ中部のナイジェリア、アフリカ中部など、東南アジア、低緯度、熱帯地域

<症状>

感染者の20%ほどが発熱や頭痛、筋肉痛、関節痛、食欲不振などを引き起こされる症状はデング熱と似ています。皮膚発疹が半数ほどに認められ、リンパ節腫脹を合併したりしますが、発症期間は短く、1週間ほどで回復します。

また、1%未満ですが一部に重症の脳炎、髄膜炎を引き起こすこともあります。激しい頭痛、高熱、方向感覚の欠如、震え、麻痺、昏睡などを引き起こし、この場合死に至ることもあり、慎重な対応が必要です。

致命率は重症患者の3~15%。アメリカのデータによると、重症化すると筋力低下を伴う脳炎が40%、脳炎が27%、無菌性髄膜炎が24%の割合です。50歳以上の高齢者に重症化する患者が多いのが特徴です。

<予防・治療法>

有効なワクチンの開発は進んでおらず、対処療法で回復を待つしかありません。予防法は蚊に刺されないようにするだけなのです。

<その他>

2005年のアメリカでは3000人の発症者があり、119人の死者が報告されています。この年カリフォルニアからの帰国者がウエストナイル熱患者と診断され日本でも初めて診断されました。

チクングニア熱

チクングニア熱

チクングニアウイルスにより発症するネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどが媒介する感染症です。1953年タンザニアで初めて分離。当初アフリカやアジアの一部で流行が認められましたが、近年コモロ諸島やインド洋諸島、インド、スリランカでの感染も確認され感染地域の拡大が懸念されています。

「チクングニア」とは現地の言葉で「前かがみになって歩く」という意味で、発症した時の関節痛の激しさからそう命名されました。

感染経路 ネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどによって媒介
潜伏期間 3~7日
発生地域 1950年代後半のアフリカ中部のナイジェリア、アフリカ中部など、東南アジア、低緯度、熱帯地域

<症例>

40度以上の発熱と関節炎が特徴で発疹も8割ほど見られます。発症の特徴はやはりデング熱と似ています。そのほか頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、悪心、嘔吐、出血傾向も見られます。

発熱や関節痛は5日~7日ほど継続します。関節痛は対称性で現れます。手首、足首、指趾、膝、肘、肩の順に多い傾向があります。関節の炎症や腫脹を伴う場合はさらに長期にわたることもあります。

小児、特に新生児では嘔吐、下痢、脳髄膜炎などを発症することもあります。神経性の網膜炎やぶどう膜炎などを合併することもあり、重症化しますが、その後安定します。網膜炎も回復すれば視力も回復します。

<予防・治療法>

致命率は0.1%と低いですが特効薬がないため対処療法を行います。関節痛などには鎮痛剤を使い、軽い運動や理学療法などで対処します。また若い患者ほど回復が早い傾向が有ります。若者は5~15日で回復しますが、中年は1~2.5ヶ月にも及ぶことがあるため注意が必要です。

<その他>

関節の痛みは長引くと完治まで2年もかかることがあるので気をつける必要があります。また、妊娠中の感染は重症化につながりませんが、母子感染の確率が50%程度あるので注意が必要です。

黄熱病

黄熱病

黄熱はネッタイシマカなどにより媒介される伝染病で、重症患者に黄疸が見られることから黄熱と呼ばれています。感染者は黒色の嘔吐を繰り返すことから「黒吐病」とも言われます。

感染経路 ネッタイシマカなどによって媒介
潜伏期間 3~6日
発生地域 熱帯アフリカと中南米の国土病で、北緯、南緯とも15度以内の低緯度地域

<症例>

突然の発熱、頭痛、背部痛、虚脱、悪心、嘔吐などを発症します。3~4日で一旦軽快し、そのまま回復することもあります。しかし、重症化するときは数時間から数日中に再燃してしまいます。再び発熱から、肝機能障害、鼻や歯根からの出血、黒色嘔吐、下血、黄疸、子宮出血などに襲われます。

<予防・治療法>

特効薬はなく、発症したら対処療法のみに頼るほかありません。致命率も30%~50%と非常に高いです。アフリカでは2013年に13万人が感染し、78000人が死亡したという報告がありました。一度、罹患すると免疫は形成されます。また、ワクチンによる予防も可能です。

<その他>

野口英世が黄熱病の研究に取り組みながら、志半ばで発症して死亡したのは有名な逸話です。その後、南アフリカ出身の微生物学者マックス・タイラーが黄熱ワクチンの開発に成功して1951年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。黄熱病との戦いは長く人類にとっての大きな課題なのです。

流行地域では入国に際して公的機関発行による国際予防接種証明書(イエローカード)を求めることがあります。予防接種は副作用を懸念する報告もありますが、感染地域への入国に際してはWHO(世界保健機関)も、入国当国も予防接種を勧めています。

黄熱病の感染リスクを考えれば、感染地域への入国の際、予防接種は必須と考えるべきでしょう。 

日本脳炎

日本脳炎

日本だけでなく東南アジア領域に広く分布する感染症で、病原体としてはウエストナイルウイルスやセントルイス脳炎ウイルス、マレーバレーウイルスなどと類似しています。

日本脳炎の感染者の発症率は低く、0.1%~1%と考えられています。しかし一旦発症すると致命率は30%ととても高い感染症です。

感染経路 日本脳炎ウイルスを保有したコガタアカイエカに刺されることで感染。感染源はブタでウイルスを持つブタの血液を吸った蚊に刺されることで感染。ヒトからヒトへの感染はなし。
潜伏期間 6~16日
発生地域 東南アジアを中心に西太平洋諸島、オーストラリア北部など

<症例>

発症すると高熱を発して痙攣、意識障害に陥ります。ウイルス性の疾患なため、対処療法しかなく抗生物質も効果がありません。致命率が高いだけでなく、発症すると半数以上が脳に障害を受け、麻痺などの重篤な後遺症が残ることで知られています。

<予防・治療法>

日本脳炎はワクチンによる予防接種が可能です。日本政府は1960年代後半から70年代にかけて小児から高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種を行った結果、患者数が年間1000人程から劇的に減少。日本脳炎のワクチン接種が定期接種になったこともあり、2013年には9人にまで減少しました。

<その他>

世界では東南アジアを中心に西太平洋諸島、オーストラリア北部などで患者の発生が報告されています。その数は2011年現在、年間68000人最大で20400人の死亡が推計されている状況です。

厚生労働省では日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査したところ、「日本脳炎ウイルスを持った蚊は毎年発生しており、引き続き国内でも感染の可能性がある」という見解を発表して注意を呼びかけています。

また、ワクチンも最終予防接種から年を経ると抗体価が低下することも指摘されています。このため1980年代生まれの抗体保有率の低い世代を中心にさらにワクチンの再摂取の必要を説く見解もあります。 

マラリア

マラリア

マラリアは熱帯から亜熱帯に広く分布する感染症です。マラリアの病原体であるマラリア原虫は、ハマダラカなどの昆虫の中で有性生殖を行い増殖します。ハマダラカで増殖したマラリア原虫は吸血生物の唾液腺に集まる傾向があり、吸血の際そこから唾液とともにヒトなどの体内に送り込まれます。

体内に入ったマラリア原虫はすぐに肝細胞に取り付き1~3週間かけて増殖。やがて肝細胞を破壊して赤血球に侵入。赤血球内でさらに増殖してこれを破壊。ほかの赤血球に移る。これを繰り返すうちに激しいマラリアの症状が繰り返されることになります。

感染経路 病原体はマラリア原虫。ハマダラカによって媒介。マラリア原虫は寄生性原生動物で、脊椎動物の赤血球内に寄生して無性生殖を行い増殖。
潜伏期間 1~3週間
発生地域 アフリカ大陸の南部、アジアや南太平洋諸国、中南米の熱帯地域など

<症例>

高熱や頭痛、吐き気などの症状繰り返し、患者の体力を奪います。悪性の場合は脳マラリアによる意識障害や腎不全などを起こし、死に至ります。

WHOによると現在でも毎年2億人以上が罹患して、200万人余りが死亡する感染症です。死亡の例はほとんどがアフリカ大陸の南部で5歳未満の小児ですが、アジアや南太平洋諸国、中南米の熱帯地域での流行が確認されています。

<予防・治療法>

マラリア流行地へ渡航する際は、抗マラリア薬の予防内服を行うことが望ましいとされています。マラリアにかかったときはマラリアの治療薬を投与します。

<その他>

マラリアも病気の原因や治療法などの研究で4人のノーベル賞受賞者を出すほど、人類にとって大きな課題の病気です。

日本でもかつては日本土着のマラリアが各地で流行していましたが、戦後衛生環境の改善に努めたことなどもあり、現在は流行していません。

しかし、地球温暖化や自然災害などで環境が変わり、再び流行することも考えられます。

感染症との戦いは人類の歴史そのもの

感染症との戦いは人類の歴史そのものです。病気から解き放される社会を求めて衛生環境の整備が進んでも、その度に新しい病気との戦いが待っています。そのため、少しでも多くの知識を集めておきたいものです。

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